14話:畑と女神?
可愛くたって男の子なんです。
せめて巻き込まれないようにとユキは早々に送還してあったので、被害にあったのが僕だけだったのはせめてもの幸だったのかもしれない。
耳の先端から尻尾の端までセレさんが満足するまでもふられ、一時再起不能になっていたがなんとか持ち直し僕は今、農業セットを受け取りながらテカテカツルツルと満足そうな笑みを浮かべるセレさんを睨みつけている。
それなのにどうしてこの人はますます笑みを深めているのだろうか。僕にも意地はある、ここは一度ビシッと言わないとダメなのかもしれない。
「セレさん!僕は怒ってるんですよ!分かってるんですか?!」
「きゃー!!怒ってるベル君もかわいーいー!」
その言葉でごく僅かに残っていたプライドのかけらも粉々に砕けちり、セレさんに背を向けて叫びながら全力で走り出した。
「セレさんに身体を汚された上に心まで弄ばれたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっ!?ベル君?!流石にその発言は外聞がわる…」
何か後ろから言ってきたような気がするが知らない。知らないったら知らないのだ。しばらくの間はセレさんには近づかないようにします!
確かに僕は小さいし童顔だし迫力なんかは無いかもだけど、無理やりもふられて怒ってるのに反省するどころか怖がりもしないで、さらに愛でようとするなんてどういうつもりなのか!
子供っぽいかもしれないけど、時間が経って整理が出来るまでは顔も見たくありません!
ギョッとして立ち止まる人達の間を抜け、ギルドから離れたところでログアウトした。
ギアを外して、ゲーム内のことは一度置いておこうと階段を降り、リビングに入ると両親が帰ってきていた。
「おかえり、帰ってきてたんだ。お仕事お疲れ様」
「ただいまぁぁぁ、鈴ぅ、ちょっと鈴成分を吸わせて…」
「なんなのその成分は…はいはい、ご飯はちゃんと食べてたの?」
よく分からない理由で軽く抱き着いてくるお母さんにまたかぁと思いながらも苦笑して返す。
「んーん、栄養ドリンクとおにぎりくらいだったからお腹空いちゃって、丁度作ろうと思ってたところに鈴が降りてきたのよ」
「そうだったんだ、じゃあ疲れてるだろうし座っててよ、晩ご飯は僕が作るから」
「いいの?なら任せちゃうね」
そう言うとソファで寝ているお父さんの所に向かっていったので僕もキッチンに行く。ちゃんとしたものを食べてないならお腹に優しいものがいいのかな。
冷蔵庫にあるものを確認して、卵おじやにすることにした。
お湯を沸かしながら、ネギを刻んで、生姜をすりおろしておく。それから、お湯に中華スープの素とご飯、それからすりおろした生姜を入れる。少し煮込んで柔らかくなったところで味を見ながら塩を加えて、少し濃いくらいで卵と刻んだネギを入れてかき混ぜる。
十分混ざりあい、卵に熱が通ったくらいで、お皿に盛り付けリビングに運ぶ。
中華風卵おじやは昔お父さんが作ってくれてからずっと好きで、お腹の調子が悪い時なんかにもよく作って食べている。中華スープを吸ったご飯にとろとろの卵が絡みついて、ネギも後入れのおかげでシャキシャキとした食感を残しつつ、食べ終わりではしっとりとしていて、食感の違いを楽しめる。生姜が入っていることもあって食べ終わりは体の内側がぽかぽかになる、作るのも簡単でとてもおすすめな料理だ。
2人寄り添って寝ているのを見ると起こすのも申し訳ない気になるけど、休むならちゃんと食べてから寝て欲しいので揺すって起こす。
眠そうにしてたけど、料理のにおいでお腹の方が先に起きたみたいで揃って大きな音を鳴らしていた。
学校の話や仕事の話をしながら食べ始める。
作業の進みが遅くて、明日日曜日も朝から行かないといけないらしい。僕が挨拶は出来てるというと、にっこり笑って仲良くなれる様応援してくれた。
その後はゲームの話になり、楽しいか聞かれたのでユキの話や屋台での話をしてあげるととても驚いたり面白そうにしていた。
食べ終わったら眠くなったようでベッドに向かったので、僕は食器を洗ってからお風呂に入り、髪を乾かしてからもう一度ログインする。
いつもの白猫スタイルで広場に着くと、セレさんのことを思い出してしまうが、まだ許してはあげないのだ。
さて、何をするかと考えた結果、とりあえず畑の様子を見にいくことにした。
東門の方へ向かってから、路地を通って北側へ抜けると、一面に何もない畑が見えた。こんな所に畑があったなんて全然気が付かなかったなぁ、なんて考えながら畑に近づくと、目の前にウインドウが出てきた。
前に言っていた、畑周りの設定が出来るらしい。
まず、入れる人は僕と僕が許可した人だけにして、ユキを召喚して設定し、今のところは僕とユキだけが入れるようにしておいた。
次に、農業セットを設置しますかと出たので、はいを選択すると、設置する場所を選べる様だったので、1番手前の畑の近くを選ぶと、ボワンという音とともに小屋が現れた。
中を覗いてみると、クワやカマなんかの、いわゆる畑に使いそうなものが一式揃っていた。まだ置くスペースもあるので、これは自分で良いものを買ったりしたら自由にカスタムしていけるのかなと予想。
しばらくユキと一緒に畑を見たり入ったりしていたけど、今は植えるものも持ってないし、貰った状態では植えても良いものは育たないんじゃないかと判断して森に行くことにした。
今日の朝行った時は駆け足だったので、見つけたけどスルーしちゃった泉に向かってゆっくりするのも良いかもしれない。
すぐそこだけど一応ユキを送還してから、路地を歩いて門の方に向かう。明日で3日目だからそろそろモンスターを連れていても、そこまでおかしくないと思う。…まぁ何があるか分からないので、やっぱり街中で出すのは誰か連れている人を見つけてからにしようか。
ごめんよ、ユキ、僕が慎重過ぎるせいで自由に出してやれなくて。
なんて考えている間に門を出たところで、スコップを買って無いことに気が付いて街に戻り、雑貨屋で800Gを払い購入して、来た道を戻る。
結果的にユキを戻しておいて良かったなと思いながら、森に入ったが、昨日の夜に比べてもますます人が増えている感じがするので北側にしばらく進んで、人の気配が無くなったところでユキを再度召喚する。
さっき呼んだばかりだから今回はもふり合いは無しで、スキルの調整をする、どうやら木材関係でも拾えるものは増えそうだし伐採はセットしたい。
《メインスキル》
隠密Lv28
《サブスキル》
絆Lv13 採取Lv22 料理Lv18 暗視Lv12 隠蔽Lv19 気配察知Lv12 素早さ上昇Lv15 農業Lv4 伐採Lv1
《控え》
錬金Lv1 裁縫Lv1 木登りLv1 採掘Lv3 調合Lv9
SP:2
んー、採掘もセットしたかったけど、他に削れるものも無いし、まだ鍛治にまでは手は出せないからこれでいいか。
地味に何個かレベルが上がってるけど、それより隠密がもう少しで30だってのに気になる。何か新しいスキルが解放されたりするんだろうか?SPが足りるか心配だな。
スキルも準備が出来たので採取と移動を始める。
移動時はモンスターと遭遇する前に察知して、そこを避ける様にして極力気付かれないように注意する。
ここら辺の浅いところであれば、隠密のおかげで見つかりにくくなってるのもあって僕の察知範囲の方が広いので、油断しなければ見つかることもないだろう。
そんなこんなで、なんとか安全に採取を進めていき、無事遭遇無しで泉にたどり着いた。
そして僕は女神に出会った。
静かな森の中、月の光を反射して輝く水面に浮かぶ美しい女性。
月と同じ金色に輝く髪は腰まで真っ直ぐと伸びており、その顔はどこか儚く、けれど髪と同じ金色の瞳は優しさに満ちていた。
幻想的な光景に息を呑んだが、意を決して話しかける。
「貴方は…」
「初めまして冒険者さん…私は月の女神ルナ、この地での初めての出会いに感謝し、あなたに光の魔法を与えそれを強める加護を授けます。」
「えっ、冒険者じゃないし、いらないです」
「えっ?」
「えっ?」
「きゅっ?」
ベル
所持金
124440G
絆:ユキ 残り契約可能数:1
スキル未確認
次回はちょい早目にあげる…予定ですが予定は未定なので期待しないで待ってくだしあ