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ひどく気分が悪い。


無理に抑え込んだ涙が、胸の中を食い荒らし、今にも胸板から飛び出そうとしているかのようだ。


堀河は胸を抑えてしとねの上に横たわり、側に転がっていた枕に頭を乗せた。


懐かしい獅子王のにおいがする。


ようやく、堀河の目から涙が零れ落ちた。


堀河はその枕を抱き締め、声を殺してむせび泣いた。


ただ、寂しかった。


ただ、哀しかった。


獅子王を恨む気持ちは、いつの間にか涙と一緒に流れ落ちて行ったようだった。


堀河は獅子王が恋しく、去って行ったその面影を慕って、一人でずっと涙を流し続けた。


そして、自分でも気がつかぬうちに、浅く胸苦しい眠りの中へ落ちていった。


翌朝、堀河はまだ薄暗いうちに目を覚ました。


とりとめのない夢を見ていたようで、頭の中が重く痛み、身体はひどく強張こわばっている。


堀河は帳台の中でようやく身を起こし、獅子王の面影のこもる帳台から逃れるようにすべり出た。


妻戸を開けて簀子すのこへ出ると、庭の薄闇の片隅で白い小菊の花が咲き残っているのが見える。


堀河は前に獅子王がくれたあの竜胆りんどうの花を思い出した。


そして、その花の思い出を振り払うかのように首を激しく振り、こごえるように冷たい簀子の上に打ち伏してしまった。


涙に曇る眼に、自分の乱れた黒髪が蛇のようにうねって、簀子から庭へ流れ落ちているのが見える。


その黒髪は、夜毎獅子王がその手に取っていとおしみ、堀河を抱き締めるその汗ばんだ熱い身体にからみつかせていたものだ。


堀河の心は、激しく波打った。


そして、その唇を突いて、知らず知らずのうちに歌がほとばしり出た。


心からの、本当の歌が……。



長からむ心もしらず黒髪の乱れてけさはものをこそ思へ



(あなたの心はずっと変わらないものだと信じていたのに、今のわたくしにはそれを信じて良いのかもうわからなくなってしまった。わたくしの黒髪がこのように乱れているのと同じように、わたくしの心もひどく乱れて、あなたのいない今朝は、これほどまでに思い悩み苦しんでいるのです)


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