十七話 帝都リンドブルム
いよいよ帝都に到着!皇帝の目的は!?
ストラウス率いる騎馬隊とサトー達は、シルバガント帝国の「帝都リンドブルム」に今日――到着する予定だ。
現在は帝都の南方にある岩石地帯を、ゆるりとした速度で進行している。そこは大小の岩山がそびえ立ち起伏の激しい土地だった。この岩石地帯を越えたすぐ先に帝都の城門がある。都市の門であるため、市門とも言える。
「なるほど、南は天然の要塞だな。これだけ起伏が激しいと南から攻めるのは難しいだろう。」
佐藤さんはまだ見えぬ帝都を、覗く様にして言った。ここは日差しの照り返しが強く、森林地帯と比べると気温がグッと高くなった様に感じる。
「あら、軍師殿、帝国と戦争でも始めるおつもりですか?」
リーシャは、冗談っぽくからかった。
「縁起でもない事言わないでくれっ!聞こえたらどうすんだ!帝都についた途端、捕縛とか嫌だからな俺は。」
佐藤さんはリーシャを横目で見た。
「サトーは心配しすぎなのよ。泥舟に浸かったつもりでいなさいよね。」
今度は、不安がる俺をからかっている様だ。表情がなんともいやらしい。
「やっぱ沈むじゃねぇかっ!いや、沈ませようとしてるよな!?それ!?俺だけ沈ませようとしてるよな!?」
佐藤さんは、ペトラの後ろに隠れる様にして座った。
前方の兵士から笑い声が聞こえる。
「めっぽうお強いのに、女性には尻に敷かれている様だなサトー殿は!」
ロザリーもペトラまでも笑っている。
お、俺のイメージが……もっとなんかこう、強くなったら「キャー!サトー様かっこいいー!」みたいな感じになる筈なんだが、何故だ!ええぃ!どこからこうなったっ!!
最初からである。転生した瞬間に佐藤さんは、そうゆう星の元に生まれてしまったのだ。
何故ならば!作者である、このわた――(以下略)
「帝都みえてきましたよー!」
ロザリーが、バランスを保ちながら背伸びをする様に、進むその先を覗き込んだ。
「おぉ流石にでかいな……」
帝都が見えたと言うよりは、帝都の中心にある城が見えたと言う方が正しい。城下町は岩山と頑丈そうな城壁でほとんど見えない。大きさは……正直距離感が掴めない、大きすぎて感覚がおかしくなってしまう。
「私もここまで大きな都市は見たことないわっ、王都と帝都の差がこんなにあるなんて……」
ちなみに、帝国とは――王国より大きな領土を持っており、複数の王国を支配下に置き、王国よりも強大な国の事を指す。
であるため、必然的に王都よりも大きいと言えるだろう。
岩山の緩い傾斜をゆっくりと降りて、平地――と言えるのか分からないが、だいぶ下の方までくだってきた。
そこで馬車の速度が上がった。ここからは城門までほぼ一直線の様だ。道幅は広くない、馬車一台通るのがやっとだ。
ここからは早かった。城門の兵士が、ストラウスの姿を確認すると、お堀に素早く跳ね橋を掛けて、止まる事なくスムーズに、通り抜けて帝都に入る。
街並みはパルサと似通った点が多いが、背の高い建造物が多い。建築技術があまりないのかと思っていたが、意外と発達しているのかも知れない。高さにすると三、四階ぐらいだろう。
城門を通過して、数分が経ったが城が近づいている気がしない――いつ着くんだこれは……街中なので多少スピードを落としたが、ゆっくりと言うほど遅くもない。
「ペトラは帝都に来たことあるのか?」
佐藤さんは、城までまだ時間がかかりそうなので、ペトラと世間話でもする事にした。
「勿論あるのですよー?でも、何度見てもドキドキしてしまうのですよー!」
俺はこの世界にくる前、背の高い建築物なんて見慣れていたが、久しぶりな事もあってか、両側にズラーっと並んでいるのを観ると少し圧迫感を感じる。背の小さいペトラならもっと大きく見えている事だろう。
「あれれ?リーシャ殿はあんまり興味がなさそうですな?感受性が乏しいと見受けられますな。ほっほっ!」
佐藤さんは、顔をぐにゃーんと伸ばし、上からリーシャを覗き込んだ。こんなに腹の立つ顔は、普通の人間には真似できなさそうである。
「あら、あなたの顔が真っ赤に染まる姿なら、楽しく見ていられそうなのだけど、私の感受性とやらを伸ばすために協力してくださる?サトー殿。」
そんなに優しそうな顔で、こんなに狂気じみた事を言えるのはリーシャくらいだろうな……
表情だけなら、思わず首を縦に振ってしまいそうになるから怖い。
「や、やだなーリーシャさん、冗談に決まってるじゃないですかー!」
毎度のことながら胡散臭い反応だ、ニンマリとした顔で両手を擦り合わせている。この男には学習能力が欠落しているのかも知れない。
「リーシャ殿ペトラに返り血が飛ばない様にだけして欲しいのですよー!」
ついに、ペトラまでもサトーをいじり始めてしまった。
「――えぇっー!嘘だ!ペトラ酷い!ペトラが冷たい!!ペトラだけは味方だと思ってたのにっ!」
佐藤さんは、余程ショックだったのか、だらしない顔でペトラに泣きついている。
「ペトラも負ける戦はしたくないのですよー!」
佐藤さんは、この御もっともな言葉に納得したのか、真顔に戻り、何事もなかったかの様に振る舞った。
「今日はいい天気だね。」
声が死んでいる。まるで心にポッカリと穴が開いたようだ。ペトラに冷たくされた事で、佐藤さんはこの世の終わりのような顔をしている。まるで灰の様だ。
すると、ペトラが気を遣ってサトーの横にピッタリとすり寄ってきた。途端に佐藤さんは明るさを取り戻すと同時に、にやけ面も復活した。
「冗談なのですよ?よしよしなのですよー?」
にやけ面のサトーを見て、リーシャは、分かりやすい奴ね――と思って鼻で笑った。
そんな茶番劇を繰り広げている内に、城にかなり近づいてきた。城は丘のように盛り上がった場所に建てられているため、少し坂を登らねばならない。
おそらく自然なものではなく、人工的に丘を作ったのではないだろうか。都市の場所や防壁などもかなり守りが堅そうであるから守りに対する意識は強そうだ。
ロザリーは馬に乗りっぱなしなので、早く休めてやりたい――と、佐藤さんは思っていた。城の中で気が休まるとは思わないが、少なくともお尻は休まるだろう。
ここでようやく、本当の意味での城門をくぐった。ここも石造りの門で頑丈そうに見える。幾重にも扉が存在していて、一気に攻め入るのは難しそうだ。門の中はトンネルの様になっていて、その内径は複雑な形をしている。
何か仕掛けがあるのだろう。佐藤さんは城門を観ながら推察したが、もし良い関係を気づけなかった場合、ここから脱出するのは不可能だと感じていた。
守りが堅すぎる。これでは入るのは勿論だが抜ける事も不可能だ。抜け道自体は存在するであろうが。
考えれば考える程不安になってきたので、佐藤は馬車を降りるまでの僅かな時間を、瞑想してリラックスしようとしていた。
「緊張してるの?」
急に後ろからリーシャがくっついてきた。
佐藤はびっくりして手足をバタバタと動かし、背中にふんわりとした柔らかい感触を感じて慌てて離れた。
「ば、ばか!逆に緊張するからっ!」
リーシャは佐藤さんの反応を見て面白がっている。そんな表情だ。
だが、大声を出したからか分からないが、緊張がほぐれた。リーシャに見抜いているぞと、言われている気がした。
気が回るというか、洞察力が鋭いというのか。関心していた。
佐藤さんは、もっと根本的な、肝心な部分には気付いていない様だ。鈍感と言う言葉がこの男には相応しい。
城門の中で馬車から降り、城まで歩き始める。そこから五百メートルくらいはあろうかという距離を歩き、城の中に招かれた。
石造りの巨大な城の中に入ると、だだっ広い空間が奥まで続き、巨大な石柱が並びそれを支えている。横長のホールの様だ。
左右には大小様々な階段がある。人が一人通るのが精一杯の階段も有れば、大勢で通れる階段もあった。
大きな階段には決まって、煌びやかな刺繍を施した赤絨毯が引かれてあった。その中の一つをストラウスと、サトー達四人は登っていく。何段にも続く階段を登り謁見の間の前に到着した。
サトーは深呼吸をした。皇帝とゆうのは、王の中の王であるからほんの少し無礼を働いただけでもどんな目に合うか分からない。普段からおちゃらけた事ばかりしているが、それなりに慎重さと警戒心を併せ持つ男だ。
扉が開かれ中に入ると、天井や壁には人物画が描かれており、王の座から真っ直ぐ赤絨毯が伸びている。
クロヴィス皇帝陛下は、まだこの部屋にはきていない。ストラウスが絨毯に片膝をついて待機したのを見て、サトー達はそれを真似る様にして、膝を着き、こうべを垂れた。
「エインリル・ダ・レイモンド・クロヴィス第十一代皇帝陛下が入室される!深く頭を下げよ!!」
ゆっくりと、豪華そうな服を着飾った老人が部屋の奥から現れた。
玉座に腰掛け、優しげであり、強さの感じる太い声で一言だけ言った。
「顔をあげ、楽にせよ。」
皇帝陛下のその顔は、老いを感じさせるはずの、表情にあるシワには深みの様なものを感じる。威厳――この言葉が相応しい。派手な服装からでは無く、表情とオーラが皇帝であると言っている様だ。
「私がエインリル・ダ・レイモンド・クロヴィス第十一皇帝である。」
顔を下げたくなるほどの圧力だ。これが皇帝か……
佐藤さんは冷や汗を身体に感じながら、真っ直ぐ皇帝を見据えている。
「堅苦しいのはここまでにしよう。まずはストラウスよ。大変ご苦労であった。後ほど褒美を使わそう。」
先程までの声にも、優しさのようなものは感じていたが、今の声はまるで孫に語りかけるおじいさんのような、そんな暖かみがある。
「勿体なきお言葉、皇帝陛下に感謝致します。」
広い部屋にストラウスの澄んだ声が響き渡る。
「さて、早速じゃがサトーという者は誰じゃ、一歩前に出て顔を見せよ。」
余りの緊張に脚が動かないかも――と思ったが、自分が思うよりも先に、体が前に出ていた。
「私がサトーでございます。皇帝陛下の御前で口を開く事、どうかお許しください。」
佐藤さんは、最初の一言を噛まずに言えた事に安堵した。
「ふむ、随分と若く見える。その若さでストラウスが剣を交える気にならぬ程の強さとは、にわかにも信じられぬのぉー!」疑っている様な雰囲気では無く、気分が良さそうに驚いているという感じだ。
「はっ。サトー殿は剣術――ではなく、尋常でない身体能力を持っており、その速さの前にこのストラウス。動く事すら敵いませんでした。王をお守りする騎士でありながらこの体たらく。大変も――――」
ストラウスが汗をポタポタと垂らしながら話す。
「良い、気にするでない。ストラウスよ。お主の実力は良く知っておる。凄まじい実力のお主が敵わぬ程に、サトーが優れているというだけの事だ。」
皇帝陛下はストラウスの言葉に割って入り、気にするなと優しく宥めた。
「サトーよ、もしお主が良ければわしに、その力の片鱗で構わぬ。見せてくれぬか?」
「はっ。喜んで。」
佐藤さんは、一度の踏み込みなら問題ないだろうと思い全力の踏み込み、いや移動を見せることにした。
五メートル程下がった場所から特に構えたりはせず、棒立ちの状態になる。次の瞬間――――皇帝のすぐ目の前で膝を着いていた。
これは最早、瞬間移動と言ってもいい、佐藤は説明に困るため、この動きに名前をつける事にした。
「止水」とその場で名付け、皇帝に説明した。水すらも動く事ができぬ速さであると。
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