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十九話 力の解明

 佐藤は夢の中を彷徨っていた。



 目の前には……悪魔……なのか?




 佐藤の目の前には、そこに実体があるのかないのかよく分からない、恐ろしい顔の化け物が畳の上でお茶をすすっている。




「ズズズッ――あちっ!熱すぎるだろうが馬鹿野郎!火傷したらどうすんだ!あぁ!?」

 お茶がすり抜けて、畳にバシャバシャと飛び散る。




 自分の他に喋れる相手は見当たらない。俺なのか?



 状況が見えないが、少なくとも俺はお茶入れてないぞ……



 てか、何で和室なんだ、ここ異世界だよな?何で金属バット担いでんだ?なんだこの意外性しかない悪魔は。いや、悪魔なのかも分からんが。



「何、黙ってんだコラァ!やっちゃうぞコラァ!お前!俺怒ったらすげーからな!あれだそ!?なぁ!?」



 あれ?なんかもっさんと同じ雰囲気を感じるんだが……



「あ、あのどちら様でしょうか?後お茶は入れてない……です。」



「うわっ!!なんだお前やんのか!軽はずみにデスとか言ってんじゃねぇぞ!死んだらどうすんだ!?あぁ!?」

 悪魔っぽい輩は――いや、輩っぽい悪魔は怯えた様子で後退りした。



「あ、すいません……です。」

 軽はずみと言われたので、重々しく「デス」と唱えるようにして言った。


「ひぃぃっ!」

(ひぃぃっ!って言っちゃったよこいつ。なんだ全然怖くなくなってきたな。)



「君悪魔なの?何でこんなとこにいるの?早くママのとこに帰らないと、デェェスッ!!って怒られるんだよ?」



「やめろって言ってんだろっ!ママは出張でいねぇんだよバーカ!適当な人間に大人しく取り憑いて待ってなさいって言われたんだよバーカッ!」

 悪魔は、タンスの裏に素早く隠れた。


 あぁ、ママいるんだ……しかも出張って何よ?どこに出張すんのよ……前世間違いなく、不良中学生だろこれ。


 さっきまでよく見えなかったけど、学ランきてんじゃん。


 学ランに金属バットの悪魔って、意外性突き抜けちゃってるよ!


 学ランも身体のとげで、突き抜けちゃってるよ!



「じゃあ、パパは!?何で俺に取り憑いてんだよお前。」

 佐藤さんは、少し口調を強くしてみた。



「パパは……パパは帰ってくるもん!絶対帰ってくるもん!出ていく時に言ったんだ!!帰ったら一緒にパンケーキ食べるって約束したんだ!」

 その悪魔の顔は歪んだ顔が、更に歪みジャミジャミになった。



 パンケーキ!!いや、いいんだけど、パンケーキいいんだけど!



 その顔でパンケーキ言われても、全然しっくりこないんだよ!



 パンケーキの甘さと、その顔がっ!!




 …………うん、落ち着け俺。



「いや、悲しんでるんだろうけど、更に恐ろしい見た目になってますよ。そんでパンケーキって……悪魔って結構、甘党なのね。」

 この展開何?地縛霊が悪魔になっちゃった的な設定なの?あ、設定って言っちゃった。ま、いいか。




「なんだ褒めてくれんのか?お前意外といいやつだな。」

 悪魔は鼻を擦るような仕草をした――鼻は見えない。


「え?どこ?どこに褒められた要素あったの?顔?顔なの?いや、ほんとすごい事になってるって。なんか千切れそうだよ?大丈夫?」


 佐藤さんは、ふと神様の言っていた事を思い出した。

「あ、てか、俺に力を与えたのってお前か?」


 佐藤さんは悪魔相手に、お前呼ばわりを平然としてみせた。最早、会話だけ聞いたら中学生と会話してるようにしか聞こえない。



「あー!そうだ!俺は貸す気なんかなかったのに!お前の能力で、無理矢理使われたんだよ!!なんかこいつムカつくと思って、他の奴に取り憑こうと思ったら抜け出せなくなってんだしよ!どうしてくれんだよ!!」

 


 俺の能力……もっさんがくれた力の事か。悪魔の力を無理矢理引き出して、縛りつける能力?さっぱり分からんな……



「いや、すまんが俺もその能力がよくわからんくてな。困ってんだ。ただ、お前の力使うと俺。死にかけるんだわ。これ何とかならない?」

 佐藤は茶の間に腰を下ろしながら聞いた。



「そりゃお前が奪い取ろうとするからだろ!俺だって抵抗するに決まってんだろ。」



「じゃ、貸してくれよ。お前公認なら大丈夫って事だろ?」



「んー、いいけどちゃんと返せよな!借りパクすんなよ!たけしって名前書いとくからな!」


 あれ、まじ?言ってみるもんだな。あっさり貸してくれちゃったよ。


 てか、こいつの名前たけしなの?借りパクと言えば、たけしって書いてあるスーファミのカセットあったなー……あれ?


 もしかして向こうの世界で既に取り憑かれてたんじゃないの?これ?



 ……俺もしかして、たけしに取り憑かれてんの?あのスーファミのたけしなの?



 てか、たけしって誰だよ!お、俺知らねーぞ!きっとたけしのカセットを借りパクした奴から、更に借りパクしただけだって!



 たけし、俺に取り憑くのはおかしいぞ!


 俺何もしてねぇからな!





「ちょっと待て、お前いつから俺の体にいるんだ?最近か?お前たけしなのか?スーファミのたけしなのか?」佐藤さんは、すごく嫌な予感がした。




「十五年くらい経つかな。スーファミのたけしって何?カセットには必ず名前書いてたよ。」

 悪魔はちゃぶ台を挟んで、サトーを見ながら言った。



 間違いねーよ!スーファミのたけしだよ!しかも十五年てどんだけ俺に取り憑かれてんだよ!


 借りパクしたの俺じゃないって!!きっと俺が借りパクした奴だから!俺関係ないから!!



 佐藤さんは、どうやら地縛霊に取り憑かれた状態で死に。一緒に異世界転生を果たしてしまった様だ。前世が地縛霊の悪魔と言うわけだ。



 ――あれ、これ一生こいつと付き合っていく事になるのかこれ……絶対ママ帰ってこないやつだよこれ。世界変わっちゃってるもの。



 てか、これ神の力関係なくね?だって、地縛霊なんだから。地縛霊俺に取り憑いちゃってんだから。なんだこの理不尽は。最強どころじゃねぇよ。最凶だよ……



 佐藤さんは、理解するにつれて表情が暗くなっていった。


「なんだ?まぁ、元気だせよ、お茶飲むか?」

 悪魔が気を利かせて、湯呑みにお茶を注いだ。



「あ、あぁ、すまんな……じゃねぇよ!お前のせいだよ!デジャブだよ!前にもこんなツッコミいれたよ!能力じゃなくて、お前に取り憑かれてるだけじゃねぇか!」



「はい、じゃあこの書類にサインしてね。契約するから。直筆なら印鑑いらないから。」

 悪魔は、気づけばスーツにメガネをかけ、その姿はまるで銀行員のようだ。



「何、ツッコミスルーしてんのよ。え?ここ?あーはいはい。」

 言われるがままに、サインをした。すると右腕に不思議な紋様が浮かび上がる。


「これ、第一段階ね。ここで無理しちゃうと死ぬから気をつけてね。全部で五段階あります、はい、どーん!」

 悪魔は雑な説明図を出してきた。予め用意してあった様子だ。


 てか、こいつ普通に喋ってるけど、たけしの設定どこ言ったんだよ。



 たけし返せよ!ちょっとかわいそうだなって思ってたんだぞ!スーファミはもう返せないけど!





 どうやら、一段階目は今までと変わらないようだ。




 二段階目は、ツノが生える。


 え?……まぁ、ツノくらいならセーフかな。





 三段階目は、翼が生える。


 おー、空飛べるようになるわけやな!?





 四段階目は、全身が黒っぽい感じになって、なんか強くなった気になれる。


 あー、なんかオーラ的な?黒いオーラが体を纏うみたいな?かっこいいやん。





 五段階目は、悪魔になれます。



「お前これ!悪魔なっとるやんけ!誰もそんな事頼んでへん!」佐藤さんは、興奮すると関西弁になります。




「え?嫌?悪魔になれるチャンスなんてそうそうないよ?――まぁ、嫌なら直接外に出て力行使してもいいけど。」悪魔は、書類を綺麗に纏めて丁寧にケースに入れた。




「外でれるん?出れないって言ってなかった?たけし。最初のやり取りなんやったん?」

 確か、俺の能力がどうこう言って、出たくても出られへんみたいな事言ってた筈や!



「出れるって言っても、サトーから離れられるわけじゃないからな。そうだな、サトーの表面に現れる。見た目で言えば、オーラのようなものを纏うくらいだ。」



「それくらいなら良い。それはそうと、俺は神から与えられた力がある筈なんやけど、ほんまにそれのせいで縛られてるんか?たけし。」

 佐藤さんは念のために確認をする。



「え?違うけど?」

 悪魔は寝転がってテレビを見出す。



「ちゃうんかいっ!!お前ら神も、悪魔も大概にせぇよっ!大体何でテレビあんねん!行動パターン一緒すぎやろ!」

 佐藤さんは、鼻息を荒くしてツッコミを入れた。



 何でこいつらこんなおっさんくさいねん!ケツ掻きながらプロ野球見るって――特定の部分だけに影響されすぎやろ!



「そら……ほら、言うやんか、変人と天才は紙一重って。天才の俺に?あいつが似てんねやろなー。」

 悪魔はエセ関西弁で話し始めた。



「何でお前急に関西弁なってんねんハゲ。ほんで2人とも変人じゃハゲ。」

 佐藤さんはエセ関西弁に苛立ちを隠せない様子だ。


「え?ほんま?前髪上がってきてる?ちょっと見てくれへん?どこ?きにしてんねん!」

 悪魔は佐藤に、生え際のような何かを見せつけてきた。



「え、それ髪なん?あー。大丈夫。多分。後その喋り方やめーや。俺も戻すから。」

 苛立つあまり「ハゲ」と言ったが、そもそも髪の毛があるとは思っておらず、軽い暴言のつもりだったので佐藤さんは少し戸惑った。



 はぁ。じゃあ、神の力って何なんや。未だに何も分かってない。ほんとに与えてくれたんかも、疑わしくなってきたな……



「ちなみに、なんか俺に力とか感じたりする?神の力。とか。」



「びんびん感じるわ。だからこの体から離れたかったんやけどな、離れられないからイラついてたんや……あ、だから死にかけたんじゃないか?悪魔と神の力が交わる事なんてないからな。何が起こるか分からん。」

 悪魔は嫌なものを見る目でこっちを見て、吐き気を見せた。



 一応筋は通るか……天邪鬼みたいに適当なこと言ってるかと思ってたけど。じゃあ、この尋常じゃない身体能力には神の力と悪魔の力が混ざってるって事なんだろうか……




「ただ、俺がどういう形で力与えたんか分からんけどな、俺の力は身体能力とかじゃない。混ざりっ気なしの魔力そのものや。だから、なんかおかしいなーっては思ってたんや。」



 そうなのか……悪魔の力は魔力。



 神の力は身体能力に関係する能力。



 神の力に悪魔が干渉。急激な力が発現し、体に負担がかかった――ってとこか。



 じゃあ、リーシャのフレアを防いだのは……たけしが一緒に転生してきたのなら、力を出せる状況になかったかもしれない。仮定ではあるが。


 それなら、神の力だけが発動して負担を感じる事なく防げる。



 であれば、それが身体能力に関係する力で魔法を無効化した事になる。



 ん、いや、神の力を身体能力と決めつける事はできないか。魔力が関係ないとは言い切れない。


 だが、フレアから身を守ったのは、神から与えられた力と見て間違いないだろう!




 佐藤さんは、ここで再び熟考する。



 ――だが、フレアから身を守ったが、ウルフや威力の弱い氷魔法は防げなかった。これでは矛盾しないか?……



 ふと、もっさんが言った言葉を、佐藤さんは思い出した。

「ステータスは適当に死なないようにあれしとくから。」



 死なない、威力の弱い……死に至る場合だけ発動するとは考えられないだろうか……




 フレアバーストは死んでもおかしくない威力、悪魔の力もそうだ。



 死に至るほどの魔力、もしくはなんらかの攻撃にで身体に危険が及んだ場合のみ発動する。これなら辻褄が合う。





 ――その上で考えると、自分が死に至る力のみを吸収して、攻撃や守る力に変換……確証はないが、これなら全ての辻褄が合う。



 …………やはり、これしか考えられない。



「あれ?これ回復さえしてもらえれば無敵じゃね?」

 ずっと難しい顔で黙り込んでいた佐藤さんが、急に口を開いた。




「な、なんやいきなり。あ、マリモカート一緒にやる?」

 マリモカートのカセット表面には、「たけし」とマジックで刻まれている。



「いや、帰らせてくれ。どうせ、いつでも話せるんだろ?」

 佐藤さんは、はやくこの仮定をリーシャ達に説明したいと考えていた。



「なんや、けったいな。急に黙り込んだと思ったら、帰るんかい。この和室から出れば戻れるで。」

 たけしは悪魔のくせに、寂しそうな表情を見せた。



「おう、すまんな。」

 二人の間には、まるで友達の様な雰囲気が漂っているようだ。



 佐藤さんは、深い眠りの中に戻っていった。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!


 次もよろしくお願いします!

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