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ルル画伯の力作

刀の知識はふんわりです。ご了承下さい。

誤字修正しています

結局


ルル様に押し切られた形で昇格試験の申込を済ませ、軍の詰所に戻って来た。


「ゼベロッパー元帥はいつお戻りになられるんでしょうか?」


「ああ、明後日かな~丁度ヒルデと入れ違いかな?」


私が空席の執務室を見ながら聞くと、第一部隊の副官リッタさんがそう返してくれた。リッタさんはルル様と同じ元ガンドレア帝国、現ガンドレア共和国のご出身で大きな熊さんみたいな人だ。私は心の中でスノーマンと呼んでいる。肩の丸っこいフォルムがあのキャラと似ているのよね。


「でもわざわざシュテイントハラルまで出かけなくても腰の治療なら私でも出来ましたのに…」


「そうなんだよね~。うっかりしていたよ、でもゼべロッパー元帥も奥さんとシュテイントハラルへ一緒に旅行なんてそうそうないことだしね。ゆっくり養生してきて欲しいよ」


そうリッタさんは見た目もスノーマンだけど中身も優しい雪だるまさんだ。


「でもヒルデの方は大丈夫?勇者の剣の召喚もして、すぐにガンデンタッテに行くんだろう?おまけに冒険者の昇格試験も一緒に…って誰がこの日程で強硬しようと言い出したの?女の子にはきついよ」


うわ~~ん、リッターマンしか女の子扱いしてくれないんですよぉぉ。


「ナッシュ殿下です…」


「あ……あの方たまに暴走するからなぁ。ご自分が超人だから、普通の人の体力気力を(おもんばか)れないっていうか、まあ頑張れ」


「はい。暫く留守にしますがお願いします」


本当にそうですよ…。私もですね、ナッシュ殿下にいくら何でもスケジュール詰め過ぎじゃないですかっ!と物申しに行ったのですよ?そうしたら、綺麗な菫色の瞳で私をジッと見て


「ヒルデなら出来るだろう?」


と言ってきたんですよっ!私なら出来るってどういう意味だ!女子っ女子っ!私っ女子だから!


と言っても無駄でした。


おまけにさ…今日の昼からルル様に呼び出されている。私、今日は午後から半休なんだけど…。ゆっくり寝たい。


重い足取りでナッシュ殿下と葵さんのお住まいの皇宮の奥にある離宮に向かう。


ここには今、ナッシュ殿下ご夫妻とヴィヴィアンナ皇女殿下以外に大人数の同居人がいる。お世話係のニルビアさんの他に、弟殿下のガレッシュ殿下と奥さんの未来さん。ジャックス兄貴と弟のジャレット君。そしてシュテイントハラルからザックヘイム=デッケルハイン君、8才。


そして私達親子の3人と…とんでもない大人数の同居だ。実は私達はそろそろ引っ越しをして独立する予定だったのだがそこへ母が妊娠したのである。勿論そのまま出て行こうとしていたのだけど、妊娠初期でこれから引っ越し作業なんて大変だ!と殿下達に止められて結局、今も同居している。


でも正直なところ、異世界人の皆さんもいるし楽しいし、私はこの離宮での生活が好きだ。


離宮に入ると、ニルビアさんが歩いて来られた。あれ?複数人の魔質を感じるけど?


「お帰りなさい、ヒルデさん」


「ニルビアさん只今戻りました。裏庭が騒がしいですが?」


「カステカートからのお客様なんですよ、今はルルさんがお相手していますよ」


ルル様が相手?


気になって裏庭を覗くと、おおっとカステカートにお住まいのカデリーナさん(異世界転生者)と旦那様のヴェルヘイム=デッケルハイン中将閣下。そのお2人のお子さんのリューヘイム君7才、とレオンヘイム君5才。


なるほど、ルル様はリューヘイム君とレオンヘイム君の2人と組手をしているのか。


「あ~香澄ちゃんお帰りなさい!聞きましたよ?勇者の剣の召喚をするんですってね?」


カデリーナさんの声にリューヘイム君達と組手をしていたルル様がグルンと魔質を私に向けた。


『俺っその剣欲しい!』


正直、顔は涼し気だけど魔質は暑っ苦しいです、ルル様。


カデリーナさん(日本名は藻月 楓(もづきかえで)さんと言うらしい)は私とルル様を交互に見た後


「もしかして、香澄ちゃんがルル君の勇者の剣を召喚するのですかぁ?」


と、ここで一番発言して欲しくなかった内容を私達にぶつけてきた。


ルル様の目が輝いた。ルル様は私の方に小走りに走り寄りながら懐に手を差し入れた!


もしかして!?その懐から出そうとしているのはドスか!?(長脇差)ドスを出すのか!?


私は身構えながら走り込んできたルル様の動きを注視した。ルル様は懐から手を抜き切った。


ルル様の手には一枚の紙が握り締められていた。


良かった刀じゃなかった…。ルル様はその紙をおもむろに私に差し出した。


その紙にはちょーーーんと真ん中に何か絵が描いてある。ぶっちゃけ小さい子が描いた落書きみたいだ。


「ん?ああ…これレオン君のお絵かきですね!」


「違う…」


あれ?そうなの?この怪物みたいな絵?てっきり魔獣とかを描いているのかと思ったけど…。


「召喚して欲しい剣の意匠だ」


「へ?」


「剣の意匠だ」


私は紙に描かれた魔獣?を見た。よく見ると魔獣…ではない。動物?か何かをモチーフにした細長いもので更に得体の知れない細長いものが横から生えている?


「これ何です?」


「剣の意匠だ」


いやいやそれは分かったけど…剣のデザインだって?これのどこにデザイン性を感じるの?そもそもこの棒状?の何かが何か…私には判別つかないんだけど?


「ん…やっぱりこれレオン君が描いたんですよね?」


「いや、俺が描いた」


「んああ!?」


思わずその摩訶不思議な絵とルル様を交互に指差してしまう。ルル様はコクコク…と頷いた。


「わあ~剣のデザインですか?どんな感じです~?やっぱりルル君はクールなデザ……」


私の持っているルル画伯の絵を見てカデリーナさんは固まった。たっぷり一分は固まっていた。


「やだ~ル…ルル君っ!もうぅ~これマヌマヌとかぁモンドリ…何とかとかいう魔獣ですよね?ね?」


カデリーナさんが渇いた笑いを浮かべながらルル様にそう言うと、流石にルル様は少し顔色を変えた。


「いえ…あの、長剣を持っている俺を描きました」


ちょーーーん。


いや待てあのね。そもそも剣だけ描けばいいのよ?ルル様のデフォルメキャラはいらないから!


何故に自分も描き入れるかな?ああ~そうだ、子供で絵を描くのが苦手な子ってリンゴを描けと言われれば、リンゴ以外の物も描き入れて…下手を誤魔化そうとするらしい。それに空間認識能力も欠如しているともいうし…。


「これはぁ…う~む」


カデリーナさんはそのちょーーんとしたルル画伯の絵を見て唸っている。


ルル画伯は段々魔質が萎れてきた…。ああ、責めてる訳じゃないのよ?ルル様はまだ20代前半よね?そりゃ大人からこうもダメ出しされたら凹んじゃうよね。


「ルル様、私も手伝いますから。一緒にデザイ…意匠を考えましょうか?私、こう見えても高校生まではプロの漫画家を目指していた喪女なので絵心はありますよ~。但し少女漫画しか描けませんので、剣とか武器は苦手で…」


「きゃあ香澄ちゃん漫画家さんになりたかったのですか?じゃあ〇ャンディー〇ャンディー描いてみて~!」


ひぇ!そうきましたかカデリーナさん。


「すみません。そのキャラクターの存在は知っていますが、絵柄などは存じておらず…」


カデリーナさんはショボンと肩を落とした。そうですよね…確かアラ還世代の女子には大ヒットした漫画ですもんね。私は代わりに〇ラえもんと〇ラミちゃんを描いて後でユタカンテ商会のドラミンにあげた。


カデリーナさんはそのイラストを見て泣いて喜んでいた。


さて


ルル画伯と私はリビングのテーブルを挟んで静かに見つめ合っている。ルル画伯の緊張した魔力が私にも感じられる。


いやあの~たかだか剣の絵よ?何故絵を描くのにそんなに緊張するんだろうか?


「いくぞっ…」


「っはい!」


ルル画伯は羽ペンを握り締めると、白い紙にグルっと円を描きだした。ちょっと待て。


「お待ちください、ルル様。そもそも剣の意匠で丸い曲線が必要なのでしょうか?貸して下さい。」


私はルル画伯から羽ペンをひったくると、白い紙をひっくり返し裏側に自分の記憶にある日本刀を描きだした。


私が持つルル様のイメージは侍だ。剣豪ルル様には日本刀以外の剣は有り得ない。


そう言えば…鬼っ!と以前、ルル様を詰った時に何となく思い出していた。酒吞童子を切ったとされる天下五剣の童子切…あの刀、展示されているのを見に行ったことがあるけれどすごく恰好良かったな~。


あの白銀に光る太刀の輝き!そうだ、刀の持ち手を保護する意味で刀と小手の防具も一緒に召喚出来たら素敵よね?


描いているうちに喪女オタク魂に火がついて、ルル画伯そっちのけで中二病満載の日本刀+甲冑を描き殴っていた。


ハッ…と気が付いた時にはルル様、カデリーナさん、ヴェルヘイム様、おまけにリューヘイム君、レオンヘイム君…皆が私の描く中二病満載イラストを覗き込んで見ていた。


いやあああぁ…恥ずかしいっ!


隠そうとしたら、鬼神の如くの素早さでヴェルヘイム様にイラスト画をひったくられた。


「ちょ…ちょっ…」


オロオロする私をよそにデッケルハイン一家はイラストを覗き込んでいる。


「格好いい」


カデリーナさんが呟いた。ヴェルヘイム様も大きく頷いている。リュー君とレオン君がキラキラした目を私に向けてきた。


「これ召喚しましょうよ!ねえルル君!これいいよね!」


カデリーナさんがイラストをルル様に見せるとルル様はなんと、頬を染めて微笑んでいるではないか!


ひえええっルル様の極上の微笑み頂きました!…そうじゃなくって!そうじゃないのだ。


「皆さん落ち着いて下さいっそもそも刀を召喚出来たとしても甲冑は無理ですからっそんな都合よくいきませんからっ!」


とか何とか言っているのにさー。ルル様が頑として譲らないのよね。本当に頑固なんだから…こういう所が侍っぽくって召喚したい刀のイメージとは合うんだけど…そうじゃないよ。


「刀は兎も角、甲冑は無理ですって」


「頑張れ…」


「頑張っても甲冑なんて召喚出来ませんよ!常識的に考えて下さい!」


ルル様は綺麗なアイスブルーの瞳をスッ…と細めた。


「剣の召喚自体が非常識だ…出来る」


珍しくルル様が反抗的だ。いつも大人しいくせにこんな所で粘り腰を見せる。このぉ~。


出来る…出来るって!殿下といいルル様といい…私はこれでも女子なんですよっ!


天下五剣を言いたかっただけです

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