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十話 暗雲立ち込める。

 いよいよ、佐藤さんの見せ所がくるのか?


 だけど、佐藤さんの能力は一体どうゆうものなのか、それはまだ秘密。

 ストラウスが重々しく口を開いた。

「すまない――私はサトー殿に剣を教えられる気でいた……だが、私ではあなたに剣を教える事ができないようだ。」





「えっ!そんなっ!!――」

 俺は本気で剣術を学ぶ気で来た。

 だが、断られる理由になんとなく察しが付き、言葉が出てこなかった。



「あなたの先ほどの踏み込みは……あの踏み込みだけで私を凌駕していると言っていい、あの速度で切り込まれれば常人は反応すらできないだろう。私であれば運が良ければ防御できるかもしれない。それほどの差があるのだ。剣術がどうこうの話ではない。」



 ストラウスは、顔色に少し影を落としながら続けた。



「私は自分に、才があると思っていた。以前はシルバガントの首都で、騎士団の副長を務めていた経験があるが、この国の中でも、私と互角を張れる者、私より強い者を含めて両手で数えられる程度だと思っていた、それも僅かな差だ。こんなに力の差を感じた事は今までに一度もない。」




「サトー殿は見たところ、十代もしくは成人して間もないくらいの年齢だと察するが、いつからその強さを?失礼を承知の上でお聞きするが、あなたには魔族の血が流れているのではないのですか?それならば、まだ納得がいく。」

 佐藤は、何だか睨まれたようなそんな気分になった。


「あ、えっと……」

 佐藤さんが口ごもっている所を、すかさずリーシャが割って入った。

「彼、記憶がないんです。昔の記憶が。」


 リーシャは、サラッと答えた。佐藤さんは、リーシャがいて良かったと心から思った。こう言うのをアドリブとゆうのだろうか、頭の中でグルグルと考えてしまって言葉がなかなか出せないのだ。


 ただ、記憶がないとゆう事にしているため、魔族ではないか――の問いに対してハッキリと否定することができなくなったが、ペトラにも記憶喪失だと説明しているから、他に選択種はない。





「ふむ、であれば、魔族の血が混ざっている、もしくは魔族の可能性を否定はできないな。勿論可能性の話なので、気を悪くしないで欲しい。だが、他に可能性があるとすれば、私が知っているのは、転生者――くらいのものだな。これも眉唾に等しいが。」

 先程は落ち込んでいる様子だったが、今はサトーの目を覗き込むように見ている。




「!!」

 転生の言葉を聞いて、佐藤さんは硬直した。表情を変えていないだけマシだが、背中にじっとりとした汗をかくような、そんな思いで話を聞いているに違いない。



 本人も、リーシャも簡単に転生者である事を打ち明けるべきではないと考えている。


 もし転生者であることが広まれば、遅かれ早かれサトーの存在がこの世界に知れ渡る事になる。今、ストラウスが転生の言葉を口にしたとゆう事は、以前にそうゆう歴史があると言う事だ。



 であれば、転生者が持つ力も想像できなくはないだろう。全ての人が――である。



 何故、軽はずみに打ち明けるべきではないと考えるか、それは未知のリスクを含んでいるからだ。



 世界中の人が、自分の事を知っていたとして、皆が自分に対してどうゆう感情を抱いているか分かるだろうか。



 人の考えは多種多様である。

 憧れを抱く者、尊敬をする者、悪意を抱く者、利用する者。



 誰がどうゆう感情を抱き、いつ何時どこから、自分に対してどのようなアプローチをとるか分からないとゆうのは――――


 特に戦闘経験のない今のサトーにとって、転生者であると知られる事は極めて危険な事であると考えるからだ。



 人は極端に力のある者を恐れ、滅ぼさんとする。


 これは過去の歴史を紐解けばすぐに分かる。飛び抜けて力を持つ同じ人間に対して、異端であるとか、魔女であるとか、悪魔の子であるとか、恐れから妄想を作り出し、その者が戦う意志がないと、害をなす気はないとどれだけ懇願したとしても、迫害、殺害を実行に移す。


 故に、佐藤はその歴史を知っている事もあるが、本能的に言うべきではないと思っている。


 佐藤がリーシャに転生者である事を話したのは、助けてもらった恩があるとゆう事、嘘をついた事に強い罪悪感を感じた事、なによりリーシャを心から信用したためだ。


 一緒に旅をし始めてまだ数日と短いが何か感じるものがあったのであろう。




 自分の事を魔族ではないか――などと疑っている者に話せるわけがない。




 佐藤さんは一呼吸置いてから質問する。

「転生者とはどのような存在でしょうか?」



「文献で読んだ事がある程度の知識だが、異世界で死にこの世界に転生を果たした者、神により力を与えられし者――だそうだ。」



「過去にその転生者はどのような事を成したのですか?」

 佐藤さんは、何か情報引き出そうとしているようだ。



「すまないが私には分からない。かけらほどもそんな事を信じていなかったものでな――今はサトー殿を見て、可能性がなくはないと思っているが。」




「そうですか、残念ですが、先程リーシャが言ったように私には記憶がないので否定も肯定もする事ができません。」



「ふむ、そうですな……ひとまず今日のところはお引き取りいただいてよろしいか。何にせよ、私には稽古をつける事ができない事はお分かり頂けたであろう。」



 リーシャは、この話を内密にしてもらう事はできないだろうか――と、考えていた。


 だが、内密にしてくれと言って、分かったと言ってくれる雰囲気でもないし、承諾したとしても言わない保証もない。下手をすると墓穴を掘る事になりうる。やはり、黙って帰るのが妥当か……


 すると、ずっと黙っていたペトラが普段とは違う、落ち着いた雰囲気を漂わせながら口を開いた。

「ストラウス殿、先日も言った通り私の命の恩人なのです。記憶の事に関してはデリケートな問題であると思いますので、あまり噂になるような事は……もし可能であれば内密にて配慮して頂けたら助かるのですよー。」



 二人は、初めてペトラが少しまともな喋り方をしたような気がした。


「確かにそうだな、配慮しよう。ペトラ殿の頼みでもあるしな、憶測で何でも言うべきではないと私も考えているから大丈夫だ。」



「ありがとうございます。それでは、今日はこれで失礼致します。」

 佐藤さんが頭を下げ、後ろの二人がそれに続いて頭を下げた。



 ペトラにまた借りができてしまった。もし、佐藤かリーシャが内密になどと口走れば、間違いなく魔族か転生者、どちらかの可能性が高いと、疑いはストラウスの中で強くなったであろう。


 ひとまずは、乗り切った――か。

 だが、気になっている事はまだある。それはペトラだ。





 一つは、ペトラにも疑心が少しくらいはあるであろう事。


 ペトラに話すべきか判断をしなくてはならない分岐点に来てしまったと言えば分かりやすいか。


 幼女の成りをしているが、中身は腕利きの商人だ。いつ見抜かれるかわかったものではないし、バレるのであれば、こちらから正直に本当の事を話した方が幾分かマシである。勿論ペトラなればの話だ。




 ストラウスと比べるのが失礼なくらいには、信用しているし、感謝もしている。腕利きの商人とゆうのは、信用されているからこそ――であるしな。




 二つ目は、先程の機転の効いた発言だ。これは、ペトラが何かに気付いている可能性が高い。判断をする分岐点と言ったのは、これで確信に近いものになったため、言うか言わまいかを決断しなければならないと感じたからである。



 三人は、剣術場を出てとりあえず住む予定の家に向かっている。



「今日は今からどうするのですー?特になければ、ペトラは賃貸の主人と話をつけてくるですが、良いです?」

 やはり何だか勘ぐられているような気がする――と、佐藤さんは感じた。



「あぁ!頼むよペトラ!ありがとう!」



「では、今日からあの家は自由に使ってくださいですよー!何か困った事があったらいつでもペトラの家に来てくださいですよ!しばらくは街にいるつもりなのです!」




 ペトラが手を振りながら少しずつ離れていく。

「あー、やっぱり可愛いなペトラ。」

「珍しく意見が合うわね。」




 どうゆう意味だそれは……まぁ、ふざけている場合ではないか。


「とりあえず一度家に帰ろう。」

 リーシャは黙って頷いた。



 二人は一言も喋らずに家まで戻った。先程の緊張感は二人とも全く抜けていない。誰に聞かれるているか分からないし、下手に喋りたくないと思ったのだろう。




 家の中に入り鍵を閉め、空いている小窓がないか確認をして、リビングに座った。


「絶対とは言えないけど、尾行はされてないと思うわ。尾行される事自体は問題じゃないけれど。」


「そうか。リーシャの感知スキルはとてつもなく有能だな。」



「当たり前でしょ?」

 相変わらず偉そうな言い方だが、リーシャはいつものようなドヤ顔が出来ておらず、若干顔が固そうだ。




「……ペトラに話すべきだと思うか?なるべく早く、話すか話さずにいくか決める必要があると思うんだけど。」


「……それを聞くって事は、ペトラの事を信用しているんでしょ?私も信用できるとは思っているけど、その判断は私にはできないよ。」



「じゃあ、ストラウスさんは?」

 佐藤さんは、勿論ストラウスさんに話す気など全くないが、なんとなく聞いてみた。




「ダメに決まってるでしょ!?馬鹿なの!?ペトラの話が出たから意外と頭回るじゃんて思ったけど馬鹿なの!?死ぬの!?」

 リーシャは、真顔で目だけを見開き、まくしたてた。


 えぇ……軽い気持ちで言ったら百倍くらいになって返ってきたよ、どうするよこれ、いつもに増して怖いよー……



 ニンニク油濃いめもやし増し増しだよー……可愛い時と怖い時のギャップすごいんだよ、リーシャさん……




 佐藤さんは気付いていないが、こうゆう態度をとる時のリーシャはサトーを心配している事が多い。勿論、理不尽なパターンもあるが……


「すいません、冗談です、ほんの気まぐれで聞いただけです…」


「なら、良かった。」

 リーシャは、にっこり笑った。





 え、これ笑顔?なのか?


 超怖いんですけど……目が見開いたまんまなんですけど。



 実はファンタジーじゃなくてホラーなんじゃないのこれ?



 逃げるか?逃げるべきか?これ。



 佐藤さんは、怯えながら仕方なく話を続ける。




「ペトラは信用できる人物だと意見が一致した訳だけど、話すメリットと隠し通すメリットどっちが多いと思う?かな?」リーシャにビビっている事を隠すために、気持ちの悪い笑顔になっている。変顔と言ってもいい。



 リーシャはテーブルに肘をつけて手を組み、顔を乗せて俯いている。佐藤さんの変顔ともとれる顔は、幸いにも見えていないようだ。




「うーん、メリットかぁー。話すメリットは心が痛まない。こちらから本当の事を話せば、理解してくれるかもしれない。そうゆう意味ではリスクを減らせる。隠し通すメリットは、私達が思っているような人間ではなかった場合――ね。どう見ても人を騙す人間には見えないけどね。」



 リーシャが隠し通すメリットを話した時、サトーは何故か背筋が凍るような思いをした。




「ペトラに限ってそんなことある訳ないよな。うん、やっぱりペトラには話すべきかも知れない。」



 ひと段落ついたと思ったリーシャは提案をする。

「食材の買い出しだけ済ませたら、日が落ちるまで外に出ない?もう少し調べたいんじゃない?自分の能力。」




「あっ、忘れてた。そうだな。今出来ること少しは確認しておかないと。」



「頭が回るのか、抜けてるんだか、分からない人ね。」

 リーシャは鼻で笑った。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!

 欲を言えば、評価をして頂けると嬉しいです!


 読者を惹きつけられる作品にできるよう頑張りますので、次もよろしくお願いします!

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