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堀河ははっと息を飲んだ。
資通は俯きながら続けた。
「後は、さながら地獄絵を見るようだったそうです。若殿も郎党も血反吐の中で絶命し、異変に気づいて駆けつけた者たちも、正盛が密かに従えてきた兵どもに斬り伏せられました。正盛は、若殿とその場に居合わせた主だった郎党五人の首を郎党に切り落とさせ、館に火をかけると、首を持ってすぐに立ち去ったそうです。正盛の狙いは、最初から若殿のお命、ただそれだけだったのですよ。若殿はまともに戦って勝てる相手ではない。しかし、どんな卑怯な手を使ってでも、その命さえ奪ってしまえば、若殿を中心にまとまっていた出雲の勢力は瓦解する。正盛はそれをよく知っていたのです」
「その通りになったのか?」
「はい。正盛はすぐに、自分の陣の門前に若殿らの首を掲げ、すでに若殿を討ち取ったことを出雲中に知らしめました。正盛の思惑通り、正盛に呼応していた出雲の豪族は続々と正盛の陣の方に馳せ参じ、その軍勢の多さと若殿の死に絶望した味方の豪族や私兵たちは、間もなく抵抗を諦めて逃げ散らばっていったとか。そして、正盛はすぐさま都へ若殿追討の成功を報告したのです。後は、あなた様もご存知の通りでございます」
堀河はふと思い出して、手を叩くと留守番の老女を呼び、牛車の中に置いて来たものを取りにやらせた。
それは、獅子王の太刀であった。
堀河はそれを資通に渡しながら言った。
「これは、ただ一つだけ、獅子王がわたくしの元に残していったものじゃ。形見に持っていようかとも思ったが、これは源氏にゆかりの宝刀だと聞く。それに、女のわたくしが太刀など持っていても仕方がない。そなたの忠義な心根を信じて、これをそなたに預けよう」
資通は太刀を手にとると、感慨深げに撫でさすった。
「これは確かに、若殿の鬼切部の太刀。あの時、出雲の手前で出会った郎党は、この太刀一つを携えておりました。その郎党は、たまたま下戸だったので、毒酒を飲む振りをしたおかげで助かったのだそうです。その後、館はすぐ乱戦になり、ただ逃げ出すのに精一杯だったとか。それでも、若殿の佩刀である鬼切部だけは、敵に奪われまいと、若殿の胴体からようやく外してきたのだと、わしにそれを渡してくれました」
「この太刀はそなたが持っていたのか。正盛殿は出雲で行方がわからなくなったと言っていたが」
「わしはこの太刀を持って、騒乱の出雲には入らずに、山陽へ出て若殿の首を追いました。正盛は出雲の後始末を味方の豪族たちに命じると、自分はすぐに出雲を発って京へ向かったと聞いておりましたから。そして、身軽なわしの方が先に京まで辿り付いたのでございますが……そのおかげで、あれほど悲しいものを見ようとは。わしが京へついた時、すでに正盛が凱旋してくるという噂が広まって、京中えらい騒ぎでした。わしは沿道に潜んで、そっと正盛の凱旋行列を見ていたのです。これ見よがしに若殿の首を槍の先に突き刺して、得意顔で練り歩いてくる正盛を見て、わしがどれほど悔しく辛く哀しかったか、おわかりにはなりますまい。若殿の死によって、わしの全ての望みも心の拠り所も、何もかもが失われたのです」




