16話:魔法と加護
説明会?かな?
「ん、特に変わった感じとかないですけど、これで前より隠れやすくなったんですか?」
「えぇ、泉の近くはモンスターもほとんど居ないし分かりにくいと思うけど、実際にモンスターに近付いたらどれほどのものか分かるはずよ。ただ、戦闘力には変化はないんだから無茶したらダメよ?」
「へぇ…元々戦う気は全然無いので大丈夫ですよ、ってそうだ。加護を与えてくれてありがとうございます!」
若干押し付け気味だったとはいえ、せっかく良いものを貰ったんだからちゃんとお礼は言わないとだよね。
「ふふっ、どういたしまして。そうだ、折角だから少し影魔法の練習でもしたらどう?最初は自分の影を動かして影絵っぽく遊んだりするのがいいわ。攻撃には使えないけど、暇つぶしや鍛錬には丁度いいわよ。」
と、言われても魔法なんて使ったことないから使い方がよく分からないな…適当に真っ黒な蝶々が飛んでるようなイメージで…おおっ!僕の影が小さくなるにつれて蝶が増えていってる。
これ、影だけど魔法なんだし浮かせたり出来ないのかな…割とイメージしたらいけそうな気がする。月明りが照らす泉の上を影の蝶々が飛んでるイメージで…
これは…自分でやっておいてこう言うのも何だけど。
すごく、綺麗だ。
金色に輝く水面に宙を舞う漆黒の蝶々が、最初に女神様を見つけた時とはまた違う、芸術的な美しさを放っていて思わず見入ってしまう。
集中力が切れたからか蝶々は消え、僕の影は元の大きさに戻っていた。余韻に浸っていたけど、女神様が話しかけてきたのでそちらを向く。
「なかなか良い趣向ね、今度から私もマネしようかしら…それにやるじゃない!影を切り離すだけでもすごいのに、空中に浮かべるところまでやるなんて。私の期待以上よ!影魔法の才能があるんじゃないかしら」
「ありがとうございます。なんとなく出来るかなって思ってやってみたら出来ちゃったので、僕もびっくりです」
っていうか何気なく使ったけど、僕スキルの変更してないよね?なんで使えるんだろう?
「あの、女神様、僕スキルに影魔法をセットしたわけじゃないのに、なんか出来ちゃったんですけど、どういうことなんですか?」
「あー、やっぱり気がつくよね、それはね。影魔法は、正確には魔法じゃないの」
「魔法じゃない?」
「そう、そもそも魔法ってのは魔力、貴方達に分かりやすく言えばMPかしら、を代替にそれぞれの属性の力を生み出すものなの。ここまでは良い?」
「はい、なんとか」
えっと、例えば火魔法ならMPを消費して火を生み出して、水魔法なら水を出すってことだよな。でもこれって普通というかなんというか…
「そう、ここまでは別に当たり前のことだから気にしなくていいわ、それでここからが本題なのだけど、じゃあさっきの影魔法と呼んでたものは何かを生み出したりしたかしら?」
「それは…」
僕の影から蝶々を出しはしたけれど、あれは生み出したというよりも、影を操作して蝶々に作り変えただけで…ってあぁ、そういうことなのかな?
「分かったようね、貴方が予想した通り、魔法が生み出すものなのに対して、加護による恩恵ってのは操るもの、いや、扱うものと言った方が適当かしら?」
確かに影の中に潜ったり出来ることも考えたら、操るよりも扱うって言う方が合っているのかな、でも、だったら影を生み出す影魔法ってのもありそうだけど…
「じゃあ本当の魔法である影魔法は?って顔ね、でも残念かもしれないけどそれは存在しないわ、近いのは闇魔法だけど、本質が全然違うもの」
「影と闇ってなんとなく同じとまでは言わないまでも似てるようなイメージですけど、何が違うんです?」
どっちも光がないってので共通してるし闇魔法があるなら影魔法もあって良さそうなのに。
「んー、出来るだけ簡単に言うと、影は影だけでは存在出来ず、闇は闇だけでも存在出来るってことよ。影っていうのは必ず元となる光が必要なの、一切明かりがない真っ暗な夜には影は存在しないでしょう?」
なんとなくだけど理解出来た気がする。影はできるものであっても生み出されるものではないということだ。
だから影魔法は存在しない。だけどそこにありはするから加護によってそれを扱うことは可能で、だからこそ、それは光魔法を司る女神ルナ様が与える加護なのだろう。
「なんとなく分かってすっきりしました!改めて加護を与えてくださってありがとうございました!」
「いいのいいの、私のところに来るのはみんな光魔法目当てだから久し振りに影の話が出来て私も楽しかったわ…料理も美味しかったしね?」
くっ、イタズラっぽくウインクしてくるのは反則だと思う。思わずドキッとしてしまった。
「そ、そうですか、言ってくれればまた作りますね」
「いいの!!じゃあちょくちょく会いに行く…」
「えっ、ちょっと待ってください!言葉の綾というかいや嘘とかじゃないんですけど、そんなに頻繁にあったりしたら目立ちそうだなぁなんてほらルナ様ったら美人(神)さんだし!」
言葉の途中でショックを受けた様な顔をされたので慌ててごまかす。
「えー?それほどでもあるかなー?まぁ確かに?この美しいルナ様と頻繁にあってたら周りから嫉妬が大変そうだもんねぇー、仕方ないなぁーえへへへ」
「うわこの神チョロげふんげふん、そうですよーだから会うとしてもたまーにとか誰もいないところとか…」
「んー、家を建てる予定とか…普通ないよねぇ「ありますよ」ごめんね、変なこと聞い…へ?あるの?」
「ありますよ、木材とかもどれくらい必要か分からないしいつになるかは分かりませんけど」
そういえば大工さんとかもまだ見てないから、明日の朝にでも行って話だけでも聞いておこうかな。
「じゃあじゃあ、家を作る時に小っちゃいのでいいから祭壇を作って欲しいの!」
「それって、大工さんに頼んでもいいんですか?」
「ええもちろん、女神ルナ様のための祭壇をお願いって言えばこの世界の大工ならきっと作ってくれるわ!」
「まぁ、いろいろお世話になりましたし、それくらいなら良いですけど、一体どういう意味があるんですか?」
「ふふん、それは出来てからのお楽しみってやつよ、何でも分かってちゃつまらないでしょう?」
ふぅむ、祭壇にご飯を置いたらルナ様のところに届いたりするんだろうか?他にも何かあるのかもしれない、まぁ楽しみにしておこう。
「結構長く話してたし、私はそろそろ帰るわね。久し振りに楽しかったわ、それじゃあね?あ、それと、貴方のことちょっとみさせて貰ったからちょっとやり過ぎなあの子にはすこーしお仕置きをしておくから!」
「えっ、それどういう?」
僕の疑問に答える事なく一瞬にして消えてしまった。
あれはどういう意味だったんだろう?よく分からないけど、今度会った時にでも聞いてみればいいか。
ふとそういえばとユキを探すとすぴすぴと鼻を鳴らしながら眠りについていた。
話が長かったもんなぁ、ごめんなほっといてと心の中で謝って、頭を人撫でしてから送還し、既にいい時間だったので採取もほどほどに街へ向かった。
加護が効いているのか見つかる事なく街に辿り着き、スキルを確認してからやめようと思ったけれど、今日は朝から色々ありすぎたので明日にしようとそのままログアウトした。
ベル《新月の加護》
所持金:124440G
絆:ユキ 残り契約可能数:1
スキル未確認
アレです。
この世界ではこんな感じなんだぁ、ほーん。
くらいに思って下さい。
後、ルナ様に限らず、神達にはその人に関係する犯罪なんかの記憶を見る事が出来ます。いわゆるログ的なものですが、これによって悪人には加護を与えないなんてこともします。