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二話 荒野に舞い降りた剣士 佐藤さん

 さて、本編であろう異世界転生後の佐藤さんだが、神によって荒野の地下、百五十センチからの冒険が、今まさに始まろうとしている。

 ちなみに、佐藤さんの身長は百七十センチである。



 分かりやすく言おう、佐藤さんは首から下が埋まっている。


 見渡す限り人や建物はもちろん、草木すら見当たらない。照りつける日差しの中、転生して数分が経過した――なす術もなく、神に呼びかけることしかできない。「神様ー。おーい、神様ー……もっさーん。」



 佐藤さんは、とりあえずこの状況を脱出しなければ――と考える、この土は完全に身体にフィット――吸着シートで夜も安心…………生理用品のCMを連想している場合ではない。


 ここが転生後の世界であるならば、自分にも何か特殊な能力があるかも知れない、もっさんもステータスを増しとくとか言ってたし……


 だが、自分の姿すら確認する事ができない。


 いきなり頭の中に声が響く。


「うむ、転生者よ、困っておるようだな、全知全能の神である私が助けてや――」


「お前のせいだよ!!」


 もっさんであることは即座に分かった。やたらと偉そうな雰囲気を出しているが――ツッコミを我慢するのも、いいかげん限界の佐藤さんは食い気味で尚且つ、吐き捨てるように言った。


「いや、でも色々あるじゃろ?ほら、設定とか」もっさんは、やる気のなさそうな声に戻っている。


 間違いない、モグラのよく分からん設定のために俺を地中に埋めやがったな、どんだけモグラ気に入ってんだよ……



 もっさんの声が続けて聴こえてくる。

「てか、ステータス増してやるって言ったじゃろて、それぐらい自力でどうにかできるはずなんじゃがの。」



 そもそも、力の使い方も分からない上に、「ステータスを増す」だけでは、何がどう強くなったのか確かめようがない。佐藤さんは、依然として埋れたまま聞き返す。


「力の使い方と俺にどんな能力があるのか教えてくれ、もっさん。」

 ――こんな事を話してる間に神の力で、解決できないのかと言いそうになったが、口を噤んだ。


 この神は随分とふざけているが、今この身に起こっている事を考えれば、本当に神なのであろう。であれば、思った事を何でも口にするのは控えた方がいいか――




「能力はわしにも分からん、ただ力を与えただけにすぎんからの。力の使い方は、まぁ……あれ……あれすんじゃね?」

 神の声からは、挙動不審になっている様が見えるようだ。あからさまに誤魔化している。


「どっちも分かんねぇんじゃねぇかっ!早く助けてくれ!」


 てっきり、佐藤さんは、「俺強ぇぇ!」な展開が始まると期待していたため、少し肩を落とした。埋まっているため動きはしないが。その時だ――



「助けて欲しいの?あんた人間?よね、どうゆう状況になったらそんな無様を晒せるのかしら。」


 女の子の声が聞こえる。どこだ?目の前には何も見えない、後ろか。


 てゆうか、なんか強くね?

 

 なんか言葉強くね?


 思うところはあったが、ようやく助かると思いすぐに声を張り上げた。


「あぁ!そうだ!人間だ!助けてくれないか!」

 すると、足音がゆっくりと近づいてくる。どうやら円を描くように距離をとって正面に回ろうとしているようだ。


 佐藤さんは、姿を見て少し安心した。すらっとした長身に、肩ほどの長さの銀髪、なるほど――美少女だ。装備は軽装に弓。レンジャーで間違いないだろう。


 少女は冷ややかな目でこちらを見下している――いや、こちらも見上げるしかないのだが。




「あ、わしお昼のウキウキウォッチング観るから後は頑張っての。」



 ぷつんと何か切れたような音がした。


(もっさぁーーん!!くそっ!結局あの神何もしてねぇじゃねえか!いいもん!この美少女に助けてもらうもんねっ!)




 少女は、少し考えた後言った。

「――ふーん、私と同じくらいの歳かしら……そうね、助けてあげてもいいわ。」


 ん?同じくらい?てことはやはり、転生して姿が変わったのか俺は。少女の顔を見る限り、一回りくらいは差がありそうだ。


 いや、実は普通にVRゲームの中って可能性も……だとしても生首スタートなんてゲームはやりたくないな――生首スタートのリアルはもっと嫌だな――


 どちらにしても、最悪な状況であることに変わりはないと気付いた。


 今の自分の顔すら見たことないし、歳も分からん。適当に流すべきだな。墓穴を掘る気しか起きない。もう埋まってるんですけどね。


「あ、あぁ、そうだな、良かった、なら――」


「跪きなさい。」


 少女は、腕を組み、自信げな表情で見下して言った。。


「え?いや、埋まってるんですけど、なんならひざまずくよりグレード上ですよ、凄くない?これ。こんな事できる?」


 佐藤さんは、瞬時に少女がとんでもなくバカなのではないかと感じ、誘導するように言葉を返した。


 少女は、先ほどとは違い、上の方を見ながら、何か考えているように見える。



「そ、そうね、確かに、こんな事できるやつ見たことないわっ。私に任せなさい、助けてあげるわっ!」

 片腕を豪快に振り払いながら、言った。


(はい、バカ、はい、バカきたー!バカ確定ありがとうございまーす!)佐藤さんは、心の中で三年P組金髪先生になりきっていた――――少女は弓を構え、こちらに向けている。


「え!ちょ!待て!何する気だ!」


 少しでも気を緩めた事を後悔しながら叫んだ。少女はキョトンとした顔をしている。


「何って、あなたをそこから出せばいいんでしょ?助けてあげるんだから、うだうだ言わないでよねっ!」そう言いながら数歩下がり、少女は弓を引き絞る。


「待って、なんかスコ――」

 スコップと言おうとしたが、言葉は少女によってかき消された。




「フレアバースト。」

 白い光に包まれたように感じたが、次の瞬間には青色に変わった。




 空中に吹き飛ばされたようだ。


「ぶへぇっ!」

 佐藤さんは、綺麗に全身を使って、全身で着地した。受け身なんてとる余裕はなかった。



 だが、幸いこれといって怪我はないようだ――にしても、こんなのは普通の弓であるはずがない、まるで小隕石でも落ちたように地面がえぐれている。魔法が込められていたのか。恐るべき少女だ。


 だが、少女はもっと驚いていた。いや、驚くと言うよりは興奮している方が正しいかも知れない。



「あ、あんた、無傷なの!?一緒に消し飛ばすくらいのつもりで放ったのに……傷1つないなんてありえない!!!何者なの!??」



(え、俺消し飛ばされるとこだったの?……確かに、地面がえぐれるほどの威力だ、にも関わらず無傷なのは神の施したステータス上昇によるものだろう。それ以外にあり得ない。だが、一応言っておかねばな――)

「消しとばすつもり!?殺す気かよっ!」


「悪かったわね、あのスキルくらいしか地面を吹き飛ばして、あんたを吹き飛ばす方法思いつかなかったのよ!勿論、回復前提の話よ。」


 少女は腕組みをしながらも、少し申し訳なさそうな表情をしている。

(なんだ、思ったより素直じゃないか。ん?俺を吹き飛ばす方法?……まぁ、いいか、礼を言わないとな)


「ありがとな、助かったよ。」

 体についた砂を払い落としながら礼を述べた。


「で?あんた何したの?武器を見る限り剣士よね?剣士が単体で、フレアを真正面から無傷で受けきれる人なんて、少なくともこの国にはいないはずよ。その防具にそんな防御力があるとも思えないしね。」



 少女は睨みながら、こちらを伺っている。


(あー、分からないとは言える雰囲気じゃないなー、もっさんみたいに、あれあれ言って誤魔化すか?いや、無理だな……とゆうか、あのレベルに俺は落ちたくない。あぁ!魔法の言葉があるじゃないかっ!)


「あー、すまない、実は俺、記憶喪失なんだ。」

 凄まじいほどの棒読みであった。あれあれ言ってた方がましかと思えるほどだ。


「記憶喪失!?…………そう、ごめんなさい。名前くらいわかるんでしょ?」



 少女は一転して、雨でも降り始めたかのような悲しげな顔になった。





(よーし!セーフ!!俺に演技の才能があったとはな、神とは違うのだよ、神とは!)



 勿論、そのような才能は微塵もない。あれに騙される少女も少女だが、本来なら嘘をついた罪悪感に苛まれる場面が想像できる。


 が、佐藤さんは少し――ゲスい。


「いや、いいんだ、俺はサトー。君は?」


 少女はしなやかな銀髪をかき分けながら言った。

「リーシャ・フォン・クライストよ、リーシャでいいわ。」

最後まで読んで頂きありがとうございます。作法や誤字、何か気になるところがあれば教えてください!

読者を惹きつける作品にできるよう努力していきます!

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