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そんなことを考えてつい呆然としてしまった堀河に、父は気づかぬ振りをして自分が孫娘のために探して来た縁談の話をした。


もちろん、相手は釣合いの取れる評判の良い人物で、堀河には何の異存もない。


娘自身も納得して心待ちにしているという。


後は吉日を選んで、その婿を通わせるだけだろう。


全ては父が取り計らってくれるので、話を聞いても堀河には何もすることはなかった。


それも堀河にとっては寂しいものだった。


本来なら、娘の結婚相手を決めるのも婚儀の準備をするのも、実の母親の役割なのだ。


娘にとって自分は何の意味もないのだと、改めて堀河は思い知らされた。


だから、せめて女としての結婚後の心得でもそっと伝えておこうと、今夜は一緒の寝所で寝ようと娘に言ってあったのだが、待賢門院からの呼び出しでそれすら果たせなかった。


だが、よく考えてみると、堀河が自身の短い結婚生活から学んだことなどほとんどない。


何しろ、今では夫の顔すらよく覚えていないくらいなのだから。


決して嫌いであったわけではなく、胸の奥底に優しい記憶として残ってはいるが、ずっと昔に死んだその面影は、今ではおぼろでよく思い出せない。


唯一、父親に面差しが似ている娘の顔を見る時だけ、ふと思い出すことがあるだけだった。


それに、他の男たちとの関わり合いの中で、堀河は一体何を学んだだろう。


堀河とて、夫の死後ずっと孤閨こけいを守ってきたわけではない。


ある程度の美貌が最低条件になっている待賢門院の女房である堀河のこと、言い寄ってくる男は少なくはなかった。


名の通った歌人や良家の公達と浮名を流したこともある。


だが、それらはいつも浮ついた逢瀬おうせでしかなかった。


男たちは名高い歌人の堀河と関係を持つことで、自分の歌才や権力を誇示したかったに過ぎなかったのかもしれない。


一頻ひとしきり堀河との歌のやり取りを楽しんだり、あの堀河を愛人にしているという優越感を仲間たちに誇ったりした後、男たちはやがて堀河の元を去っていった。


堀河の方は、それほど簡単ではなかった。


堀河は元々遊びの恋というものが、あまり理解できなかった。


言い寄られれば誰にでも身を任せてしまう他の女房たちに、つい苦々しい視線を投げかけてしまっていたものだ。


だが、宮中での男女の出逢いに、元々清らかで真剣な付き合いなどあるだろうか。


最初の頃、堀河はそんなことには気づかず、言い寄って来る男の言葉をそのままに信じた。


だが、そんな堀河の信頼はいつも裏切られ、堀河の胸の中に深い傷を残すだけだった。


堀河はそのような実りのない恋の憂さを嘆き哀しみ、自らの心を慰めるためには歌を詠むしかなかった。


確かに、それらの歌は読む人の心に響くものであったのだろう。


堀河の歌はますます評判を呼び、歌名の方は恋をするたびにどんどん高まっていった。

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