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気だるい昼下がり。


堀河は寝殿の簀子すのこ匂欄こうらんに寄りかかって、三条西殿の南庭を眺めながら、獅子王のことを思う。


力強い腕、抱きすくめられた時のたくましい胸の感触……それらがまざまざとよみがえってきて、堀河の胸を騒がせ締めつける。


こんな物思いをするのは一体何年ぶりだろう。


獅子王とああなってからまだ三夜にも満たないのに、堀河は昼間なかなか仕事が手につかなくなった。


待賢門院の御前にいる時もどこかいつも上の空で、時々上臈女房たちにたしなめられる。


だが、堀河は獅子王のことを考えるのをやめられなかった。


御前に人が多くてこっそり抜けられそうな時は、すぐに局へ戻りたくなる。


ほんの短い間でも、獅子王のいる帳台の中へ入り、くちづけを交わしながら互いの身体を探り合っていたかった。


今もその機会をねらっているのだが、なかなか抜け出す切っ掛けがつかめない。


今日は藤原実能卿が待賢門院の御前においでになっているのだ。


実能は待賢門院の実の兄君で、待賢門院別当の職にあり、明後日に迫った法金剛院への御幸の最後の打合せに来られたのである。


実能は待賢門院によく似た美貌の持ち主だった。


一般に、待賢門院の生まれた家系である藤原氏閑院流の人々は、男女ともに美形が多いことで知られている。


実能もまた色白で目許の涼しい美丈夫であり、しかも穏やかで品格のある人柄だったから、待賢門院の女房たちの間ではことのほか人気があった。


そのせいで、今日はいつも局に篭りがちな怠け者の古女房たちまでが御前に詰めており、辺りは息苦しいほどだ。


だが、獅子王に心を引き寄せられている堀河には、さほど実能への関心はない。


だから、簀子の片隅で火照ほてる頬を冷たい風でしずめながら、ただじっと時が過ぎるのを待っていた。


「堀河!」


突然、待賢門院に呼びかけられて、堀河は急に我にかえった。


上段の御簾の内で、待賢門院が手招きしている。


「何をぼんやりしている。恋しい男のことでも考えておったか」


冗談めかして言う待賢門院に、はからずも図星を指されて、堀河は真っ赤になって檜扇ひおうぎの陰に顔を隠した。


それを見て、実能もからかうような微笑みを浮かべながら言う。


「先程から何度も呼びかけられておるのに気づかぬとは、よほど心を奪われておると見える」


堀河が滅相もないと頭を振ると、待賢門院は笑いながら言った。


「もう良い。そなたの局のある東北の対の屋には、白河院のお手蹟の入った文箱がまだいくつか置いてあるはず。法金剛院で一緒に供養したいから、捜して持ってきておくれ」

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