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実能は堀河をじっと見つめながら言った。


「そなたは待賢門院によく仕えてくれておるそうだな。何とか鳥羽院を牽制けんせいして今上のお立場を守ることは、すなわち待賢門院の御為でもあるのだ。そなたが義親を愛しく思っていることはわかっているが……どうか、我らの立場も理解して欲しい」


実能は少し頭を下げた。


堀河は恐縮し、肩をすぼめてうつむいた。


実能はあわれむような優しい目で堀河を見て言った。


「正盛が鴨院の義親の一件を知らせてきた時、私が力を貸すことにしたのはそういうわけがあるからなのだよ。まあ、白河院の近臣であった正盛とは、切りづらい縁もあるがな。だが、私は義親を傷つけるつもりも、殺すつもりもない。災いの種となる者を、そっと取り除けておきたかっただけだ」


「それであの桜子を。でも、あの桜子が実能様の間者であるとは、まるで気づきませんでした。冷泉殿の女童ですし。どこから冷泉殿の局に忍び込ませたのやら」


首を傾げる堀河に、実能はちょっとてれたように笑った。


「実はな、あの冷泉の局と私は……その、なんだ……。いろいろ事情もあるので、我らの関係は秘密にしておるが、実は娘も一人おる」


驚いた。


まさか、あのおっとりとして清純な冷泉殿とこの実能様が、わりない仲であったとは。


この御所中の女房たちの誰も、それに気づいてはおるまい。


冷泉殿に娘がいることは知っていたが、この実能との間の子であったとは。


人は見かけに寄らぬもの。


堀河は開いた口がふさがらなくなった。


「まるで、気づきませんでした」


「そうか。冷泉殿にこの三条西殿を探ってくれるよう頼んでも良かったのだが、そなたも知っておるとおり、あれはとても間者にはなれぬ。あまりにもおっとりとし過ぎておるでな。まあ、そこが可愛いのだが。だから、桜子を女童として召し使ってくれるよう頼んだ。桜子はまだ少々幼いが、なかなか見所のある子でな。行く行くは院の北面にでも推挙すいきょしてやろうと思って、以前から目を掛けていたのだ。あの義親は手だれだと聞いておるから、万が一のために多少は剣の使える者が良いと思った。桜子はあれでなかなか腕が立つのだよ。それに、こちらが舌を巻くほど上手に和歌まで詠むし、気働きも良い。たぶんこの華やかな女院御所の中でも、上手く立ちまわれるだろう。おまけに、あの美貌だ。女の衣装を着せて化粧を施せば、十分女の子に見える。冷泉殿付の女童にすれば、誰に怪しまれることなく、自由に御殿中を出入りできると考えたのだ」

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