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「ええっ!」
「そして、その義親を殺して首を持ちかえってきたのが、ここにいる正盛なのだ」
今度は正盛が膝を乗り出してきて言った。
「源義親はあの義家の嫡男で、武勇に優れた剛将であった。だが、父と違って、思慮分別に欠け教養もない、ただの乱暴者でな。京で散々暴れまわった挙句、手に余るとみた朝廷によって対馬守に任じられ、九州へ左遷された。ところが、その九州でも、義親はそこら中を荒らし回り、大宰府の命令も無視してどうにも押さえが利かない。とうとう大宰大弐の大江匡房に告発され、朝廷からは義親に対する追討使が派遣された。父親の義家にも糾弾のため義親を京に連れ戻すように命令が出されたのだ。義家は自分の郎党を追討使に同行させ、義親を捕えようとした。ところが、驚いたことにその郎党が義親側に寝返り、何と追討使を逆に殺害してしまった。その上、義親はそのまま九州に居座り、相変わらず乱暴狼藉を続ける始末。朝廷は、今度は義親を隠岐へ流罪に処すことにした。それでも、義親は流罪の命に従わないばかりか、今度は出雲に居を移し、そこでもやりたい放題のことをした。罪もない民人を殺し、婦女子を犯し、ついには出雲国の国司の目代を殺害した上、官物まで横領したのだ」
正盛は口から泡を飛ばしながら、とうとうとまくし立てる。
堀河の脳裏に、嬉々として針を使いながらにっこりと堀河を見上げた獅子王の顔が浮かんだ。
とても、そんな極悪非道な男には思えないが。
堀河の疑問にも構わず、正盛は話し続ける。
「これでは、朝廷の威信は地に落ちてしまう。朝廷はついに、父親である義家に息子の義親の追討を命じた。ところが、義家は幸か不幸か死んでしまったのだ。それで、急遽義親追討を命じられたのが、このわしじゃ」
正盛は胸を張った。
「わしは速やかに出雲へ赴き、激戦の末、見事に義親を討ち果たした。そして、義親とその郎党たちの首を持って京へ凱旋した。白河院をはじめ多くの貴顕が車を連ね、京中の者たちが熱狂してわしらを出迎えたものじゃった」
その光景を思い出したのか、正盛は陶酔したような面持ちだ。
そんな正盛を苦笑して眺めていた実能は、ふっと口に出した。
「だが、あまりにも早過ぎたな」




