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堀河は義親の死に関する正盛と実能のやり取りを思い出した。
そして、この老僧から真相を聞いてみたくなった。
「そなたはいろいろと子細を知っておるようじゃな」
老僧ははっとして口をつぐんだ。
堀河は老僧を安心させるように穏かな笑みを浮かべて言った。
「そなた、あの男のことを、わたくしに話してはくれぬか。あの男は自分のことを、わたくしにはあまり話してはくれなかった。わたくしの命に関わるかもと言って、自分の名すら明かさなかったほどじゃ。それで、わたくしは仕方なくあの男を獅子王と呼んでおったのじゃが……」
「獅子王? それはまた、なぜ。妙な名でございますな」
堀河は苦笑して言った。
「別に……大した意味はない。とにかく、わたくしは獅子王の本名が源義親であることも、河内源氏の総領だったことも、二十二年も前に死んだはずだということも、藤原実能様に教わった。そして、獅子王が、一度死んだ義親が甦った者であるらしいこともな」
老僧は鋭い探るような目で堀河を見る。
堀河は、実能と正盛から聞いたことのあらましを話した。そして、また寂しげな微笑を浮かべて言った。
「実能様は公明正大で信用の置けるお方。しかし、正直言って、一度死んだ人間が生き返るとはなかなか信じ難い。それに、正盛殿の話には解せぬところも多い。わたくしは獅子王のことをもっと知りたいのじゃ。短い間ではあったが、心からいとおしく思った男のことを……」
老僧はしばらくじっと考え込んだ。
だが、寂しげな堀河の瞳に打たれたのか、しばらくするとぽつぽつと語り始めた。
「わしは、名を藤原資通と申しまする。元々は、若殿の父上である源義家様に仕える郎党でした。わしが大殿の館へ上がったのは、若殿が九州へ去られた後だったので、若殿のお若い頃のことは存じませぬ。確かに、乱暴者の噂があったのは本当です。たいそう武勇に優れ、暴れ馬でも自在に乗りこなし、気性も荒々しいとは聞いておりました。ところが、実際にお会いした若殿は、皆が言うようなお方ではなかったのでございます」
「そなたは九州へ行ったのか」
「はい。わしは大殿に命じられて、若殿を捕縛するために九州へ下ったのでございます。わしはこれでも少しは腕に覚えがあり、東国の所領で起こったいざこざを何度か解決したことがございました。大殿はわしの手腕を見込んで、すみやかに若殿を説得して都へ連れ帰るよう、お命じになったのでございます」
堀河は正盛の話していた追討使殺害の一件を思い出した。
「もしや、そなたが追討使を……」
資通は重々しく頷いた。
「そう、若殿へ差し向けられた追討使を討ち取ったのは、このわしでございます。わしは九州へつく前に追討使一行を離れ、一人で若殿の元へ参りました。事前に若殿にお会いし、大人しく京へ戻るよう説得するためでございました。ところが、九州へついてみると、京で言われていたことが、まるで違っていたことがわかったのでございます」




