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頭ポンの破壊力

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ルル様とジャックス兄貴と家屋に入り怪我人の有無を確認し、西へ向かう前にもう一度地図を広げた。


「ここに町会場がある。ここを拠点にして住民を一時避難させよう。住民を見つけ次第、町会場に移送。まずは町会場に向かおう」


「御意!」


「了解」


まずは町会場、公民館みたいな建物…に辿り着いた私は建物全体に魔物理防御障壁を張った。今回は私自身があちこち移動することになるので、術式を書いた式紙を建物に貼り付けて、術式を永続魔法にした。これで障壁が途切れる心配は無い。


「よし、これで魔物が建物内に侵入することはないな」


ジャックス兄貴の指示の元、ルル様と共に再び住民を捜して移動する。


「前方、複数人の魔力あり!」


「よしっ!」


ジャックス兄貴に告げると更に速度をあげてジャックス兄貴が駆けて行く。やっぱり普段は魔力も力も抑えているのかな…ルル様もそんな感じがするけど。


見えてきたのは建設中の建物だった。恐らくこれが建設中の魔道具工場なのだろう。


「ナジャガル第一部隊の者ですっ!怪我人や要救助者はいませんかっ!?」


ジャックス兄貴がそう声をかけながら建設資材を置いている空き地の方へ声をかけると男性が2人駆け出して来た。


「よ、良かったぁ~」


「助けて下さいっ!作業員が魔物に襲われてっ…」


私は資材置き場に飛び込んだ。


「どちらですか!?」


男性の案内で資材置き場の奥、作業員の詰所のような小さな小屋に入った。その小屋には若い男性とおじさんが寝かされていた。いけないっ!魔力の輝きが小さい!


私はすぐに治療ドームを形成してまずはおじさんの方から治療を始めた。魔物の魔素が傷口から体内に入り込もうとしている。このままいけば体が壊死してしまう。


よしっ、治療が始まった。すぐに隣の若い男性の傷をみる。指が欠損している。


私は意識のある若い男性と傍で見守っている男性の顔を交互に見ながら話した。


「再生治療はまだ私も修行中ですが…どうしましょうか、治療に時間はかかりますがシュテイントハラルの術師の方をご紹介はできますが…」


「ヒルデ、再生は難しいか?」


ルル様は男性の手を見詰めている。


正直なところ、カデリーナさんから再生治療を教わっている最中でまだ自信が無いのだ。治療魔術の扱いには自信がある。読み解く才能もある…という自負もある。


ただ再生治療は別物だ。


カデリーナさんの再生治療用の魔方陣を見せてもらったが、複雑なうえに、なんとフランス語?と日本語を混ぜて術式を描いているのだ。これは私が魔方陣を見せてもらって初めて気が付いたことなのだが…。


術を作っている本人のカデリーナさん自身も気が付いてなかったらしい。


「いつも感覚でバア~ッとかドカ~ンとか作っているのですよね~」


術式の魔術構成を聞いてもカデリーナさんらしい返答だった…擬音語ばかりだった。


「やってみましょうか…」


カデリーナさん曰く、術を発動する前に、治れ~治れ~というイメージで映像を頭の中に浮かび上がらせているということだ。


感覚的魔術師か、理論型魔術師の逆ね。私に出来るかな…


まずは治療ドームを形成する。ここまでは順調…そして男性の手に魔力を注ぎ込む。指…第一関節…骨、皮…筋肉、筋…爪…


ピカッと頭の中で男性の指の映像が浮かんだ瞬間、術式が発動した!


「…出来ましたっ!」


「出来たか」


思わずルル様を見上げると、思ったより近い位置でルル様が私の顔を覗き込んでいたみたいだ。目の前に迫るルル様のドアップにオタオタしていた時、外から悲鳴が聞こえた。


「ぎゃああ!」


「ま、魔物!」


私とルル様は外に飛び出した。ジャックス兄貴がすでに抜刀して構えている。


「飛来系の魔物だっガリガウンダーだっ!」


ジャックス兄貴が私達にそう叫んだ時に私は小さく悲鳴をあげてしまった。


ガリガ…?ガリガウ…ってっ!?


「大きい(からす)っぽい鳥じゃないかっ!いや、まだ鶏や鳩よりはマシか…ええでも…」


怖さにワナワナ震えてブツブツ呟いてる私の横で、場の空気が変わった。


冷気のような風がルル様の周りに渦巻く。ルル様は腰のヨジゲンポッケから『鬼の面』をゆっくりと取り出し、顔に装着した。


「変身っ!」


いや、実際ルル様は叫んではいないけど代わりに思わずそう言ってしまった。そう言ってしまうような変化?だった。冷気がより一層強まり、ルル様の体を包む。そして冷気の渦が収まり始めるとそこには甲冑をまとい、手に童子切を持ったルル様が立っていた。


「わっ!」


「何だっ!?」


「カッコいい!」


またも思わず叫んでしまった私を許して欲しい。


私は異世界でアイドルオタクだった。最推しは『F☆RA-HI』のカズくんだが、実は隠れて某変身ヒーロー出身の小柴リョーくんも大好きだった。


リョーくんの変身した後のヒーローコス、実はナジャガルの制服に似ていて萌えるんだよね!


「クエェェ…!」


鴉もどきの雄叫びに一気に現実に引き戻された。


デ、デカい!体長3mくらいはあるんじゃないだろうか。体は黒光りしている羽が気味悪い。うわぁ…6匹はいるよね。


「ヒルデ…」


「っはぃい!?」


突然変身ヒーロールル様から声をかけられて声が裏返ってしまった。


「この剣はどう扱えばいい?」


どう?どうって…確か日本刀の刃は片刃だけど…これは勇者の剣の扱いだから、そうじゃないよね?え~と…


「あ、あの魔の眷属を両断するイメ…両断するように剣を振えば大丈夫かと思います!」


ルル様は兜の下で頷いたようだ。表情が面に隠れて全然見えないけれど大丈夫なんだろうか?


ルル様は一歩踏み込んだ。リーーーンと鈴のような音が鳴り響く。


「っはぁぁぁっ!」


風が巻き起こったと同時に物凄い光が放たれた。思わず目を瞑った。


とてつもない威力の何かの力が辺り一面に拡散している。


ソッ…と目を開けてみると、辺りは静まり返っている。いやと言うよりも空気中に漂う魔力が澄んでいる…浄化という単語が当てはまるだろうか。


魔力が浄化された。鴉っぽいガリガウンダーは影も形もない。


「消えた?」


「やった…やったぁ!おいっルルっ!これが勇者の剣の力か?」


ジャックス兄貴の大きな声で皆さんも気が付いたようだ。周りの作業員の方々から歓声が上がる。


ルル様が私を顧みた。兜の下で表情は見えないけどルル様の口が笑みを浮かべている。私は頷き返した。


ルル様は変身したまま私達と巡回を続けた。住民を見つける度に町会場に移送したり、怪我人のお世話をしたりと時間はかかったけど、夕方過ぎには無事に討伐と住民避難は完了した。


そして救援物資と救護隊員と警邏部隊が到着して、私達は無事に任務が完了した。


町会場の奥の事務所で一時休憩をしていると、ルル様の変身ヒーローっぷりを見たジャックス兄貴は盛んに、いいな~いいな~を連発していた。


「俺も勇者の剣欲しいな~」


と私をチラチラと見てくる。


「2本も剣を召喚って無理じゃないですか?」


「諦めろ」


「っんだよ~ルル!自分が持ってるからって偉そうに!」


高価な某ヒーローの変身ベルト所持を自慢をする男の子達の会話みたいだな…


その後、私達は任務の引継ぎを終えると、転移魔法で皇宮へ引き上げた。


さて帰っても私にはもう一仕事ある。討伐完了の報告書の作成だ。報告書を書くのも部下の務めだ、仕方がない。


詰所の机で1人、報告書を書いているとルル様が第一の詰所に入って来た。


あれ?もう帰られたと思いましたが?ちなみにジャックス兄貴はもう離宮に帰っている。


「ルル様どうされましたか?」


ルル様は、メイドのお姉様方を惑わせるという噂の仕草…小首を傾げながら少し微笑んでいる。


ルッ…ルル様!その目潰し攻撃(仕草)はいけませんよ!?


いけません、非常にいけませんよ?ナジャガルの軍服を着用された上に、その仕草は刺激が強すぎます!こんな夜に私を萌え殺す気ですか?


「ヒルデは…やはり鳥類が苦手なんだな」


「はい…今その話題はテンショ…いえ、気鬱になるので止めて頂けますか?」


きゃあ!ルル様素敵ぃ…からの鳥類の話で、本気でテンション下がります。


報告書を書いている私の机の横に腰を下ろしたルル様は少し…ほんの少しだけ上目遣いで


「今までの討伐時にそれこそ魔獣鳥や大型の猛禽類とかにも遭遇することがあったんだろう?その時はどうしてたんだ?」


と聞いてきた。はあ、益々テンションが下がる話題だ。


「死骸に触るのも怖いので、それらを殺さないように逃げていました。Sクラスの依頼は鳥類が絡むものは受けないようにしていましたし…生きていても死んでいても触れないので、万が一うっかり殺してしまっても亡骸をそのまま放置して置いてきたりもしていました」


「勿体ない。魔獣鳥は食べたら美味しいのに…」


私は死骸のソレを思い出して総毛だった。


「ルッルル様ぁ!?知らないのですかっ!アレを丸焼きにして目の前に出される恐怖をっ!?とても恐ろしくて美味しいなんて絶対に思えなくてっ…」


私は身を震わせながら、ルル様に言い募った。するとルル様は、ポン…と私の頭に手を乗せると


「ゴメンゴメン…悪かった」


と苦笑した。


苦笑された。


苦笑された顔を始めて拝見してしまった!


おまけに全世界の乙女待望の『頭ポン』をやられてしまった!この2人っきりの空間で!


萌え死ぬ…


萌え死んで意識を飛ばしていたのか…いつの間にか離宮に帰り着いていた。私が帰った早々、葵さんと未来さんが待ち構えていた。


「ちょっと~カスミン」


未来さんが私の胸に飛び込んできた。どうしたんだろう?


「今日頂いてきたカレー粉、早速使ってカレーにしてみたのよ」


「おおっ!どうでしたか?」


葵さんの言葉に葵さんと未来さんの顔を交互に見ると…あれれ?表情が暗い。


「う~ん…カレーに似てはいるんだけどいまいち味にパンチがないのよね~」


「カレーの味がうっすいんだよぉ~わかる?カスミン」


ははぁ~なるほど。カレーの深みや味わいに一歩足りないのだね。


私は自分が思い出したことを皆様に伝えた。

何度も言っておりますが、変身ヒーロー大好きなんです

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