15話:女神様と加護
松キノコ一度食べてみたいです。
「ねー、ねーお酒ないのお酒ー」
「だから未成年にお酒を要求しないで下さいよ、ほら松キノコ焼けましたよ、暑いから気をつけて下さいね」
「くぅー、この松キノコ本来の香りとこげた醤油の香ばしい匂いがまざりあって味も最高なのに、なのになんでお酒がないのよー!!」
「はいはい、無いものはないですから、ほらユキも、醤油無しだけど」
「きゅー!!」
お酒を強請る女神様のことを無視しながら、ユキに焼いた松キノコを少しちぎって冷ましてから食べさせてやる。そうかそうか美味しいか。
さて、天ぷらもそろそろいい頃合いかな
…あれ?なんでこうなったんだっけ?最近何か起きてからそれを思い出すことが多いな…
たしか、光魔法の件を断ったら女神様が慌てだしちゃって…
数十分前
「え?今なんて?ごめんね、よく聞こえなくて」
「だから、僕、冒険者じゃないし、光魔法もいらないです。スキル枠も勿体無いし」
「ぼ、冒険者じゃない?じゃあなんでこんな所に?それに勿体無い?ひ、光魔法は強いのよー!私の加護と合わせれば最初からウルフくらいなら瞬殺よ!」
「えっと、山菜採り?とか?いやぁ、僕モンスターとは戦わずに逃げるようにしてるので…」
「さ、山菜採りね、ふーん。ま、まぁそっちは分かったわ。でもほら光魔法はそれだけじゃなく便利よ!ほらほら明かりにも使えるし!」
「暗視スキル持ってるので明かりなくても大丈夫ですし」
「でもほら、光魔法よ?光魔法。なんか勇者っぽいし、貴方くらいの子はみんな憧れたりするんじゃないの?かっこいいでしょ?」
「いや、僕もう16歳ですよ?その年で勇者に憧れは…」
「しょ、しょんなぁ…いいから貰ってよー、今ならタダだからさー」
なんだろう、この人、きっと本来は幻想的で威厳があって、女神様凄い!ってなるんだろうけど、僕の中でこう、もう少し追いつめたいという気持ちが沸々と…
ハッ!こっ、これではセレさんのことを言えないじゃないか…明日会ったら仲直りしよう…
セレさんと言えば、松キノコにすごい反応してたな、やっぱり現実での松茸みたいな感じで香りが良くて美味しかったりするんだろうか。風景もいいしここで簡易のかまど作って焼いて食べていいかな。
「あの、女神様?」
「ん、なになに?だんだん光魔法欲しくなってきた?欲しくなってきたんでしょ!もー!最初から素直にそう言えば…」
「あ、いえ、ここでかまど作って料理作ってもいいですか?あと光魔法は全くこれっぽっちも要らないので」
「あ、どうぞ、はい。そっかー、これっぽっちもかー、一応私が司ってる魔法の一つなんだけどなー」
許可は貰ったのでアイテムボックスから石を出してそれを積み上げてかまどを作る。
少々不恰好だが、まぁ使えれば良いだろう。
材料はさっきまで取ってた山菜と、松キノコに、初日にとって忘れてた自然薯も使っちゃおう。
天ぷら粉も屋台でほとんど使い切ったけど、今回の分くらいならなんとかなるかな。
今回は自分で食べる用だから大きめな平べったい石にまな板を置いてそこで調理しちゃう。
水はせっかくだし泉の水を使いたい。
桶に残ってた水を森に捨ててから、泉の水を汲むと
〈泉の水〉Aランク
森の泉から汲んだ水。口当たりが良く、非常に美味。
おぉ!流石は女神様もいる泉の水、ランクも高いなぁ!と感心していたら
「そんなに品質が高いのは私が現れた日だけなんだからね!今のうちに汲めるだけ汲んどいた方がいいわよ」
「へー、すごいですねぇ、流石女神様」
「出会ってすぐの時を越す敬意を向けられると少し微妙な気持ちになるわね、わたし水の女神ではないんだけど…」
現れた日だけって言ってたけど、いつもはどこにいるんだろう?月の女神様なだけあってお月様かな?
「女神様っていつもはどこにいるんです?」
「大抵はわたしを崇めてる神殿で隠れて信者の様子を見て暇つぶししてるわ、でも最近はそれも飽きてきたのよねぇー」
「女神様はお仕事とか無いんですか?仮にも神様なんだし」
「仮にもってなによ失礼ね。んー、でも特には無いわね、たまに今回みたいに、偶然わたしと出会った人に加護を与えるくらいかしら。だからさっさと受け取りなさいよ」
女神様も暇なんだなぁ、まぁ神様が忙しい世界ってのもそれはそれで嫌かな?どんだけ迷惑かけてんだよって感じだし。
なんて話してる間に準備が出来たので料理を始める。
まずは天ぷらから揚げておいて、その間に網で松キノコを焼いていく。表面に醤油を塗って、少し垂らしながら焼いていくと、松キノコの焼ける匂いと醤油の焦げた匂いが煙と共に広がってよだれが溢れて来る。
横を見ると女神様もまさに食い入るように見ていたので、仕方ないので少し分ける。
「女神様も食べますか?」
「いいの?!食べる食べる!ハッ!これは捧げものね!ますます加護をあげなくちゃ!」
「それならあげません」
「あーごめんごめん冗談だから謝るからー!」
という感じで冒頭の部分に繋がったんだ。
「ほれほれ、君ももっとこっちに寄った寄った。両手に花ならぬ両手にもふもふってね!あっはっは!」
「きゅっきゅっきゅっ!」
おかしい、お酒は与えてないはずなのになんだこの酔っ払いは。あと耳だけを狙ってもふるのはやめてほしいのだけど、何故みんな耳狙いなのか。そしてユキ、変な笑い方をマネするんじゃありません。
酔ってない酔っ払いを振りほどき料理を続けたが、程なくして天ぷら粉も無くなったので食事を終えてまったり中だ。
「それで、そろそろ加護をもらう気になった?」
「だからいりませんって、戦わない、暗くても見える、隠れてやり過ごすの僕に光はむしろ相性最悪なんですって」
「むむぅ、そういえばあの使えない加護も…この子ならいっそあっちを…」
急に静かになってぶつぶつ言いながら考え出したけどどうしたんだろう。考えがまとまったら何か言うだろうし先に片付けを始めちゃおうか。
片付けも済んで、そろそろ帰ってログアウトしようかなと考えていると、急に女神様が顔を上げ、こちらに詰め寄ってきた。
「ベル君、君は光魔法が必要ないから、加護もいらないと言っていたね!」
「まぁ、そうですね。要らないものを貰っても、使い道に困るだけですし」
「ふふん、ならば私のもう一つの加護を授けようじゃないか!(ドヤ」
女神級のドヤ顔だ、少し可愛いと思ってしまう自分に腹が立つところが女神級だ。
「ワースゴーイ、一体ドンナ加護ナノカナー?」
「そうかそうか、そんなに知りたいか、なら教えてあげよう!」
「キャーパチパチ」
気分良く言ってるしノっておいた方が良さそうだよね。実際もう一つの加護ってのも気になるし。
「まず、私が普段授けているのは《月の加護》という名前の加護で、効果は光魔法の、特に夜間の威力が上がるというものね。この加護を受ける者が光魔法を使えなければ使えるようにするという副次効果もあるわ!」
「やっぱり僕とは相性が悪そうですね。」
「まぁまぁ焦るな!そしてもう一つの加護はまずはその名は《新月の加護》だ!効果なのだが、まず隠密系スキルの効果が向上する。そして影魔法を授けることになっている、のだけど、この魔法が住人からの受けが悪くてねぇ。なかなかこの加護を授ける機会が無かったものですっかり忘れていたの!」
影魔法がなんで評判悪いんだろうか?影を操ったり出来るなら強そうなのだが…
「あー、何を考えているのか大体分かるわ、影を操って敵を刺したりとか動きを封じたりなんかを想像してるんでしょ。それね、出来ないの」
「え?…じゃあ何が出来るんです?」
「んー、影を薄めて見つかりにくくしたり、鍛えたら影に潜れるようになったら、もっともーっと頑張ったらその状態で動けるようになるわね」
なんとも微妙だけど、それだったらまだ貰う人居そうだけど、森で採取する時なんかは役立ちそうだし。
「あー、採取に専念する時には便利そうだけどって顔だけど、そういう人は大抵他の森の神とかの加護を貰うからね」
「えっ、そんなに加護ってほいほい貰えるものなんですか?」
「そりゃそうよ、その神を祀ってる神殿に行ってお祈りするだけだもの、あ、でも浮気したり悪いことをしたら加護を取りけされて恩恵も消されるからねっ!」
ん?後半も大事だったけど、前半で凄いこと言ってたような…
「え?神殿?加護?え?」
「どうしたの?」
「あのぅ、こうして直接合わないと加護を貰えないとかは…」
「そんな訳ないじゃない、それだと信者の数もだだ下がりでしょ?直接会ったら、神様と話せたり、直接スカウト出来て両方お得っ!ってくらいよ。それで、結局加護は貰ってくれるの?」
「あ、はい」
「じゃあ、はいっと」
あ、なんか加護もらったみたいです。はい。
ベル《新月の加護》
所持金:124440G
絆:ユキ 残り契約可能数:1
スキル未確認
実は平原の先の街の神殿で、好きな神様の加護を貰えます。でも神殿の方ではほとんど女神様と会うことは出来ません。