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二十八話 復興。

 それは皆がサトーの元に集まり、回収しようとしている時だった。


 リーシャとロザリーが、ニ人がかりでサトーを担ぎ上げようとしている。


 だが、持ち上げた所でペトラが二人を制止した。

「ちょ、ちょっと待つのです二人とも。い、いや、良いのですが、背中のそれに気づいていますか?」





 どうもペトラは喋り方を作っている節がある……稀にまともな――と言うか、大人びた言葉遣いになっている事がある。本人は気付いているのだろうか。



 普段から聴き慣れている「なのです調」が消えているのだ。作っている喋り方であれば、子供扱いされるのを嫌がる割に、実は幼く見られるのが好きだったりするのかも知れない。




 二人は荷馬車の上にサトーを下ろし、その背面を覗いた。


「あ……うん。何にもない訳はないって、思ってはいたの。確か段階を踏むって言ってたわよね。分かってはいたけど実際に見ると怖いわね……そのうち……」


 リーシャは自分の想像を口にしようとして、見るのをやめた。


 だが、その想像に似たような表現をロザリーが言葉にした。

「――まるで侵食されているみたいに……」




「…………」


 その言葉に全員が押し黙る。サトーの右前腕部分にあった小さかった紋様が這うように伸び、背中にまで広がっていたのだ。



 ククルとテッサが怯えている事に皆気づいたが、どう話すべきなのか迷い、何も言えずにただ出発の準備をしている。






「なぁ……その……サトーは人間じゃないのか?」

 聞く事を躊躇ったのか、少し口ごもりながらククルがみんなに聞こえるように問いかけた。




 テッサはサトーの背中を見ただけだが、ククルは違う。リーシャと共にあの場所で、あの姿を見ている。


 あの姿を思い出したせいだろうか、全身の毛が逆立っている。心なしか震えている様にも見える。




「二人ともよく聞いて。特にククル。サトーは紛れもなく人間よ。――そうなんだけど、なんていうか、今はあなた達に説明ができない訳があるの。ごめんなさい……でも私達に害を成す存在じゃないわ、決して。それだけは信じて欲しいの。」


 まるで自分に言い聞かせる様に、リーシャは強く言った。



「……うん。分かってる。サトーは僕を守ってくれたんだ。分かってる……うっうっ――」

 ククルは泣き出してしまった。自分が軽い好奇心で馬車を抜け出したせいで、サトーが死にかけたと思い、幼いながらに自分を責めているのだろう。



 実際あの状況ではククルが居なくても、同じ様な展開になったかも知れないが、ククルにそんな事はわからない。



 テッサはそんな兄の姿を見て戸惑っている。普段から偉そうに兄貴風を吹かしまくっている兄が、弟の目の前で堂々と泣きべそをかいているのだ。

 どうしたらいいか分からないといった顔で、キョロキョロと落ち着かない様子だ。



「自分を責めてはいけません。ですが、同じ事を繰り返さない様に反省しなさい。そして学び、強くなりなさい。」

 ロザリーが腰を屈め、ククルの頭を優しく撫でる。



「将来ククルに守ってもらうのが楽しみなのですよー!」


 皆に励まされてようやく、泣くのをやめたククルに少しだけ笑顔が見えた。






 そして肝心の佐藤さんは、また夢の中で悪魔と対話していた。

「うぉっ!……た、たけしか?たけしだよな?たけしならイエスと言えっ!」

 余りに近距離で顔を覗かれていた為、心臓が爆発しそうになった。この顔は何度見ても慣れる事は無さそうだ。



「命を救ってやったと言うのに、失礼な反応だな。全く。」

 悪魔はボソッと愚痴をこぼしながら床の間に座る。



「命を救った?死にかけたのか俺?」

 猛毒を浴びて、痛みを感じるよりも早く意識が飛んでしまったのだろう。毒を浴びた事すら理解できていないかもしれない。




「あぁ、毒龍のブレスでドロドロのドロになってたよ。俺が表に出なかったら確実に逝ってたね。」




 ――思い出した。ククルを庇ったんだ。



「あいつは無事だったか?怪我は?」

 自分の身体よりも先にククルの身を案じた。

 守れていなければ無駄死にのようなものだ。いや、こうして生きているのだが。




「あの獣人か?どっかのお人好しのお陰でな。ったく、録画したビフォーアフター観てたのに邪魔しやがって。お前が死んだら俺まで消えちまうかも知れないんだからな!気をつけろよ。」



 いや、それくらい良いだろうよ!てか、録画ならいつでも観れるだろうよ!



 テレビ番組と俺どっちが大事なんだ!……




 ――いや自信ねぇな。やめとこ。


 面白いもんなあの番組……


 はぁ、まぁいいか。


 佐藤さんはテレビ番組以下の立ち位置に少しガッカリして俯く。



「ん?腕の紋様が大きく……なり過ぎじゃね?これ何段階よ?」

 佐藤さんは見えない背中を必死に、見ようと体をくねらせた。



「ん?あー。知らん。」

 悪魔ことたけしは、テレビを見たままそっけなく答える。



「いやいやいや!知らんはないだろ!段階踏んで力がどうたらって言ってたよなー!?俺のビフォーアフターも見てくれよ頼むから!たけし!?ねぇ!たけ――」

 佐藤さんは、ジリジリと近づきテレビを隠す様にしてたけしに迫る。



「だあぁぁっ!分かったよ!何度も名前を呼ぶな!鬱陶しい!」

 悪魔の嫌がる姿を見るのもおかしなものだ。



「ちょっと背中みせろや――あー。なるほどな。このくらいな。」

 そう言って、また悪魔はテレビを見だした。



「……」

 佐藤さんは、この不明な間に困惑しつつも少しだけ、その言葉の先を待った。



「いやな?言葉にする事は簡単な事だ。実は進行具合など見るまでもなく、俺には分かっている。だけど世の中には知らない方がいい事とか、為になる事もあんだよ。それ故に――」



「おい、お前まさかわからねぇんじゃねぇだろうな。」


 佐藤さんは神の情けない姿を思い出した。まさかこいつも実は何にも分かりませんと言い出すのではなかろうかと。




「――へぇ!?わ、分からない訳ないだろう?だ、黙って聞いていれば人間風情が偉そうな口を――」



「ほぉー。たけし君も元々人間のはずだが?しかも地縛霊ときた。確かに今は悪魔に違い無いが、俺と同じ様に以前の記憶があるんだろ?――その記憶がありながらも人間風情とはよく言えたものだな。」

 全く。神と悪魔は対になる存在であると言うのに、どうしてこんなに似ているのか、主にきょどり方が。


 分かりやす過ぎて、いっそ開き直ってくれた方が清々しいのだが。


「うぐっ……えぇい!となれば実力行使だ!さっさと眠りから覚めてしまえっ!」

 佐藤さんは強い風に吹き飛ばされる様に、居間の外に弾かれた。



 あ、開き直りやがった……

「ああぁぁぁぁぁぁぁ!落ちるぅぅ!!!――」

 佐藤さんは奈落の底に落ちていく。





 夢を見て、目を覚ました。

「う……あの野郎。次会ったらぶん殴ってやる。」

 いや、殴れるのかあれは?俺の腕が危なそうだからやっぱ殴るのはなしだな。うん。




 それよりも、ここはどこだ?



 ――ふむ。ベッドが一つに小さめの部屋、木造の簡素な造り、小窓から光が差し込む。



「村の宿屋かな?」

 佐藤さんはベッドに横になったまま、独り言を呟く。



 だが、その割には真新しいな。木のいい香りがする。




「おや、目を覚まされましたかな?」

 扉の向こうから優しげな老人の声が聴こえてきた。


 扉が開くと、少しばかり背が低めの老人が現れた。その風貌は、白髪ではあるが短髪で表情からはまだ若さを感じる。勿論、歳の割には――と言う意味である。



「えっと……」

 佐藤さんは、何を喋ればいいか考えながら、とりあえず身体を起こそうとした。




「あなたは気を失われていたそうで、混乱されている事でしょう。私は村で医師の真似事をしているドクと言います。お仲間が村の宿屋に参られて、私の家を紹介され今に至る。と言ったところでしょうか。」


 医師という割には毒々しい名前だと思ったが、ドクの表情はにこやかだ。


 なるほど。家と言ったが、村の診療所を兼ねているのだろう。確かに言われてみると、宿屋というよりは病室と言われた方がしっくりくる。



「――理解致しました。私はもう大丈夫です。介抱して頂き感謝します。お礼をしなければいけませんね。」




「いえいえ!お仲間のリーシャさんに十分過ぎるお礼を頂いております。心苦しいですがお言葉に甘えさせて頂きました。」

 そのドクという名の老人は、申し訳なさそうな顔で頭を軽く下げた。



 助けてもらったのだから、頭を下げたいのはこちらの方なのだが、この人は日本人のように謝る癖でもついているのだろうか?


 もしくは、見合わないと感じるほどのお礼を受け取ってしまったのだろうか。



「ところで、私の仲間に会いたいのですが、どこに行けばいいでしょうか?」

 佐藤さんも少し頭を下げ感謝を示した後、ベッドから出て体操をするように軽く身体を動かした。


 特に身体に異常は無さそうだ。あ……



 ――そうだよな。やっぱりあの夢のまんまだ。



 佐藤さんは通した覚えのない袖を、ドクに見えない様に捲り上げ紋様を確認した。



 視界にさえ入れなければ何も感じないのが唯一もの救いだな。



「その事なのですが、実は――」


 そう言って、ドクは説明し出した。




 どうやら、お礼をもらう代わりに頼み事をした様だ。話を聞いていくとこの村も魔族を名乗る一団に襲われ村を焼き払われたらしい。


 通りで部屋の木材が真新しい訳だ。差し詰め、村を作り直している最中なのだろう。




「それで今、村を囲う塀を作っているところなのですが、幾分無防備なもので、リーシャさん達に警備をお願いしたのです。」

 戦えないペトラ達は、村の中で住人の手伝いをしているらしい。また随分と迷惑をかけてしまった様だ。



「なるほど。では、私も警備に――」

「いえいえいえ!どうかご勘弁を!それでは私達の立場がありません。あなたを診るお礼として助力して頂いているのですから、あなたに働かれては頭が上がらなくなってしまいます。」



 確かに最もだ。



 ――ん?


 今、「診る」と言ったか。この右腕も見たのだろうか。

 いや、見られて困りはしないが恐れられても困る。まぁ、気にしてもしょうがない事か……


「では村の中を散歩。くらいは構いませんか?」

 佐藤さんは、にっこりと笑みを浮かべた。



「えぇ、勿論ですとも。」

 そう言うと、ドクはお辞儀をして部屋を出て行った。



 遅れて後を追う様に、家から出て村の景色を見たが、ある程度は村の態勢を成している。所々焼け跡があるが、もしかしたら全焼まではいかなかったのかも知れない。


 負傷者こそ少なかったと聞いたが、村が無くなると言うのは余りにも酷い。今まであった生活基盤を失うのだから。

 あまりこう言う言い方はしたくないが、ここの住民は獣人ではなく全員が人間だ。にも関わらずこんな事ができるのは、やはり同じ国の人間とは言い難い。


 いや、思いたくはない。と言った方が正しいか。だがそうなると、人的被害が最小限に留まっている理由が分からない。これほどの火災が起きていながら。


 うむ……



 佐藤さんは、ドクの家から出た先で立ち止まって考えにふけっていた。


「……い。……おーい!」

「――うわっ!」

 気付けば足元で、ククルとテッサが大声で呼んでいるではないか。


「お兄ちゃん、サトーは頭までおかしくなっちゃったの?」

「弟よ!それは元々だから気にしなくていいんだぞっ!」


 あぁ、不幸だ。いつからこうなった。子供達にまで不遜なレッテルを貼られるとは……


 いや、間違いなくこれは奴のせいだ!俺は決してそんなキャラではない!きっとあの悪魔のような女に洗脳されているに違いない!



「お、お前らな!……ったく、一度リーシャにガツンと言ってやるべきか……」





「へぇー。誰にガツンと言ってやるって?面白そうね。」

 誰かが話に乗っかってきた。





「ああ!言うとも!きっとリーシャがある事ない事ククル達に吹き込んでるに違いない!一度ガツンと……あ。」

 佐藤さんの声は、威勢の良さが急に消えた。鳥が落ちる様に小さくなった。





 そこには、文字通り悪魔のような面をしたリーシャが立っていた……





 続く。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!


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