7話:山菜の串天
料理回ですかい!
偶然見つけた井戸から桶に水を汲み、料理に使うには十分過ぎる水を確保出来たところでそのままアイテムボックスに入れる。
〈井戸水〉Fランク
井戸から汲んだ水。
水自体はそのままでは入れることは出来なかったが、容器に入っていればそのまま入るみたい。便利で良いね。
露店を開くのに良さげな場所を探してふらふら歩いていると、最初に立っていた広場にいくつかお店が開いているのが見えた。
大体のお店が、素材をそのまま売っていて、まだ加工するところまでいってないようだ。自作のもので売ってるのはポーションが1人だけいたみたい。
お店を見ているのは大体がプレイヤーで、住人は少ないように思う。
食べ物を売るならプレイヤーよりも住人の方が良さそうだよね。
プレイヤーは食べ物を食べなくても生きていけるし、まだ始まって数時間でお金も少ないだろう時に嗜好品にお金を使う人は多くはないだろう。
広場を後にして良い場所を探しながら歩いていると声をかけられた。
「兄ちゃんちょっと!ほらそこの白猫の兄ちゃん!さっき美味そうに食ってくれたあんただよ!」
「ん?僕?」
最初は誰のことか分からなかったけど、よく聞けばうさぎの串焼きを売っていたおっちゃんが僕のことを呼んでいた。
「そうそう兄ちゃんだよ、いやぁさっきはありがとな!おかげで今日仕入れた分の肉は全部使い切っちまったぜ!ところで何をそんなにキョロキョロしてたんだ?何か探し物か?それとも迷子にでもなったか?」
「迷子って、だから子供じゃないって!実は、森で山菜を取って来たから天ぷらにして売ろうと思ったんだけど、どこで露店を開こうかなって」
訂正する僕に、おっちゃんは豪快に笑いながら言ってきた。
「ハッハッハ、すまんな!ならさっきのお礼と子供扱いの詫びも兼ねて屋台を使わせてやるよ。」
「ええっ?!そ、それは悪いよ!」
「いいんだいいんだ、あれほど詳しい感想を言うお前さんの料理の腕も見て見たいしな!」
「ええっ、でも…」
なかなか踏ん切りのつかない僕にダメ押しで言ってくる。
「それに兄ちゃん、調理道具はもちろんだが自分の屋台とかはあるのか?せめて机かなんかは無いと、流石に地べたで調理して客に出すってのはどうなんだ?」
言われて初めて気がついたが確かにかまどは用意出来るとしても何か台になるものは必要だったか…申し訳なさはあるけど、ここは諦めて素直に好意に甘えてよう。
「全然考えてなかったよ…じゃあおじちゃん、屋台少しの間使わせてもらいます!」
「おう!若いうちは遠慮せずなんでも甘えとけ!気になるなら作ったものを最初に食わせてくれたらそれでいいさ」
そう言うことなら全力で美味しいものにしなきゃね!
「ん、分かったよ。期待して待ってて!僕の名前はベルだよ!僕の始めてはおじちゃんにあげるね?」
「言い方ってものがあるだろう?!ったく…俺の名前はゴルだ、まぁおじちゃんでもいいぞ」
何故かゴルのおじちゃんが顔を真っ赤にしており、近くを通りかかった人がギョッとした顔をしていたがどうしたのだろうか?
まぁ気にせず僕は料理を始めよう。
おじちゃんの屋台にはまな板をおけるくらいのスペースはあるし、串焼きを焼いてたところは網を避けたらフライパンも使えそうだ。
桶の水を少しボウルに移して山菜を洗う。ゼンマイの綿は先にとっておく。
次に、水気を切ってからまな板の上で1つ1つ丁寧に下処理していく。
と言っても、タラーアイの根元のはかまと呼ばれる硬い部分を取り除いて、サイズの大きいウドとゼンマイを一口サイズに切っていくだけだけど。
それぞれが一口で食べれられるくらいのサイズになったところで、串に刺していく。1本の串に対して1種類を3個ずつ付けていくとギリギリだったけどなんとか100本ある串全部にセット出来た。
フライパンに油を注ぎ、火にかけながら天ぷら粉を作っていく。ボウルに卵と水を入れて軽く混ぜたら、ザルを使いながら小麦粉とその大体10分の1くらいの量の片栗粉を入れる。この片栗粉を入れることで、衣がさっくりするんだとお母さんがよく言っていた。
だまが残ってるくらいにさっくりと混ぜてから、粉を少しだけ油に落とすとそこにくっつかずに浮かび上がってきたので準備完了だ。
串に刺さった山菜を天ぷら粉にくぐらせ、油で揚げていく。
パチパチと良い音と共に天ぷらの香りが一気に広がってとても幸せな気持ちになってしまう。
まずは四種を1本ずつ揚げて、頃合いをみて網にあげて余分な油を落とす。次のを油に入れながら、揚がりたての天ぷら達に塩を振り、じっと真剣な目で見ていたおっちゃんに差し出す。
〈山菜の天ぷら〉Cランク
山菜を串に刺し、天ぷらにしたもの。丁寧に作られており食べやすく、また美味。
おっちゃんは真剣に、それでも楽しみを抑え切れないと言った感じで、無言で受け取りそのまま口にした。
何も言わずに咀嚼して飲み込んでは次の串を食べ、僕が2週目を油から出す頃には食べ終わっていた。
「兄ちゃん、いや、ベル。正直予想以上に美味かったよ!思わず何も言わずに食い進めちまった!衣はサクサクしてべったりした感じが全くなく、山菜の香りが口の中で広がりやがる。塩だけのシンプルな味付けだがむしろそれが山菜本来の旨味を引き立てている。丁寧に作られているし、ベルに才能があるのか教えたやつが相当良い教え方だったんだな。串だから歩きながらでも食べられるし、これなら100本くらい速攻でなくなっちまって全然足りねーぞ!」
調理の手は止めないが、おじちゃんからの大絶賛にお母さんまで褒められたとあってはもうにやけが止まらなくなってしまう。
「えへへ、喜んでもらえて嬉しいよ!でも100は流石に売り切れないんじゃない?」
「いやいや、多分倍あっても足りんぞ?口コミなんかで広がったらさらに増えるな。(作ってるやつの見た目も保護欲引き立てるいい看板猫にもなるしな)」
「えっ?!そ、それは流石に言い過ぎだよ!」
「…ちなみに幾らで売り出すつもりなんだ?」
「えーっと、おじちゃんの串焼きと同じくらいの10Gくらい?」
静かに聞いてくるおじちゃんにそう返すとそれはそれは深いため息をつかれる。
「いいかベル、よく聞いとけよ?まず兎肉は街の周りにいるラビットを倒すだけだから大量に取れるんだ。だが山菜は森の中に入ってわざわざ採取しないといけない。森は暗い上に戦い辛いしなかなか取りに行く奴はいないんだよ。それだけでも兎肉より高くなるっての、それに加えてこの丁寧な調理に味だ。最低でも100Gだな」
驚き過ぎて串を落としそうになるのを慌ててキャッチする。
「ひゃっ、100G?!うさぎの串の10倍も?!そんなの売れるわけ無いよ!」
「そう思うんなら前を見てみろ」
「前って、いつのまにか人でも並んで…」
立ち止まった人達が僕がいる屋台を囲んで見てきていた。その視線の先にあるのは揚がりたてで湯気を出している串天。
「えっ、えっと…買いますか?」
揃って頷く一同。
「1本、ひゃ、100Gですけど…」
と言った瞬間、少し距離を開けていた客が殺到した。
そこからことはあまり記憶に無い。接客もこなしつつ油の温度が下がり過ぎないよう丁寧に調理していた覚えはあるが、気が付いた時には完売して買えなかった客が残念そうにしていた。
「あっ、あの!またお店出すので!今度はもっと仕入れておくのでまた来てくださいっ!」
残念そうに帰っていく人達に申し訳なく慌ててそう叫ぶと、みんな頷いて手を振ってくれた。
「おぅ、お疲れ様!次はもっと大変だぞ?期待には答えないとだしな!ハッハッハ!」
「はい…頑張りますよぅ…」
ぐりぐりと頭を撫でながら笑うおじちゃんに、精神的に疲れた僕はぐったりしながらも、食べてくれた人達の笑顔とかけられた期待に自然と頰が緩んでしまうのだった。
ベル
所持金9640G
絆:ユキ
《メインスキル》
隠密Lv11
《サブスキル》
絆Lv6 採取Lv10 調合Lv2 錬金Lv1 木登りLv1 裁縫Lv1 料理Lv7 暗視Lv4 隠蔽Lv9
《控え》
なし
SP:2
スキルが無くてもリアルスキルで何とかなることもあります。ただ、評価が低くなり、効果なども出なくなります。Bから上にはステータスアップの効果がつき始めます。
串天なのか天串なのか迷いました。