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確かに、娘を鳥羽院に入内させることが、忠実積年の念願であることは誰でも知っている。


藤原道長の栄華を夢見る摂関家の当主なら当然であろう。


しかし、白河院は頑ななまでにそれを拒み続けた。


そのため、忠実の娘の勲子は婚期を逃し、三十半ばを過ぎた今でも独身で過ごしている。


待賢門院がいうように、忠実は可哀想な娘と自分の野心のためなら、喜んで義親を手放すことに同意するだろう。


鳥羽院も脇息に寄りかかって顎を撫でながら、しきりに首を傾げた。


「あの待賢門院が忠実を許して肩入れするとは信じ難い。そなたも知っているとおり、待賢門院は昔から忠実をたいそう嫌っておったしな」


鳥羽院の言う通りである。


もうずいぶん昔のことになったが、白河院は一時期待賢門院の結婚相手として、忠実の息子の忠通を考えておられたことがあったのだ。


白河院鍾愛の姫君との婚姻は、摂関家にとっても名誉なことのはず。


ところが、忠実はそれを婉曲且つ執拗しつように断ってきた。


その理由が密かな噂として伝わって来た時、白河院は激怒したらしい。


何でも、忠実が待賢門院を息子の妻として相応しくないと思った理由は、彼女の身持ちの悪さにあると言うのだ。


その頃、すでに待賢門院と白河院の関係は公然の秘密だったし、その上季通らとの密通の噂も密かに囁かれていた。


それを耳にした忠実は、そのようなふしだらな女はいらぬと突っぱねたというのである。


その言い分に、白河院以上に傷ついたのは待賢門院ご自身であろう。


それ以来、待賢門院は忠実に冷たい態度を取り続け、今まで一度も側に近づけたことはない。


そればかりか、女房たちの間でも、忠実の名は待賢門院の御前では禁句であったほどなのだ。


それなのに、待賢門院は自分の気持ちを曲げ、忠実に譲歩してくれるという。


鳥羽院も堀河を見ながら言った。


「そなたが待賢門院のお気に入りであることは知っておるが、これほどまでに可愛がっていたとはな。いつもの気紛れにしては、度が過ぎておる。さて、どうしたものか……」


俄かに心を決めかねているような鳥羽院を目にした堀河の脳裏に、自分の想いを遂げてみよと叱咤した待賢門院の顔が浮かんだ。


堀河は一息深く息を吸うと、しっかりと頭を上げ、鳥羽院に向って進み出た。


「どうかお願いでございます。わたくしにあの男をお返しくださいませ」

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