飛来するアレ
1/9誤字修正をしています。
魔力の相性が良いのは知っていたんだけど…ここまで分かるって初めてじゃないかな?ああ、もしかして普段は魔力の放出を抑える修行とかしているのかもしれない。
何と言っても剣豪ルル様だし。
私は警邏中に商店街の外れの噴水付近で地面に落ちているゴミを拾いながら、皇宮の方をジロリと見た。見たところでルル様から発せられる『剣をくれ!』のアピール魔力が治まる訳はない。
「ヒルデは真面目だな~。ゴミは清掃員が掃除するよ?」
「分かってますけど、夕方の収集にはまだ時間がありますし、生ゴミが落ちているのは不衛生ですからね」
私はゴミを袋に詰める手を休めずにそう答えた。一緒に警邏の巡回をしているオイロリ先輩は大きく伸びをしながら
「ホントに近衛部隊の所属になっちゃうの~?」
と聞いてきた。私は拾い終わったゴミをヨジゲンポッケに入れて、自身に浄化魔法をかけてから、歩き出したオイロリ先輩に並んだ。
「はい、護衛は近衛所属というのが原則ですので、軍属のままですと警邏巡回などの仕事は護衛の特質上かけもちは出来ません。オイロリ先輩にもご迷惑をおかけすることはいけませんので。」
「本当に真面目だな~。ヒルデって見た目で損しているよな!」
と、おどけたような顔で私をビシッと指差すオイロリ先輩。
見た目…でかくて威圧感あるから、偉そうな雰囲気なんだろうか?
「はぁ…そんなに不遜な態度はしていないつもりなのですが…」
「ヒルデっ?!…お前、そうかそうだなっ!くぅぅ~ヒルデはこのまま良い子に育ってくれ!」
私は嘘泣きか何なのか分からない芝居?をしているオイロリ先輩を胡乱な目で見た。
「これ以上体が育つのは困ります。そうだ私…今、魔法で背を縮めることが出来ないかを研究中なんですよ?」
オイロリ先輩は驚いたのか小さく悲鳴を上げた。
「馬鹿っ!お前っ…そんなつまらんことにお前の魔力と頭脳を使うくらいならっ毛生えの魔術と痩せる魔術を死ぬ気で開発しろよぉぉ!世の中の為になることにお前の魔力使えっ!」
何よ?先輩ってば…そんな唾飛ばしながら怒ることないじゃない。そんなつまらないことって何よぉ…私には切実なのよ?
私は自分の剣だこの出来たゴツゴツした大きな手を見詰めて溜め息が漏れた。
男の人の胸の中にすっぽり納まる華奢な体躯!折れそうなほどの細い腰!食べても太らない神秘の体!
誰だって憧れない?私は筋肉バキバキだし体が大きいからか、毎食お腹空いてどんぶり飯だし…。
私の憧れの女子像からどんどん離れていく。
ああ、なっちゃんになりたい!葵さん曰くハリウッド女優、ナツキになりたい。そうだ、一日だけハリウッドナツキと体を交換出来る魔法作れないかな…?でもなっちゃんが私の体になるのは嫌がるか…。
巡回から戻って、会う人皆に近衛部隊への移動を惜しまれた。私と未来さんしか女子隊員いないのにっ!と、強面のマスワルト中将閣下に今日も文句を言われた。最近会う度に文句を言われる。こんなにごつい女でも一応女子枠に入れてもらえるのかな~と何か感慨深げだ。
そして警邏からマスワルト閣下から預かった書類を持って第一部隊の入っている特殊部隊の詰所に移動していると…ぎゃあ!
戸口に人待ち顔でルル=クラウティカ大尉が立っていた。ルル様からは未だに『俺っ剣欲しい!』!の魔力アピが凄まじい。
ルル様は私に気が付いて何故だが決闘に挑む剣士のような険しい顔をしている。いや、でも分かっているし?顔険しいけど、内心小躍りしているよね?
俺っ剣が欲しい!ってムラムラ…表現が変か?え~とメラメラしてますよね?
「ヒルデ、話がある」
とルル様が指差したのは詰所の裏庭だ。
馬鹿を言うなっ!そんな人気の無い所でルル様と2人きりで会ってみろっメイドのお姉様達から即呼び出し案件だよっ!
「お話はここでお願いします」
「……」
「ここでお願いします」
「………」
ルル様は一つ息を吐いて話し出した。ふぅ…2人きりの危険を回避出来た…。
「ヒルデの昇格試験をおこなってはどうか…と思って」
ルル様の言葉に血の気が引いた。昇格試験?確かSSの昇格には…アレの羽だったよね?まさか?
「丁度、アオイ様達とガンデンタッテ王国に向かう時の途中のガンヴェラー湿地を抜けた先に…SSの昇格試験に必要なケツ…」
「うわわわぁっ!」
私は突然話し出した内容に怖気だった。あまりの恐怖にルル様の言葉の続きを想像して絶叫して身震いした。ちょっとやめてもしかして…あの山の麓にアレいるの?嘘でしょう?油断していた…そうだ!私は震える手でヨジゲンポッケから地図を取り出した。
私が叫び声を上げたからルル様が珍しくびっくりした顔で少し近づいて来て一緒に地図を覗き込んだ。
「どうしたんだ?」
「いえ…あの…ガンデンタッテは…ここか。ナジャガルからは…ガンヴェラー湿地…ああ!この山!?この山にアレがいるの?!」
「山に居るアレ?」
ルル様が首を捻っている。そして思いついたのかパッと目を見開いた。
「イモゲレラドアンキーか?」
「いえ…大きなGのことですね?気持ち悪いとは思いますが棒などでつつくことも出来ますのでそれほど怖くはありません。」
「ふむ…。後はなんだ?後…いるっていえば試験で必要なケツ…」
「ぎゃあ!」
「……ケツアル」
「ぎゃっ!」
「ケツアルコアト…」
「ひぃぃぃ…」
私は完全にその姿を想像してしまって地面に座り込んでしまった。
「ヒルデ…ケツアルコアトルが怖いのか?」
「ひぃぃぃ」
やめてっやめてっ夢に出てくるよ!あんなでかい鳥がブワーツとこっちに向かって飛んで来るなんて腰抜かすどころの騒ぎじゃない!乙女有るまじき失禁騒ぎを起こしてしまうかも!それぐらいに恐怖だ。
私は地面に体育座りをしたままのポーズそのままで、ルル様に担ぎあげられて第三部隊の詰所に連れて行かれてしまった。
部屋について正気に返った私は、ルル様の手を振り払うと急いで部屋の隅に逃げ込んだ。
こんな時に限って葵さんもナッシュ殿下もガレッシュ殿下も片倉未来さん(ガレッシュ殿下の奥様)も居て、皆が不思議そうな顔で部屋の隅に居る私とルル様を交互に見ている。
「ナッシュ殿下…原因が分かりました」
ルル様の静かな声にナッシュ殿下はルル様を見た。詰所にいる皆もルル様を見詰めている。
「ヒルデがずっとSランクのままでSSの昇格試験を受けない理由…」
皆が小さく、あっ!とか言って私を見ている。私はまた血の気が引いた。まさかここで暴露するの!?クリオお父さんから自身の弱点は決して見破られてはいけない!てきつく言われているのにぃぃ…。
「ヒルデはケツアルコアトルが苦手です」
「ケツアルコアトル?」
「ケツ…それってあの大きな火の鳥みたいなのよね?カスミン…あれが怖いの?」
葵さんがキョトンとした顔で私を見た。未来さんはガレッシュ殿下と大きな図鑑?を広げて中を見ている。
未来さんは図鑑を見て「へえ~!」と感嘆の声をあげている。
「格好いいじゃん!本当にフェニックスだね!」
「そんないいもんじゃありませんっ!ただのデカイ鳥ですっ!」
私が大きな声で怒鳴ると皆が私をキョトンとしてまた見てきた。怖さのあまり興奮して大声を出してしまった。
「鳥…もしかしてカスミン、鳥全般が苦手なの?」
葵さんにそう問われて私は無言で頷いた。虫類も爬虫類も平気だ。先ほどルル様にも聞かれたイモゲレラドアンキーも何とか大丈夫だ。
ただ、鳥類が激しくダメだ。何がダメだと聞かれてもヤツラの存在そのものが私の恐怖心を煽ると言わざるを得ない。食して調理する鳥は何とか食べられる。でも姿焼きなどは恐怖で食べられない。
そう…ただあの姿で生きていて飛来してくる鳥がとことんダメなのだ。
「この世界に来て…」
「はい」
すっかり恐怖で震えあがってしまっている私の震え声の呟きに葵さんが相槌を打ってくれる。
「この世界に来て…最初に喜んだことは『鳩』がいないことでした」
「それは…鳥類が苦手な方には朗報ね」
「街中で急に飛んで来るあいつらに怯えなくて済むと思ってむせび泣きました」
「そう…。苦手なものって辛いものね」
「そういう訳で、SSの昇格試験は私には無理です。あの鳥の羽を触らないと昇格出来ないのなら一生Sクラスでも構いません」
「こっちが構うぞ!」
ナッシュ殿下が要らない合いの手を入れてきたのでジトッとした目で睨んでやる。不敬なんて知るものか…私には不敬より鳥の羽に触る方が100万倍恐ろしい。
「何だその目は?」
「触りませんよ…」
ナッシュ殿下はカッ…と魔力を上げてきた。
「これは命令だ!!試験を受けろ!」
お、横暴だぁ!パワハラ上司だよっ…。すると葵さんが
「そんな無理強いをするなんてっ皇太子殿下あるまじき卑しい行為ですよ」
とナッシュ殿下をぶった切ってくれた。ナッシュ殿下は顔色を変えて私と葵さんを交互に見ている。
すると未来さんがはいっ!と手を挙げた。
「ちょっと待ってぇ~えっとね。昇格試験の概要見ていると『ケツアルコアトルの羽の提出』とあるだけで別に羽に触れとも書いてないよ?つまりさ、カスミンが倒して誰か他の人に羽を取ってもらってもいいんじゃない?要はケツアルコアトルが倒せる実力があるかどうかを見極める為でしょう?」
「!」
皆がナッシュ殿下を見詰めた。
「一度ギルドに問い合わせをしていおいたほうがいいな?」
「行って参ります」
珍しくシャキッとしたルル様が颯爽と答えて、何故か近づいて来て私の手を掴んで一気に転移した。
ああ…ギルド前だ。ルル様はやる気満々だった。
「…という訳で試験に際し、羽を受験者本人が触らなくても試験は受けさせてもらえるのかをお伺いしたい」
窓口でギルド支部長を呼んで的確に問い合わせているルル様。
私は諦めて少し後ろで黙って立っていた。彼女が…とルル様が私を指示した時にギルドの事務所内にいる方々が一斉に私を見る。居心地悪い…。
「ヒルデ、ギルド証を」
「は、はい」
実は逃亡中は偽名でギルド証を作っていたのだが、ナジャガル皇国に永住することに決めた際に国王陛下の推薦状と一緒に氏名変更を届けているのだ。
お金稼ぎに子供の時から冒険者をしていたので、人より戦闘回数が凄いのと討伐実績があるのは分かっている。SクラスなのにSSSクラスの冒険者がやっと倒せるような魔獣を捕獲してギルドに売りに行っていたものね。
いつもギルドの方に昇格試験受けたら?とばかり聞かれていたけど「興味ない」でやり過ごしていたけど…とうとう受けないといけないのか?嫌だ…。
「はい、ギルド規定の戦闘回数は問題ないですね、いつでも試験を受けていて頂いても問題ありません」
「あの…あの…何か不備はありませんか?例えば不正な所とか…。受験資格無しになりませんかねぇ?」
窓口のお姉様に縋り付いて自分の不正がないかと問いかける不審な私。おかしな問いかけをしている自覚はある。窓口のお姉様は私のギルド証を何度も見て「と、特に見当たりませんが…。」と首を傾げた。
「もう諦めろ…」
「行きたくないって言っているのにケ…ケ…アレに会いに行かせるって…ルル様の鬼っ!」
「オニ…って何だ?異世界語か?」
私はギルド支部長に気遣われながら昇格試験の申込用紙を書かされた。横で鬼教官が睨んでいるので逃げられない。
見た目も中身も乙女じゃないけど
乙女の危機だよぉぉ!