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いつの間にか、日は高く昇っている。
だが、堀河は簀子の上に臥したままだった。
もう、何もかも、どうでもいい。
何もする気が起きなかった。
簀子は冷たく身は凍えたが、このまま凍死したって構わない。
そんな投げやりな気持ちで、堀河は霜の降りた庭の煌きが次第に失われて行くのを、ぼんやりと眺めていた。
その時、誰かが渡殿を渡ってくる足音が聞こえてきた。
誰だろう?
待賢門院は白河にいるから、まだ誰もこの御殿には戻ってこないはずなのに。
兵衛が何か忘れ物でも取りに来たのだろうか。
変に心配されるのも嫌なので、堀河は大儀そうに身を起こし、兵衛を出迎えようとした。
ところが、建物の角を曲がって堀河の前に姿を現したのは、何と藤原実能卿だった。
堀河は驚いて座り直し、その場に平伏した。
実能は堀河がいるのに驚いたようだったが、やがて穏やかな笑みを浮かべて優しく言った。
「堀河、こちらへ戻っておったのか。今日は女院のお側にいるものと思っていたのに。そなたの知らぬうちにそっと事を運ぼうと思っていたのだが仕方がない。あの男を、速やかにこちらに渡してもらおうか」
「男? 何のことでございます?」
「しらばっくれなくても良い。あの男がここにいることはわかっている。なあ、桜子」
「実能様、もうその名で呼ぶのはおやめください」
よく見ると、実能の後ろには、愛らしい汗衫姿の桜子が控えていた。
桜子は頬をふくらませて言う。
「私はもう女童役は御免です。それに、年が明けたら元服して義清という名を頂くことも決まっているのですから。もう、子供ではございませぬ」
そして、堀河に向って言った。
「私はこの間、この局の帳台の中に男が隠れているのを確かに見たのですよ。ごまかしても無駄です」




