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面妖な面


嫌だ、嫌だと言っていてもいずれはやって来る訳で…とうとう勇者の剣の召喚日になってしまいました。


浪漫や夢が無いけれど剣の召喚なんて寝転がってても出来るみたいで、召喚者には一切負担は無いらしい。だったらこんなお歴々の方々が見守る中でしなくてもいいのでは?と思うのだけど葵さん曰く


「只の皇族の見栄と威厳を示すだけの、おじさんによるおじさんの為のおじさんを喜ばせるだけ式典よ」


と、バッサリと切り捨てていた。


確かに、明らかにワクワクしながら待っているのはおじさん(役人や貴族)ばかりだ。そのワクワクしている中にはナジャガル皇国の皇族方と、カステカート王国の王族方も含まれている。


「見世物ですね」


「そうですね~香澄ちゃん、ここは割り切りましょうよ。これは大手ゼネコンの社長を前にしたプレゼンですよ」


カデリーナさんの例えは流石に元教師の私にはピンと来ない。すると…


「カスミンにはここはパリコレのランウェイさ!堂々とランウェイしてきなよ」


未来さんがサムズアップして私を見た。今日、未来さんは第二妃らしく濃紺の綺麗なドレスを着ている。ああ、可愛いな…。私もそんなドレスが似合う女になりたかった。


ランウェイか…取り敢えず、大きいからとコソコソ歩くのだけはやめて背筋を伸ばして歩こうか。姿勢だけは無駄にいいもんね。体術の訓練ばかりしているから…ああ、益々可憐な女子から遠ざかる。


「そういえば、居ても居なくてもいいのですが、おじさん達はどこに行ったのでしょう?」


おじさん…カデリーナさんがおじさんというのはご主人のヴェルヘイム様のことかな?ヴェルヘイム様はアラサーだけど、とてもおじさんの括りに入っちゃうような容姿ではない。


私でも見上げるくらいの背丈の、若干鋭い目つきだが、とんでもなく美形なお兄様だ。


「ホントだね。ガレッシュもどこいったんだろ?」


未来さんもご主人のガレッシュ殿下を捜している、ガレッシュ殿下もいないの?


するとおじさ…じゃないヴェルヘイム様が音も無く大広間に入って来ると、カステカート国王陛下に何か耳打ちした。そしてナッシュ殿下の側にも行って耳打ちしている。ナッシュ殿下が一瞬、私を見たので、私は静かに葵さんのお傍に移動した。


「どうしたの?カスミン」


「ヴェルヘイム様のご様子が少しおかしいようです。あ、こちらにいらっしゃいましたね」


葵さんと私の所へヴェルヘイム様が来た。相変わらず魔力がすごいな〜。美形の迫力もすごいけど。


「警邏の詰所の更衣室に……面妖な面が出現したらしい」


「めんようなめん?」


葵さんがヴェルヘイム様の言葉を復唱された。


するとカデリーナさんがヴェルヘイム様の脇腹に肘鉄を入れた。


「ちょっとヴェル君!そんなオヤジギャグかましてっ!真面目にしなさいよ!?」


「真面目だ…」


するとナッシュ殿下が足早に近づいてくると


「兎に角、警邏の詰所へ行ってみるよ」


と言って歩きだした。


「ちょっと待って!私も!」


葵さんが尽かさずナッシュ殿下に同行した。私も葵さんの護衛なので後を追う。ヴェルヘイム様が私の横に来た。


「面妖な面は異質の力を放っていた。何が起こるか分からない。気を引き締めろ」


「御意」


「待ってぇ〜〜〜私もぉ〜〜」


後ろを振り向くとカデリーナさんがヒィヒィ言いながら走って来ていた。超スローモーションな動きだけど…。見かねたのか、ヴェルヘイム様が迎えに行った。


「カデちゃん危ないから…」


「ヒィ…皆、行くのに…ゲホーッ……私も、行きたいです」


ゆっくり着いてきた未来さんに追い抜かれながら、カデリーナさんはそれでも一緒に来られるようだ。


辛そうだな…そうだ。


「カデリーナさん、詰所までおんぶしましょうか?」


私がそう言うと、何故だかカデリーナさんに怒られた。おばあちゃんじゃないよ!とかも言われた。


でも、後でカデリーナさんにしょぼんとしながら謝られた。


「香澄ちゃんごめんなさい…。長身の香澄ちゃんに嫉妬したドチビの私の僻みです」


「そんな…お気になさらず。私こそカデリーナさんのような華奢な女性になりたいです。魔法で1日だけでもいいから体が交換出来たらな〜とか思っているくらいです」


私がそう言うとカデリーナさんは小躍りしていた。


「やだぁ~その魔法作って!作って!私も香澄ちゃんの体で一日快適に無敵に過ごした…ああそうです!憧れてたロングドレスが着れるんじゃない!?」


そう言ってヨジゲンポッケの中から洋服のカタログを出してくると付箋を貼っているページを開いて見せてくれた。なるほど…かなりの長さのドレスですね。これは身長が無いと映えませんね、分かります。


「これ着てみたいのですよ~私が着ると七五三か十二単になっちゃうでしょう?」


お気持ちお察しします。


オイロリ先輩ご希望の毛生え魔法と痩せる魔法と並行してボディチェーンジ魔法も早急に開発しておきたいと思います。


 ◆ ◆ ◇ ◇


私達が警邏の詰所に到着すると、詰所の中になっちゃんと旦那様のジューイ中佐、そしてガレッシュ殿下がすでに来ていた。


「詰所の更衣室の中の机に変な仮面がおいてあるんだって~」


と私達に気が付くとガレッシュ殿下が更衣室を指差してそう言った。


「殿下方は御下がりください、ヒルデ」


「はい」


私はヴェルヘイム様と一緒に神経を研ぎ澄ませながら更衣室の中に入った。私の後ろから遅れて来たカデリーナさんと葵さんが付いて来る。


「危ないってアオイッ!」


「大丈夫ですよ、いざとなればヴェル君を盾にしますから」


と叫んだナッシュ殿下にカデリーナさんが旦那様を盾にする発言をしながら私のすぐ隣に来た。


更衣室の机…確か窓際にあったはず、各隊員のロッカールームを抜けて窓際の方に移動すると…ソレがあった。


「ぎゃああ!」


「きゃあ!」


「ひぇ!」


私が恐怖のあまりに叫んだことによって葵さんもカデリーナさんも叫んでしまった。


瞬間に殿下達や警邏の隊員達も皆が中に押し入って来た。


机の上に乗っているソレは、おどろおどろしい形相の口元から牙が見え、頭に角が生えておりあの顔のフォルムは…。


「!」


「アレなんだ?」


「は…は…般若のお面だーー!」


「そ、それだっ!」


カデリーナさんが叫んで葵さんが叫んで、私も気が付いた。そうだ…般若のお面か、でも待って?


「は、般若にしてはお面の顔が白くないですよね?これ鬼の面…」


と言いかけてハッとした。


鬼の面?待って待ってよ?私このお面っぽい姿のモノ描いたよね?思わずカデリーナさんを見る。カデリーナさんもこっちを見ていた。


「か、香澄ちゃん…アレね、アレ。あの鬼の甲冑…あのデザインのと同じですよね?そうよね?そ…そうだよねぇ!?」


やめてカデリーナさんっ!?ええ?嘘でしょう?


「勇者の剣だぁぁ!?」


「ええ?あれが?」


「仮面じゃないか!?」


皆様がざわつかれています…。嘘でしょう?でもどう考えても私がデザインした中二病満載の鬼のお面です…。おまけにあのお面から異質な力が流れてきているのも事実です。


「ルル…」


その時、ルル様が人垣の中から現れた。ルル様は静かにお面の側まで歩いて行った。


「ル…ルル様っ!危険です!」


私が近づこうとしたルル様を制した。ルル様は私を見たりお面を見たりしていている。


「これ、ヒルデが描いていたのと似ている」


余計なことを言うなーー!


室内に居るおっさん達が一斉に私を見た。


「ルル君、それは鬼の面と言って本来は仮面と一緒で…顔につけるものなのよ?」


と葵さんが説明するとルル様は一切の迷いも見せずにお面を顔に近づけた。


「ああ!?」


そこで未来さんが急に声を上げた。今度は叫んだ未来さんを皆様が見詰める。


「お面ってやばくない?ホラ、呪いの仮面とかって付けた途端に取れなくなったり…」


「いやぁ!?」


私はまた絶叫して、ルル様を止めようと側に駆け寄った。遅かった…。ルル様はもうお面を被っている。


「ひえええ…呪いが…」


「ルル君?大丈夫…なの?」


葵さんがルル様を覗き込もうとした時に異変が起こった。


「うわっ…」


ルル様が絶叫した!絶叫したルル様の体の周りを光が包み込む。


「きゃああ!」


「ルル様っ!?」


私は手を伸ばした。光の粒子に包まれたルル様が私に手を差し出していた。思わず掴んだ時に更に眩しく光った。思わず目を瞑った。


「ひえええ!?」


未来さんとカデリーナさんが同時に絶叫したので目を開けた。私はルル様の胸に抱かれていた。


ん?


顔を上げて驚いた。


ルル様は右手に日本刀を持っていた。そして上半身に鎧を装着している。そして顔は半分が兜に覆われている。ご丁寧に兜の上には角の飾りがついている。もちろん私が描いた中二病炸裂の衣裳を着ていた。


しかしこ…これはぁ!?


「へ…へ…変身ヒーローだぁぁ!」


はい、未来さんの仰る通りですね。今確かに変身されましたね。


「お面が変身アイテムなの?斬新且つ格好いいね!」


いやいや葵さん…そんなおどろおどろしいお面のヒーローじゃ子供も泣いちゃう…。


「……」


はっ!そう言えばルル様がやけに大人しい。いやいつも大人しいけど、いつもにもまして大人しい。


「ルル様…?」


顔半分は兜の防具に覆われて見えないけれど、口元と目元は開いているのでルル様の顔を確認しようと覗き込んだ。


「…が…」


「はい?」


「俺が勇者?」


ルル様は右手の日本刀を持ち上げた。リーーンと鈴虫が鳴いているような音が更衣室内に響く。


「ドウジギリ…。剣がそう言っている」


「ど…童子切だってぇ!?」


未来さんが走り込んで来てルル君の刀を「貸して」と言って取り上げた。


「確かにこの業物は普通の刀で…は…あれ?」


未来さんが掲げ持っていた刀が急に消えた。え?え?と皆がキョロキョロしている時に私は気が付いた。


自分の腰の周りから嫌な気配を感じる。そう…腰のヨジゲンポッケの中から異質なあのお面と同じ力を感じる。


どうしてあの刀が私のヨジゲンポッケの中にいるのよぉぉ…!


中二病炸裂。浦は響鬼が好きでした。


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