二十四話 テッサとククル
新しいキャラが登場いたします!
新しくウィンスを加えた馬車は現在、道なりに北上していた。
ウィンスは仲間と言うよりは、一時的な同行者といった所だ。
少しでも警戒する者と旅をするのは避けたい四人だが、明確な断る理由がなく同行を断れなかったのだ。頼まれたら断れない体質というやつだろうか。
普段和気藹々としていた馬車は、車輪がガタガタと揺れる音だけが響く。
き、気まずい。ここはこの俺がこの空気をなんとかしなければ!
「あーっと、ウィンスはどこに向かうんだ?北に行きたいみたいだけど……」
佐藤さんはウィンスの隣に腰を下ろした。
「行き先か!?そんなもん決めてどうすんだ!旅は男の浪漫だろ?気の向くままに進むだけよ!」
なんだ、随分と豪快な雰囲気のやつだな。そういう気持ちは確かに分からなくはないが、なんだか上手いことはぐらかされた気もする……
「なるほど、そうゆうのも悪くないな――」
佐藤さんは、適当に相槌を打って次の言葉を考えるが……
「はぐらかされてどうすんのよ。ウィンスさんだっけ?どこまでこの馬車に乗る気なの?って聞いてんのよ。」
おいおいおい、リーシャさんいくら何でも攻撃的過ぎやしないか?
空気を良くしようとしたのに逆効果じゃないかっ……
「あぁん?嬢ちゃんはなんでそんなにご機嫌斜めなんだ?さっき決めてねぇって言ったじゃねぇか。別に降りろってんならどこでも降りるけどよ、少なくともサトーさんはそんな器の小さいやつにゃ見えねぇけどなー。」
ヒィィィッ!
俺に振るんじゃねぇっ!
頼むからリーシャに、油注ぐのはやめてくれっ!隣にいるの俺なんだぞっ!
佐藤さんは、笑顔に顔を固定し、視界の端でリーシャをチラ見している。
「へぇ、私の器が小さいってそう言いたいわけ?」
リーシャは隣にいるサトーの耳を思いっきり後ろに引っ張って、ウィンスの顔を睨んだ。
「あだだだっ!!い、痛い!ちょ!――」
「うるさい、静かにして。」
視界が青空から馬車の中に変わると、ペトラがこちらを見て必死に笑いを堪えているのが見える。
あぁ、確かにこんな扱いをされて黙る俺は、器が広いのかもしれない……そう思うことにした。
「そんな事言っちゃいない。だが、俺は年上で初対面であるのに、あんまりな物言いじゃないのかい?なぁ、サトーさん。」
こ、こいつっ!今の俺の状況見えてねぇのかっ!
さっきから俺には厄災が降りかかってんの!いや、確かにごもっともなんだけど!あ……
今度は耳を思いっきり前に引っ張られて二人の間に佐藤さんが復活した。
「あ、ども……」
「どうなの?こんな怪しい奴載せてあげただけで、十分うつわ広いわよね?私。ねぇ?サトーさん。」
俺は人生で初めて気を失いたい場面に遭遇しています。もっさん……いや、神様。どうか……どうか私をお救い下さい。
無論あのやる気のない神が、こんな事で現れるはずもない。
「何をそんなに警戒してんだ。俺が盗賊ではない事は分かった筈だろ?。もしかしてあんた達賞金でもかかってんのか?」
正直、俺にもなんでリーシャがここまで神経質になってるのかが分からない。そんなに悪い奴には見えないしな。ウィンスの言っている事は正論だ。
リーシャもただ機嫌が悪いにしても、人に当たり散らすような人間ではないと思うし……
「一旦落ち着いて欲しいのですよー。リーシャはこっちに。サトーはウィンスさんとおしゃべりしてて欲しいのですよー!」
あー!いるではないか女神がここに!守護天使ペトラ様が!
佐藤さんには、ペトラが白い翼の生えた天使に見えているらしい。
ペトラとリーシャは馬車の奥で、なにか話し合っているようだ。
「ウィンスさん、なんかすまないな。なんだか気が立ってるみたいで……」
佐藤さんは苦笑いで喋りかけた。
「まぁ、俺も熱くなってきつい言い方しちまったかもしんねぇ。気使わないでくれサトーさん。」
うむ、そんな大人な対応をされるとますます申し訳なくなるじゃないか……
――――いや、この状況で何喋れってんだ。右も地獄、左も地獄じゃーないですか。
すると、ペトラが戻ってきた。
「ウィンスさんには申し訳ないのですが、次の村で降りてくださいなのです。」
サトー達は頼まれてウィンスを乗せただけであるから、別に下手に出る必要はない。ペトラはハッキリとした言葉遣いで言った。
「あぁー、勿論構わないよ。ありがとうお嬢ちゃん。」
ウィンスはすんなりと受け入れた。ペトラは何か言いたげな顔をしたが、余計な話を控えたかったのか何も言わずに馬車の奥に戻っていった。
それから数時間して、村を見つけウィンスを降した。
すぐに馬車は出発した。
「ちっ。感の鋭い女だな。仲間に紛れちまうのが1番楽だったんだが……」
ウィンスは遠ざかる馬車を見ながらボソッと独り言を漏らした。
もう日が落ちようとしていたが、その村で休むのをリーシャが嫌がったため、どこか適当な場所を探すことにした。
村からなるべく距離をとって、森の中で四人は焚き火を囲んだ。
「どうしたんだリーシャ。今日のリーシャは変だよ。ウィンスの何が気に障ったんだ?」
「分かんない。分かんないけど……感じるのよ。」
佐藤さんは困った顔をした。
リーシャに人を見る目があるのは知っているが、仮にウィンスが危険な奴だとしても、もうちょっとやり様がないものか……
今日のやり取りだけを見れば、ウィンスの方がよっぽどまともな事を言っている。
「私は仲間を危険に晒したくないだけ。信じてくれなくても構わないわ。」
リーシャはサトーを見ている。
「信じるのですよー!」
皆、口を揃えて言った。
佐藤さんを除いて。
「信じるけど、あれじゃリーシャが嫌な奴に見えちまうぞ?もう少し穏便にしないと――」
「……今日はもう寝るわ。おやすみ。」
リーシャはもう喋りたくないと言うように、背中を向けて横になった。
それから数日が経ち、今は普段のリーシャに戻っている。
その数日の間ロザリーに乗馬を習って、今はサトーが馬車を引いている。
馬車を引きながらゆっくりと走る分には、佐藤さんも難なくこなせるようになった。騎馬のような乗り方はできないであろうが。
素直に言うことを聞いてくれる子で助かったな。これでロザリーも体を休められる。
「そういえばこいつの名前は何て言うんだ?」
サトーは毛並みを優しく撫でながら、後方に問いかけた。
「お肉なのですよー。」
そのまんま過ぎる名前だな……でも、何故か可愛く感じるのは何故だ。
「お肉〜よしよし。よーしいい子だ。お肉〜。」
なんか焼肉してるみたいになるな……
初めて馬に乗ったが、とても乗り心地が良く風が気持ち良い。ずっと乗っていたいくらいだ。
後ろでは女子三人が楽しそうに喋っている。息抜きになっただろうか。そうだといい。
その時だ、前方にある茂みが大きく揺れた。それに気づいた佐藤さんは、丁寧にゆっくりとお肉を止めた。
「何かいる。警戒してくれ。」
お肉から降りてその茂みに近づく。刀の柄を親指で押し出し刀身を少し見せた。
「ご、ごめんなさい!攻撃しないでっ!」
そう言いながら出てきたのは獣人だった。
い、猪!?てか、言葉喋れるのか。すげぇな異世界。背丈からすると獣人の子供と見て間違いないな。
サトーが面食らっていると、リーシャも馬車から降りてきた。
「一人なの?お父さんとお母さんは?」
膝を曲げて、目線を合わせるようにして優しく問いかける。
「村が襲われてみんな散り散りになっちゃった。お父さんとお母さんは後から行くから先に逃げなさいって。」
その子は目に涙を溜めながら言った。
「一緒に探しに行くか?俺が守ってやる。」
佐藤さんは珍しく男前なセリフを吐いた。
「い、いいの?」
「任せろっ。」
膝を地面につけて、手を差し出した。
「テッサ!騙されるなっ!そいつらは俺たちの村を襲った種族じゃないかっ!」茂みの奥からもう一人獣人が出てきた。
この子はテッサというのか。後から出てきた獣人はテッサより少し大きいくらいだから兄弟かな?
テッサはその声を聞いて、出そうとした手を引っ込めて後退りした。
「俺はお前たちを絶対に攻撃したりしない。助けたいと思っただけだ。」
佐藤さんはその場であぐらをかいて両手を上げた。
「う、嘘だ!僕は騙されないぞ!お前たちはそうやって油断させてから僕たちを襲うんだ!」
内容からして人に襲われたのは間違いないな――どうやったらこの子達の警戒心を解けるだろうか。
「君の名前は?俺はサトーだ。」
「おい!こっちだ!こっちに2匹見つけたぞ!」
茂みの奥から声が聞こえてきた。
「くそっ、奴らだ!こんなとこまでっ!」
「どうする?俺たちを信用するか。後ろから来るやつに殺されるか――俺は絶対にお前たちを傷つけたりしない。」
「くっ、分かった……」
テッサの兄弟に見えるその子は渋々承諾した。他に選択種はない。
「二人ともこっちにきてっ!」
リーシャが馬車の中に誘導する。
すると、男二人が茂みから飛び出てきた。
「おい!あんた!ここに獣人がいただろう!どっちに行った!?」
「それでしたら通り過ぎて奥の茂みに走り去りましたよ?いきなり出てきたので馬が驚いてしまってね。困ったものですよ。」
やはり佐藤さんの演技はひどい。わざとやってるのかと言いたいくらいの大根役者っぷりだ。
男二人は顔を見合わせて訝しげな表情をした。
「ちょっと荷馬車の中見せてくれないか?」
佐藤さんは表情を一変させた。
「貴様ら大商人ペトラ様の馬車と知っての事だろうな。あん?殺すぞ、コラ。」
目を血走らせ、赤く染まった鞘から刀を引き抜く。
「お、おい。こいつやばいぞっ。目がいっちまってる、こんな奴がかくまうわけねぇっ。先を急ぐぞっ。」
男は小声でそう言うと、二人とも茂みの奥に走り去った。
サトーは意識的に殺気を放ったが、感情的になるほど悪魔のオーラが色濃くなるため、きっとあの二人はサトーに恐怖を感じ取ったのだろう。
「どうだった?俺の演技?」
ニヤニヤしながらドヤ顔で戻ってきた。
「何でドヤ顔なのよ。相変わらず最低よ。ゴミ以下ね。危うく馬車の中覗かれるとこだったじゃない。」
リーシャは冷たく、汚いものを見るような目で言い放つ。
えぇ……そんなにですか……そこまで言わなくても……
佐藤さんは、分かりやすくしょんぼりとした表情になった。
気持ちを切り替え、馬車の中を除いて喋りかける。
「これで少しは信用してくれたか?」
「ふん、まだだ。殺さないからいいやつとは限らない!」
うむ、いい警戒心だ。兄貴はこうでなくてはな!兄貴か知らんが多分兄だろう。
「このまま俺たちと村の様子を見に行くか、それとも降りて二人だけで逃げるか――好きにしていい。お前たちを売り飛ばす気ならここから逃がすような事はしないだろ?」
「……」
黙って周りにいるサトーの仲間をチラチラと見ている。
「にいちゃん、僕悪い人じゃないと思う。」
「分かった。ついていくよ。」
弟の言葉に後押しされたようだ。
「で、名前なんてゆうんだ?にいちゃん?」
その言葉にサトーは笑顔になった。
「僕はお前のにいちゃんになったつもりはない!ククルだ!」
手を突き出してきた。指をさすみたいな感じなんだろうが、肉球が可愛すぎて迫力がない。
「分かった。まずは急いで村の様子を見に行こう!」
まだあまりうまく馬を御せないので、ロザリーに変わってもらい、一行は獣人の村に向かった。
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