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法金剛院の落慶供養は、大治五年(一一三〇年)十月二十五日に、鳥羽院・待賢門院の両院臨御のもと、盛大に執り行われた。
まだ木の香のする新造の阿弥陀堂には、丈六の阿弥陀仏が黄金に輝き、関白藤原忠通以下、主だったほどんどの公卿・殿上人が居並んでいる。
供養は、覚法法親王を導師に迎え、華やかなうちにも厳かに進んだ。
読経が終わった後も、左近衛中将藤原公教らによる舞楽の奉納、この法金剛院の御堂を造進した藤原基隆らへの勧賞など、次々と儀式は続く。
堀河を始めとする待賢門院付の女房たちは、儀式の間中ずっと庇の間の御簾の内に控えていた。
皆は華々しい落慶供養の様子に興奮して、小声で何やら語り合っている。
だが、堀河は女房の群れから少し離れて、隅の柱に寄り掛かり、御簾の隙間をほんの少し開けて、外を眺めていた。
法金剛院の美しい庭園には大きな池があり、もう既に名も知らぬ灰色の冬鳥が多く戯れている。
ふっと溜め息をつくと、吐く息が白かった。
その溜め息を聞きつけた兵衛が、そっと堀河の傍らに近寄ってきた。
「姉上様、御気分でも悪いのですか」
堀河ははっとひらめいたことがあったので、また殊更に深い溜め息をつくと、兵衛に言った。
「ええ、さきほどから少し頭が……。何やらめまいもするようじゃ。これから両院のお供をして白河北殿へ参ることになってはおるが、途中で倒れたりしたら女院様にご迷惑をかける。このまま皆とそっと別れて、三条西殿へ戻ろうと思うが……どうであろうか?」
兵衛は心配そうに堀河の顔を覗き込みながら言った。
「まあ、そうでしたの。もちろん、構わぬと思いますよ。今日は女房たちも残らずお供をしておりますから、人手も足りるでしょう。わたくしは誰か他の方の車へ乗せてもらうことに致しますから、姉上様は里の牛車で三条西殿へお戻りあそばせ。姉上様のことは、後でわたくしが但馬殿へお話しておきます」
「皆が心配するといけないから、そなたは何も言わずに皆のところへお戻り。わたくしは折りを見て、さりげなく退出するから」
兵衛は頷くと、また元の席へ戻って行った。
堀河は大儀そうに柱に寄り添い手でこめかみを抑える振りをしていたが、その袖の陰でにんまり微笑んだ。




