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転生の加護


兎に角カレーを食べてみて~、と言われたので私は早速コンデリーを使ったカレーっぽいものを頂いた。


まずは匂いを嗅いでみる。なるほど、カレーよりは胡椒や薬味系の匂いのほうがきつい気もする。


匙でカレーをすくう。サラッとしたスープカレーのようだ。


「白米が無いでしょう?だからパンでも合うようにスープ系にしてみたのよ?」


と葵さんが説明する。なるほど。


まずは一口飲んでみた。口の中でスープを味わう。確かにカレーに似ている。似ているが…何かが違う。後一歩何か決定的な味が足りない。


う~ん、そうだな。私は味が足りない聞いたときに閃いた事を話すことにした。心配そうに見つめる葵さんと未来の顔を交互に見る。


「私が以前、あちらの世界で市販のカレールウでカレーを作っていた時に試していた方法なのですが…」


「おお、何々?」


葵さんと未来さんが私ににじり寄る。


「はい、2社ないし3社のブランドのカレールウを混ぜるというものです。各社カレーは味が違いますので、混ぜることによってよりコクが出て深みのあるカレーになっていました」


「そっそれか!つまりこのコンデリーを別の香辛料のお店で買って混ぜればいいのよね?」


葵さんに頷いてみせた。


「各店で香辛料の分量は独自かもしれませんし、聞き取りをしながら色々なお店のコンデリーを入手してみるのも良いかもしれませんね」


葵さんと未来さんに抱きつかれた。


「さすがぁー!カスミン先生」


「私も~その技試したかったっ!」


女3人で、どこのカレールウが美味しかったとか、最近のあちらの世界の流行の食べ物の話をしながら居間に入るとザック君とミチランデお母さんが楽しそうに笑っているのが目に入った。お母さんは笑顔を私に向けた。


「お疲れ様、ヒルデ」


「ヒルデ~あのね、ミチランデさんのお腹の赤ちゃんものすごく動いているよ。元気だね~」


そう言ってザック君はピョンピョンと飛び跳ねながら私の腰に抱きついてきた。ザック君可愛いな~。


「生まれてきたらザック君も仲良くしてあげて下さいね」


「うん!」


「まあ、男の子でも女の子でもモデルのような体型の子供であるのは間違いないわね!」


と、葵さんは言うのだけど、もし女の子なら標準体型にしてあげて欲しい…。


さて部屋に入ると、ガンデンタッテに向かう準備をする。準備と言っても食料はカデリーナさんと葵さんとガレッシュ殿下がご準備するらしい。


はっきりと言っちゃうと、今回のガンデンタッテ行きのメンバーでガレッシュ殿下が一番料理を作るのがお上手だ。皇子だけどプロだと思う。


殿下本人からお聞きした所、最近まで市井で生活されていたとかで、皇子殿下として皇族に入らなければ、料理屋さんを経営したかったとおっしゃっていた。


それほどの腕前をお持ちならばお料理店のプロデュースをされたらいかがですか?と聞いてみたら


「ぷろでゅーすって何?」


と聞かれたので説明すると、それを聞いた未来さんも大変喜ばれたので、ガレッシュ殿下プロデュースの料理店を出店することになりそうだ。


ガンデンタッテに出発の朝


夜明けと共に起きて、葵さん、ガレッシュ殿下、未来さん、皆さんと旅の食材の調理をする。


「魔獣の肉類は俺やヒルデ達もいるから食材の確保は大丈夫だよ」


ガレッシュ殿下から確保と聞いて私も思いついたので


「あ、あのっ山で採れる山菜やキノコも私見つけるの得意なので、お任せ下さい」


と言うと、葵さんと未来さんに見詰められる。何でしょうか?


「カスミン…あなた逃亡生活でそんな生活をしていたのね…」


「山に逃げ隠れなんて…辛いよぉ」


いや違う。


ただ単に山菜摘みが趣味だったのだ。これは生前からの趣味だ…ババ臭くてすみません。


今回のガンデンタッテ王国への旅、(ギルドの昇格試験を含む)は


ナジャガル皇国からは葵さん、ナッシュルアン殿下、未来さん、ガレッシュルアン殿下、ルル様、ザック君、私、シューテさんとジーパスさん。


カステカート王国から、カデリーナさん、ヴェルヘイム様、フィリペラント=カステカート殿下、リューヘイム君。何故か護衛の方はいない。


シュテイントハラル神聖国からはレミオリーダ=ロクナ=シュテイントハラル王太子殿下、アルクリーダ=ロクナ=シュテイントハラル第二王子殿下と護衛の方2名というとてもゴージャスな面子だ。


それにしてもフィリペラント殿下とアルクリーダ殿下のアイドル顔がたまらないっ!


しかしフィリペラント殿下の中身は残念な感じだけどね。見る分には眼福だ。


ナジャガルの貴賓室に集まった方々を眩しそうに見つめながら


「魔力もキラキラしているけど、ビジュアルもキラキラしているなぁ」


と、うっとりと独り言をつぶやいていたらルル様が近づいて来た。


「ヒルデ…ギルドの監督官が挨拶に来ている」


私は慌てて試験監督官のおじ様とお兄様のお2人の所へ駆けて行った。


「本日は宜しくお願い致します。ヒルデ=ナンシレータと申します」


私がギルドカードを提出すると、おじ様の方の監督官の方がギルドカードと手元の書類を確認された。


「はい、宜しくお願いします。本日はSSクラスの昇格試験ですね」


「はい」


「特例でケツァルコアトルを倒した後の羽を別の方が抜いて提出するということですが、お間違えないですか?」


「は、はい。申し訳ありません。どうも鳥類が苦手でして触るのが…」


おじ様は苦笑いをされている。


「まあケツァルコアトルを倒すことのできる腕前かどうかを判断するだけですので構いません」


私はもう一度頭を下げた。すると私の頭をルル様がまたポンポンと撫でてくる。


「羽は俺が捕ってやるから心配するな」


ルル様ーーっ!何でまた最近接触が激しいのでしょうか?


「じゃあ行くか~」


とナッシュ殿下が掛け声をかけられたので、皆でゾロゾロと庭に出る。ガンヴェラー湿地の近くのマジカシまで転移門で移動だそうだ。


「実質、移動中の魔物、魔獣退治も出来るかどうかも監督対象…ということらしい。ガンヴェラー湿地は徒歩移動が原則なんだ」


とルル様の説明を聞きながら転移門まで歩く。


皆様が転移門に入ると、術師の方が転移門を起動した。キューイインと小さく音が鳴る。一瞬暗転したが、すぐに視界が開けた。マジカシに着いたようだ。転移門の魔方陣から出るとナッシュ殿下は声を張りあげた。


「ここからマジカシの宿屋まで移動します。我々は宿屋で待機だから…ヒルデ頑張ってな」


え?もしかして?ギギギ…と首を動かしてルル様を見た。


「聞いていないのか?ケツァルコアトルの巣までは監督官と俺だけが随行するのだが?」


ルル様の無表情フェイスに抗議の声を上げようとした私より早く


「は、反対ですっ!」


「危険じゃないですかっ!」


ジーパスさんとシューテさんがほぼ同時に叫んだ。いやあの…危険はしかたないんじゃないかな?一応昇格試験だし…。シューテさんも叫んだ後に矛盾に気が付いたのか、小声で謝罪をしながら私に近づいて来ると、その端正で綺麗な顔を近づけてきた。


きゃあっ近衛のアイドルの顔がっち…近い!


「俺も一緒に行く」


「はぁ…?」


「ちょっ…シューテさん!ずるっ…俺も行くよ」


いやいやジーパスさんもどうしたの?


アイドル2人に囲まれてしまい、困った時のルル様頼み…とばかりにルル様を見ると、ルル様は少し頷いた。


「お前らの実力じゃケツァルコアトルに頭から食われちまうぞ」


と無表情に淡々と告げた。え?ケツァルコアトルって人を食べるの?


「まじでぇ!?」


「ひぃ…それは…」


ルル様はジーパスさんとシューテさんの肩を抱くと彼らの耳元で何か囁いている。


「留守番しております!お気を付けて!」


と2人はあっさりと引き下がった。何だったのだろう…。


兎に角


気を取り直して、ガンヴェラー湿地の手前で皆様と別れて試験監督官2人とルル様との4人で向かうことになった。一応ナッシュ殿下とガレッシュ殿下に湿地を歩く注意点は聞いている。


「じゃあ、魔物理防御と消音消臭…透過魔法を皆様にかけますね~」


「え?」


とルル様が目をすがめた。どうした?


「ヒルデ…全部使えるの?」


「ええ、何か?」


ルル様が何か呟いて舌打ちをしている。


「ナンシレータさん、その高位魔法の重ね掛けが大人数でも使えるほどならば、SSSの昇格試験も受けても宜しいのでないですか?」


若い方の監督官さんに言われて苦笑が漏れる。


やっぱりですか?両殿下から早く受けろ受けろ、と急かされているのですよね~。


「SSSの試験内容はどういうもので?鳥との一騎討ち以外なら、問題ないと思いますよ?」


「SSSはサラマンダーの鱗を2枚提出です」


おじ様の方の監督官の笑顔を見ながら、『サラマンダー』の特徴を思い出していく。


「確か三つ首だか四つ首だかの蛇でしたよね。」


「蛇…」


「蛇には違いはないが、長寿になればドラゴン種に変容すると…」


そう説明をされる若い監督官のお兄様を見る。


ああ、あれね。本当に蛇からドラゴン…龍になるのかな~そもそも種族が違うと思うけど。まさかの脱皮とか?抜け殻が気持ち悪そうだなぁ。


「ただの爬虫類ですよ」


「……」


私はそう切り捨てると、何とも言えない顔で立っているルル様と監督官のお2人に重ね掛け魔法をかけた。


「では参りましょうか」


私はそう言って湿地に踏み出した。


湿地の中は巨大生物の巣窟だった。サソリに似た魔獣、巨大な蛇のような魔物…。私は走り出したが流石は監督官のお2人とルル様は遅れることなく着いて来る。


騒いだり、不必要に魔獣や魔物に触れなければ湿地の中では比較的安全だ…と殿下達に教わったので、透過魔法は有効だ。


普通は走ったり、今回のような大人数で重ねがけすると魔力がぶれて、魔法が途切れるらしい。


私は大丈夫だ…そこだけは妙な自信がある。魔術に関しては『可能性は無限』だった。恐ろしいことなのだが、魔法を扱う上で使えない魔法は無いのでは…とも思う。


これが私の『転生の加護』なのかな?苦手な術式系統が無い。この世界でそんな体質…魔質かな?の持ち主は今の所私だけらしい。


私が、異界の乙女か…。未だに信じられない。異界の乙女に関する文献も読んでみた。やっぱり信じられなかった。でも勇者の剣を呼んでしまった…しかも相手はルル様だ。


召喚の儀式の前に、男爵家ご出身のメイドの方に呼び止められて言われたことがある。


「あなたが異界の乙女なの?くすっ…全然似合わないのね」


私は知っている。このメイドの彼女はルル様に淡い気持ちを抱いている。しかもリッタさんにお聞きした所、結構派手にルル様に交際を申し込んで淡々と断られたということを。


性格は勝気なお嬢様みたいだけど、綺麗な方なのよね。まさかルル様に振られるなんて想像もしていなかったのじゃないかな…。


「ヒルデ、止まれ。ここからケツァルコアトルの巣の近くだ」


ルル様の声に足を止めてルル様の背中を睨む。


どうせ付き合って下さい!とあのメイドの方が喜々として申し込んだのに、淡々と


「断る」


とか一言でバッサリと切り捨てたんでしょう?そんな言い方するから女の子に余計に執着されるんじゃないっ!この朴念仁!

お読みいただきありがとうございました

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