二十三話 旅人と共に。
遅くなり申し訳ありません!一週間近くかかってしまいました!
読んでくれる方が一人でもいる限り頑張りますのでよろしくお願いします。
佐藤さんは、光沢のある赤い鞘を腰に装備して宿を出た。
明るい日差しのおかげか、真新しい目立つ装備のおかげか、昨日の出来事を全く感じさせない清々しい表情だ。
「今日はとりあえずギルドに行ってみようと思うんだけど――」佐藤さんは、好奇心を膨らませながら提案をしたが……
「あぁー。」三人は同時に、ため息をつくような声を漏らした。
「ん?え、何?その反応?」
三人の反応を見る限り、自分の想像とは異なりそうだ。
「書庫で知ったんだと察しますが、サトー様の考える様な所ではないです。平たく言えば、柄の悪い人達のたまり場みたいなところですね。」
いつまで俺に様をつける気なんだロザリーは……
なるほど、反応を見た後の想像とはぴったしだ。やっぱいるよね、この世界にもそうゆうとこ。
ロザリーの話によれば、機能していない訳ではないが殆どの冒険者はギルドには行かず、違う場所でパーティを探すそうだ。
まともな冒険者は装備屋や、門の付近で同じ様な人がいないか待つらしい。
街だと門付近は兵士が目を光らせている為、良からぬことを考える輩は少ないみたいだ。
「まぁ、サトー並みに強いやつがギルドなんかにいる訳ないし、行きたいなら別に構わないわよ。絡まれたらギルドごと吹き飛ばせばいいのよ。」
リーシャは弓を放つジェスチャーをしながら笑った。
「いや、それはリーシャが吹き飛ばしたいだけじゃないのか?……何でそんな笑顔なんだ……」
「ペトラはあーゆう人達は嫌いなのですよー。山賊と大して変わらないのですよー。」
ペトラは不機嫌そうな顔まで可愛い。
娘にしたい。佐藤さんは心から思った。特別子供が好きという訳ではないが――いや、ペトラは子供ではないのだが。
ペトラには人を癒す力がある。くそっ、ここが元の世界なら子役オーディションに応募しているところだ。
「なるほど、ちょっくら壊滅させてくる――」
佐藤さんが冗談でギルドに向かう振りをする。
「やっぱり首輪が必要かしら……」
リーシャの小声が聞こえて、佐藤さんは綺麗にターンを決めて元の位置に戻る。
「冗談だ。そんな危険そうなとこに行く訳ないだろ?はっはっ!……」
額を拭いながら苦笑いをした。
なんか前にも言ってたよなこれ、この人本気で言ってそうで怖いよ!
てか、行きたいなら別に構わないって言ったじゃん!!
何で叱られてる感じになってんの!?
リーシャは優しい子だと思うが、時々身の危険を感じる佐藤さんであった。
そうなると、この街でやる事はもうないな。
「じゃあ、次の街に向かうとしますか。」
四人は馬車で北門に進み出した。
ここから先はペトラも行った事がないみたいだ。
リーシャはまだ記憶に触れるような事は何もないらしい。早く何か手掛かりが見つかるといいんだが。
しばらくして、北門を通り帝都を抜けた。
門を出てすぐ目の前に広がったのは、緑の生茂る森だった。
あまりに景色が一変したので目を奪われた。
道なりに進むと方向を指し示す木の看板があり、二手に道が分かれている。
「矢印が右に向いてるけど何も書いてないな。どうする?」
左は森が続き、右は緩やかな登り坂になっている。
「矢印の通りに登りましょ。高いとこに出られれば地形が分かるかも知れないし。」
リーシャの言う通り坂を登り始める。一応地図はあるが地図と言えるほどの正確さは全くない。大雑把にシルバガントの街や村がどこにあるか、国境の場所が記されているだけだ。
佐藤さんにとってはあまりにも心許ない。
まぁ、北さえ分かってれば何とかなるか……
しばらく経った頃、リーシャが目を細めて前方を見た。
「何かあるわ。岩?かしら。」
まだ距離があってはっきりと見えない。
更に近づくと、全員が認識した。人が倒れている。
リーシャが小走りで近づくと倒れている男が気づいた。
「助けてくれ……」
無精髭を少し生やした男は、額から少し血を流している。
「もう大丈夫よ。何があったの?」
「――村が魔物の群れに襲われて……村を助けてくれ……」
リーシャは、男に肩を貸して馬車に向かい、事を話した。
それを聞いて馬車は再び進み出した。出来る限り最大の速度で、男の言う村へ向かう。
「ありがとう。すまない……」
男は小さな声で礼と謝罪をした。
数分が経った。
「どれだけ歩いたんだ?後どれくらいで着く?」
馬車の速度は時速四十キロメートルくらいは出ている。気がする。おそらくもう五キロくらいは進んでいるはずだ。
「もう少しだ。もう少しで着く。」
男は静かに答えた。ポーションを与えたので傷は完治している。
そう言えば、まだ名を聞いてなかったな。
佐藤さんは、軽く仲間の紹介をして男の名を聞いた。
「エイブラムだ。」
短く一言だけ言って、エイブラムは口を閉じた。
無口だな。村が心配だからか、元々か――ん、あれか?
ようやく村が見えた。門は閉ざされている。
近づくとすぐに門が開かれた。そこら中に血が飛び散っている。すごい臭いだ。悲惨な事があったのは間違いないようだが、もう住民は落ち着いている様に見える。この様子だと魔物は始末できたようだ。
「すまないな、間に合わなくて。あんたの家族が無事だといいんだが。」
佐藤さんは、気持ちを察する様に小さな声で言った。
「あぁ、ありがとう。いいお土産になりそうだ。」
エイブラムはニヤッと笑った。
佐藤さんは言葉の意味が分からず、顔をしかめた――が、その理由はすぐに分かった。
村の中心まで馬車が進んだところで、住民が周りを囲んできた。エイブラムは素早く馬車を降りる。
周りからは、嘲笑うかのような声が聞こえてくる。佐藤さんはこの声でようやく理解する――騙されたと。
「あぁ……またか。あんた達ここの村人はどうした。」
別に怒ってもいないが、表情に悲しみの色はもうない。
エイブラムが口を開いた。
「抵抗しなけりゃ命は助けてやる。村人も女と抵抗しなかった奴は生かしてある。優遇はできねぇけどな。」
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
「よくも騙したわね。代償は高くつくわよ?」
リーシャはいつもより表情が冷たい。佐藤さんは背中がゾッとしたが、周りの男たちはそれを聞いて大声で笑った。
「安心しろ、お前は優遇してやる。痛い事はされねぇだろうさ。」エイブラムは意味深な言い方をして、また笑い声が起こる。
正義感の強い佐藤さんは、ムッと表情を変えた。
盗賊の一番腹が立つのはそう言うとこだ。説教してやる!
と、意気込んだ時、今度は周りから悲鳴が上がった。
な、なんだ!?どんだけおちょくれば気が済むんだこいつらは。
だが、そうではなかった。馬車の上にいるため気づかなかったが、地面を冷気が這い男たちの足元は凍りつき既に膝上にまで届こうとしている。
「代償は高いって言ったでしょ?相手を間違えたわね。」
男たちを這い登る様に氷が包んでいく――
悲鳴が収まり、一変して静寂が訪れた。その場に立っていた者は、足のつま先から頭の天辺まで全て凍りついた。
「おいおい、村人いたらどうすんだよ。」
佐藤は自分の腕を摩りながら何故か小声で言った。
「大丈夫よ――たぶん。」
リーシャは少しだけふてくされた様な顔をした。
「いや、多分て――」
「私もいないと思います。今見てきましたから。」
ロザリーは馬車の横から話しかけてきた。
え?まじ?いつ?
いつ馬から降りたの?忍者なの?やっぱそういう設定なの?
佐藤さんはロザリーのあまりの身のこなしに、パニックに陥り、声が出ず口だけが動いている。
「ひとまず村人を探すわよ。」
「はい。まだ盗賊がいるかもしれません。念のためまとまって行動しましょう。」
二人はサトーが忙しなく口を動かしている事に気づいていない。
「サトー何してるの?ついてきて!ペトラも。まぁ、サトーがいれば安全だとは思うけど。」
リーシャは屋内に入っていった。
「サトー。なんで口パクパクしてたのですかー?」
ペトラは不思議そうな顔で佐藤さんを見つめている。
――少し間が空いた。
佐藤は真面目な顔つきで、無言でペトラの手を引いて屋内に続いた。
返す言葉がない為、何もなかった事にしたようだ……
屋内に村人が閉じ込められているのを発見した。最初は怯えていたが、状況を説明すると村人達から安堵の声が漏れだした。
「村をお救い頂きありがとうございます――あの、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」
老人が口を開いた。長老だろうか。
一番近くにいたリーシャが頷いた。
「おそらくまだ死んでいないというのはどう言う状況でしょうか?このまま旅のお方が出ていかれて、奴らが再び息を吹き返したら私達は……」
「魔法で凍ってるから大丈夫。溶けて生きていても、瀕死の状態だろうから、すぐに縄で縛ってしまえば安全よ。その後どうするかは任せるわ。」
村人達は恐る恐る外に確認しにいった。
「なんとっ!……これほどの使い手は初めてお目にかかりました――何かお礼がしたいところなのですが、この状況ですのでお渡しできるような物が――」
「構わないよ――盗賊に騙されてたどり着いただけだから、別に苦労もしてないしな。気にしないでくれ。もう大丈夫なら俺たちは行くよ。」
佐藤さんは相手を気遣う様な声で話した。
馬車に乗り込み、ゆっくりと門に向かって進む。
「待ってくれっ!」
若い男の声が響いた。
馬車が足を止めると、その村人が走ってきた。
「あんたらどこに向かってるんだ?北に進むんだろ?俺を乗せてくれないか?少しは役に立つぜ。俺は村人って訳じゃないんだ。」
佐藤さんはこの男を疑った。村人じゃない……盗賊の一味ってのは流石に考えすぎだろうが……
年齢は二十歳前後か。
ロザリーに少し待つように頼んで、サトーはその男と村人達の元に戻った。
「聞こえていましたよ。その者は村の者ではないので、私達は構いませんが――」
村長らしき老人はサトーよりも先に口を開いた。
「この人はいつからこの村にいるんだ?」
若い男ではなく、老人に向かって聞いた。
「おいおい、待ってくれよ、俺を疑ってんのか?俺も縛られてたんだぜ?」
村人達と村長が話している。佐藤さんは、その若い男を無視して村人の返答を待つ。
「昨日、宿に泊まった者じゃな。皆初めて見る顔だと言っております。」
――やはり、考え過ぎか――まぁ、盗賊の一味なら縛られてるわけないよな……
「そうですか。失礼な態度をとって申し訳ない。無礼を許して下さいますか?」
若い男に軽く頭を下げた。
「あぁ、構わねーよ。まぁ、こんな状況だ。警戒されて当然だわな。」
疑いが晴れて、男もすぐに落ち着いた。
村人達に一礼して、また馬車の元に戻った。
「みんな構わないか?盗賊では無いと思うが。」
何故だか誰も喋ろうとしない。警戒しない訳でもないが、拒絶する理由もないと言ったところか。
リーシャが何も言わないって事は、まぁ多分大丈夫だろ。
「多分大丈夫だ。俺はサトー。名前を聞いても?」
「え?あー、何も言ってないけど大丈夫なのか?――ウィンストンだ。ウィンスって呼んでくれ。」
ウィンスは少し戸惑ってみせた。
「大丈夫。もう行こう。」
ウィンスを乗せた馬車は再び進み出し、村を離れた。
自業自得だが、あの盗賊達には酷な事になったな……
氷が溶けた後のことを考えて、佐藤さんはまた悪寒を感じた。
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