隣のおねーさん4
隣のおねーさん最終話です。
お兄様とお姉様は散々揉めてから、やっと大人数可の宴会場がある居酒屋を決めて予約を入れた。
そしてイケマッチョ、ジャックスさんから皆様のご紹介がされた。
ナジャガル皇国、ナッシュルアン皇太子殿下と葵妃、ガレッシュルアン第二皇子殿下と未来妃、ジューイ=ゾアンガーデ公爵家子息と那姫夫人、ミーツ=ブルブランドさん、奥様の実莉さん。
カスミちゃんとルルさんは今日はお仕事で欠席とのことだった。カデリーナさんとヴェルさんも同様だ。
居酒屋までの移動はなんと電車を使うことになった。高貴な方と公共交通機関!目立ってしまうんじゃないかと緊張したけど、幸いにも乗客の方はこちらを全然見ない…助かった。
「そうそう、カデちゃんに聞いたわ。冷蔵庫の扉、ヴェルヘイム様が壊しちゃったんだって?」
「相変わらずあの旦那は馬鹿力だね」
葵さんと未来さんに普通に話し掛けられて、頷きながらも苦笑いが溢れる。
「ノリどうしようか?」
ノリと…聞かれた実莉さんはちょっと考え込んでいる。
「修理を頼む?」
「待って下さい〜あの高級冷蔵庫きっと扉だけでも修理代高いですよっ!ダメですよ〜」
突然、うちのお隣さんだった?相模 那姫さんが反対をしてきた。
相模さんが顔を近づけてきたので、皆さんが自然と顔を寄せた。そして相模さんは声を潜めて私達に耳打ちした。
「だってあの冷蔵庫…40万円くらいしていました」
「何だってぇ!?」
「高ぇ!?」
「6ドアの大型だもんね…」
葵さんと未来さんが悲鳴をあげている。ノリさんは溜め息をついていた。
「本来の冷蔵庫としては使ってないし…あのまま放置しておけば?」
葵さん達はそう言って笑っていたけれど…私はその時に周りの異変に気が付いた。
先ほどから皆さんは結構な声の大きさで喋っているんだけど、何故だか乗客の人からは視線を向けられることは無い。そしてもう一つ気がついた。こんな美麗なお兄様お姉様の集団に何故乗客は無関心なのか…。
その謎は居酒屋で明かされた。葵さんがピンク色の綺麗な水晶?を見せてくれた。
「幻術魔法と消音魔法…ですか?」
「そうなの~。つまり私達が違う顔に見える様な幻を見せる魔法と音を消す魔法を同時に使っていたの。因みにこの魔石っていう石にね魔法をかけていて、それぞれが発動しているんだけど~この石、カスミンが作ったのよ?あの子すごい魔術師なのよ」
「へぇ~凄い便利な魔法ですね!カスミちゃん…綺麗なうえにすごい魔術師さんなんだ~」
「この幻術魔法があったら変装必要ないよね~」
「だね~、しかも透過魔法って言ってね…」
お姉様達は色々と異世界の知識を教えてくれる。そう言えば旦那様達大人しいね…。粛々とメニューを見ている男性陣…。
「ちょっといつまでメニュー見てるのよ。こっちにも貸してよ!」
「あっ!」
葵さんが皇太子殿下のメニューを取り上げた!容赦ない…。私は急いでタッチパネルを葵さんに差し出した。
「葵さん、こちらで画面を見ながら注文が出来ますので!」
「あらっ最近の居酒屋ってこういうのあるの?」
お嬢様だったらしい(奏雅の元副社長)葵さんはそりゃこんなリーズナブルな居酒屋には来ないだろう…。私は皇太子殿下にメニューを返した。
「ゆっくりお選びくださいね、私が注文しますから…」
あれ?皇太子殿下と第二皇子殿下が目頭を押さえてるよ?どうしたんだろう…炭火焼きの煙が目に染みた?換気が悪いのかな?
私は皆様の注文を聞き取りながらタッチパネルでお料理とお酒を注文していった。しかしおかずと一緒にチーズケーキ?おまけにスーパーデラックスパフェ…本当に今、食べるの?
「これがイザカヤか…」
「シテルンもこんな大人数の入るお店を作りたいわ~!」
皇太子殿下夫妻の話を何となく聞いていると、料理が運ばれてきた。
あれ?第二皇子が急にお通しとお酒のグラスの写メ撮り、手帳?みたいなのを出してきて盛んにメモってる…何でしょうか?すると奥様の未来さんが
「ああ気にしないで…本業がシェフで副業が第二皇子なくらい料理作るの好きなのよ」
と言っている間にもお刺身の盛り合わせがきて、今度は立ち上がって写メを撮っているご主人を笑顔で見詰めている未来さん。
「ええっ皇子殿下なのにお料理…これまた意外ですね」
あんな美形な皇子殿下の趣味?がお料理か面白いね。
「ミスズ、これはお菓子だな?この緑の粉は何だ?」
真剣な表情で写メを撮っている弟の隣のお兄ちゃん(皇太子殿下)はメニューのデザートの所に載っている『抹茶わらび餅』を指差して私に聞いてきた。
「やだぁまたお菓子?ゴメンね~この人甘いもの大好きなのよ~」
葵さんがお通しの長芋の醤油和えを食べながら、そう言って皇太子殿下をニヤニヤしながら見ている。
「お茶を粉末にしたものを、ワラビという種類のお餅にかけたものです。苦みと甘さが感じられますよ」
つい、プレゼンテーション調の話し方になってしまった。癖って怖い。そうか先に注文したパフェとチーズケーキは皇太子殿下が食べるんだ。兄弟揃って何だか自由だね。
皆さんは器用にお箸を使ってお刺身を食べている。そして注文していた、揚げ物、寿司…お肉、デザートが何種類も運ばれて…飲んで盛り上がり大騒ぎし…帰るころには異世界人の皆さんと仲良くなれた。
しかし異世界人って魔法とか使えるし、根本的に私とは体の作りが違うのかとは思うんだけど、話していくにつれて彼らと私の違いは無い…同じアラサー世代の働き過ぎな方々だということが分かった。
皆総じて仕事の愚痴が長いっっ! でも私とは身分の違いは雲泥の差だけどね。
私達は程よく酔っぱらって店を出た。暫く歩いていると突然目の前が真っ暗になってちょっと浮遊感?みたいなのを感じて立ち止まったら、私の横に居たジャックスが
「殿下…転移するならするって言って下さいよ~ミスズがいるんだし」
と私の肩を抱き留めながらそう言った。え?テンイ…。転移?
「今…もしかして魔法ですか?え?魔法…私、魔法にかけられたのぉ!?」
嘘ぉ…もっとエ~イ!かけちゃうぞ、とかの情緒とか欲しかったよ!魔法をかけられた瞬間、シャラ~ンとか音とかしないの?
「そうだよ~魔法。はい、マンションの前に到着!」
んん?えええっ…私の目の前には自宅マンションがそびえ立っていた。
こんなショートカット移動が出来るの?便利じゃない!これで会社に遅刻しないで済むよね。
「凄いね…さすが殿下」
「俺も出来るけど…」
「ええっ!?」
思わず驚いて隣のジャックスを見上げる。てっきり皇子殿下しか使えない特殊魔法かと思ってた…。
「俺だってさ~軍でそこそこ強いんだけど…」
「ああうん、それは何となく分かるよ。ジャックスは良い筋肉だ」
お酒の席でジャックスの年齢を聞いて彼が一つ年下だと言うことが分かってから、調子に乗ってタメ口を聞いている。ジャックスがいいよ~と言うので更に呼び捨てにもさせてもらっている。
「そうだっジャックスは良い筋肉だぁ…!」
「大胸筋!上腕三頭筋!」
「……」
ちょっとさ、あの酔っ払…葵妃と未来妃は大丈夫なのかな?殿下達も取り押さえた方がいいんじゃないかな?
「妃殿下…夜分ですのでご近所迷惑ですよ?」
常識人っぽいスッとした御顔立ちのミーツお兄さんがそう言って妃殿下達を植え込みから立ち上がらせたけど、2人共また座り込んじゃったよ。
「葵、未来さん。お尻冷えちゃうわよ?」
実莉さんがそう声をかけても中々立ち上がらない酔っ払い2人。そうだ…。
「お姉様方、部屋飲みをしましょうか?」
私がそう言うと妃殿下2人共、ガバッと立ち上がった。
そして、部屋に着いてもグダグダ言っている妃殿下2人と皇子殿下2人、那姫さんとジューイさん、実莉さんとミーツさんは冷蔵庫から騒がしくも異世界へ帰って行った。急に静かになるね…。
「騒がしくてすまん」
「あ、いいよいいよ!私もすごく楽しかった」
ジャックスは何か言いかけていたけど、その日は静かに帰って行った。
□ □ □ ■
それからジャックスはチョイチョイ異世界に遊びに来ている。私と飲みに行ったり…日中に来た時は観光地に一緒に出かけてたりもしている。良い感じだとは思うけど、決定的な事は言われたことは無いからそうじゃない気もする。今はこのままでもいいかな…とも思っている。
そして3ヵ月と少々の日が過ぎた時
「あ…のよ、ルルとヒルデが婚姻するんだけど…式、見に来る?異世界に…」
と夜にこちらに来たジャックスから聞かされた。
そう今更なんだけど、ヒルデことカスミちゃんとルルさんはこちらの世界でモデルの仕事しているらしい。そう良く見れば…というか、気が付かない私が鈍くさいのだけど、カスミちゃんは有名化粧品のCMにも出ている今人気のモデルさんだったのだ。
そうか~カスミちゃんとルルさん結婚するんだ。
あんな大人っぽいルルさんが私より年下だと知った時は驚いたし、カスミちゃんがまだ10代だって言うのにも驚いたよね。これでも異世界の結婚適齢期よりは遅い婚姻らしい。私なんて化石じゃないか?
しかし
私が異世界に行っても大丈夫なのかな?勿論カスミちゃん達の式には是非参加させてもらいたいけど、やっぱり怖いな…。
私が躊躇っているのに気が付いたのか、ジャックスが
「怖い?」
と聞いてきた。そりゃそうだよ…誰だって怖いと思うよ?
「俺も最初にこっちに来るとき怖かった。」
「でしょ?」
「だけど、今は来てみて良かったと思ってる。」
「?」
「ミスズに会えた。」
「!」
はあ…この大胸筋男め…。サラッとこういうこと言うからどこまで本気か冗談なのか判断が難しい。
「私だってジャックスに会えてよかったよ」
私がそう言うとヘニャとした顔で微笑みましたね。こりゃアレだね。本人曰く、女の子と付き合ってもすぐ別れるんだ…とか言っていたけど、理由が薄々分かってきたよ。
普段から色っぽい台詞をガンガン言ってくるんだよ、この人。だから最初は女の子の方から惚れられる。でも、ここぞっ!って言う時にも同じ事を言うから冗談に聞こえる。真面目に捉えられない。
困った大胸筋だね~。
「カスミちゃんの式には参加したいから異世界に行ってみるけど、いい?あんた私の事しっかり守るのよ?落っことしたりしたら承知しないよっ?」
私はジャックスのイケメン顔をジロリと睨んだ。
「どうやって落ちるんだよ~空を飛ぶとか思ってんのか?大体なお嬢達も無事に…」
「はいはい…」
まだこの先どうなるかは分からないけれど…イケマッチョともう少し付き合ってみるのも案外面白いかもしれない。
次はザック君の話です。
もう少しお付き合い下さいませ




