11話:2日目のログイン
ボックスの中身を確認すると言ったな、あれは嘘だ。
ギアを外しスマートフォンをチェックすると、お母さんから今日は帰れないから戸締りをしっかりするようメールが来ていた。
戸締りの了解と応援を送り、貰ったゲームはとても楽しくて明日またプレイするのが楽しみと送っておいた。
鍵は掛けていたはずだが再度チェックしてから朝食の下準備を行う。
10分もかからず終わったので、歯磨きをしてパジャマに着替えてからベッドに潜り込んだ。
翌日、平日より少しだけ長めに睡眠を取ったのにまだ寝たがる体を気合いで起こし、軽めの体操をして頭を覚醒させてからパジャマから着替える。
朝ごはんの前に、洗濯機を回しておくのも忘れない。
昨日の夜に、厚めの食パンに軽く十字の切れ込みを入れたものを、卵と牛乳、それからバニラエッセンスに気持ち少なめに砂糖をよく混ぜ合わせた液に浸けて冷蔵庫に入れておいたものを取り出す。
食パンに時間をかけてしっかり液を染み込ませたものを、弱火で熱したフライパンにバターを加えたところにそっと入れて蓋を閉じる。
この時のポイントは時間をかけてじっくりと蒸し焼きにすることとあまり動かし過ぎないことだ。
片面が焼けたらひっくり返し、同じように蒸し焼きにしていく。
良い感じに両面焼けたところで皿に取り出し、上からハチミツをかけるとあつあつのフレンチトーストの側面をとろりとしたハチミツが流れる。
コップに冷たい牛乳を注いでから、リビングのテーブルに座って食べ始める。
パンの奥まで染み込み切った卵が混ざった液が、じっくりと熱されたことで膨らんで、口に入れるとふわふわぷるぷるとしている。
バニラエッセンスと砂糖とハチミツのもたらす甘い香りと味、そしてどこまでも柔らかな舌触りに頰が緩んでいく。
あっという間に食べ終え、残っていた牛乳を飲み干して、使ったお皿なんかを洗っていく。
洗濯の終わった合図が流れたので、取り出して干していく。といっても僕の分しかないのですぐにそれも終わり、やることが無いのを確認してからベッドでギアを被った。
ログインするといつもの場所だ。土曜日なだけあって流石に人が多い気がする。もはや癖となったコソコソとした動きで、やたらと人とぶつかりそうになるのをかわしながら小走りで西門へ向かう。
西門から出て森に入ったところでユキを呼び出す。
「《召喚》「きゅきゅー!」ふっ、それはもう見切っげふっ」
くっ、またお腹かと思っていたのに頭にしがみついて来るとは、ハッ!これは油断大敵ということをユキが教えようとしてくれているのか?!…無いな。
きゅっきゅきゅっきゅと頬ずりしてくるユキを引っぺがして抱え込んでから、昨日しなかったスキルの整理を行う。今関係なかったり使ってないのを外して行くと…
《メインスキル》
隠密Lv26
《サブスキル》
絆Lv10 採取Lv20 料理Lv7 暗視Lv11 隠蔽Lv15 気配察知Lv10 素早さ上昇Lv8 採掘Lv1 農業Lv1
《控え》
錬金Lv1 裁縫Lv1 伐採Lv1 調合Lv2 木登りLv1
SP:0
…自分で考えてたよりもカツカツというか、必要なものが多くて伐採は入れられなかった。まぁ今は斧なんかも持ってないし入れなくても良いだろう。
採掘は拾えるもの増えそうだけど、農業でも増えるのかな?種とか?
とりあえずスキルはこれで決まったかな。
「ユキ、料理の下準備もしなきゃだから今回はスピード重視で行くよ!」「きゅきゅ!」
了解の声を聞いてから移動を開始する。昨日は南方面に向かったから今日は北の方を目指そう。
常に動きながら山菜を収穫しては石を拾って、見たことない植物から色のついた石まで見つけたものをどんどんボックスに入れていく。
途中で湖みたいなものも見つけたけど、時間が無かったので次来た時にはここでまったりするのも良いなと大体の場所を覚えつつスルーした。
素早さ上昇がいい仕事をしており、隠密のレベルも上がってモンスターに見つかりにくくなったこともあって、かなりのハイペースで街の北方面、森と平原の境についた。
またすぐ呼ぶからねとユキを送還して、そのまま平原をアイテムを拾う時だけ止まって、後は走り抜けていく。
昨日の夜にも思ったけど、殆どの人はパーティを組んでやってるんだなぁ……僕にはユキがいるから良いですし、ソロじゃないですし!目が潤んで来たところで街に着いたので商業ギルドに向かう。
ギルド内では依頼の掲示板の前に人だかりが出来ているの以外は大体いつも通りだった。今日も受付にセレさんがいたので話しかける。
「セレさん、おはようございます。あれみんな依頼を探してる人ですか?」
「おはようベル君。そうよ、スキルレベルが低い内は拾えるものの質も低いし、出来るだけ自分のスキルにあった依頼を受けてレベル上げ狙いね」
ん?採取のレベルを上げるのに依頼とかそんなに関係あるのかな?と疑問に思ったので聞いてみる。
「でもセレさん、採取のレベルならそこら辺の石とか拾ってるだけでも上がるよね?」
「あぁ、それはね。スキルの仕組みというか、少しややこしいんだけど…」
聞くと、拾えるアイテムのランクや量なんかはセットしている採取系スキルのレベル+生産スキルのレベルが上がるほどアップしていくらしい。
そして平原は人が多くアイテム拾いがしにくくレベルが上がりにくい、森はそもそも危なくて外側から少しずつ取るのにも効率が悪い。
ならばと先に戦闘スキルを上げようという人が増えたが、そうすると生産スキルが上がらない。
そこに、今の段階では自分で生産するよりも依頼をこなした方が生産スキルのレベルの上がりが良いと気付いた人達がそれを周りに教えた結果。
現在生産職志望の殆どは、パーティを組んで戦闘をこなしつつ、依頼を受けて生産スキルを上げるというある意味どっちつかずな状態になってるらしい。
ある程度戦闘スキルが上がれば、深いところでなければ森で戦闘しながら採取する事も出来るようになって、一気に生産職っぽくなるんじゃないかしらとセレさんは笑いながら言っていた。
話を聞く限り僕の戦闘しないスタイルってかなりの正解だったんじゃないだろうか!…でもモンスター素材は取れないからどこかで詰むかなぁ。
「あっ、そうだベル君、用件は何かな?昨日言ってた生産部屋?」
「あっはいそうです!天ぷらの準備もしないとなので!」
「あ、あー、そうだよねぇ〜、大部屋にするそれとも個室?」
何かまずいことを思い出したように若干気まずそうにするセレさんに疑問に思いながら答える。
「個室でお願いします。ユキも呼んであげたいし」
「ふふっ、ちゃんと仲良くしてる?あー、あの、山菜って沢山用意してる…よね?」
「はい、街中ではまだ目立ちそうで呼んでませんけど、森では必ず呼んでますし。山菜ですか?かなりの量ありますけど、他の材料は買わないといけないので結局作れるのは前回の5倍くらいですかね?」
「5倍、500本かぁ…あのぅ、ベル君。実は昨日ギルドに来た人にベル君のお店の話をしたら予想以上に広まっちゃって…食べた人はみんな褒めるし、味には厳しいゴルさんまで美味かったって言ったものだから、えっとそのう」
数を聞いて諦めの表情を浮かべ、それから歯切れ悪く言うセレさんに、嫌な予感しかしてこない。これはつまり、そういうことか。
「500本じゃ全然足りない、ってことですか?」
「多分、2000本は必要かも…」
…頭が痛くなって来た。とりあえず深呼吸して落ち着こう。
よし、落ち着いた。まずは材料の確認だ。昨日の夜とさっきまででかなり大量に取って、しかも昨日は使わなかったキノコも大量にあるので食材は大丈夫だろう。
次に天ぷら粉の材料と串だけどこれは絶対に足りないから買わないとだけど残金440Gでは全然足りない。どうしたものか…
「ベル君、ほんとにごめんなさい。良かれと思って宣伝したんだけど逆に迷惑かけちゃって…」
「そっ、そんな謝らないで下さい!セレさんは悪くないですし、それに自分の料理がそこまで求められるってのも嬉しいですから!」
「でも…買えなかった人達が怒ってベル君を責めたりするかもだし…」
と未だ気にするセレさんに、僕は1つ解決策を思い浮かべる。だけどこれは、なんというか男として良いのかというか、プライドは無いのかというか。
でもこれなら問題も無くなるし、セレさんも気にする事なくなるんだよなぁ…仕方ないか。
「セレさん、気にする必要は無いんですけど、どうしても気にしてしまうなら1つだけ協力して欲しいことがあるんですけど…」
「どうしても気になっちゃう!なに!ベル君をもふもふすればいいの?!」
「お、お金を貸して頂けないでしょうか?」
「…へっ?」
ベル
所持金440G
絆:ユキ 残り契約可能数:1
《メインスキル》
隠密Lv28
《サブスキル》
絆Lv11 採取Lv22 料理Lv7 暗視Lv11 隠蔽Lv16 気配察知Lv11 素早さ上昇Lv10 採掘Lv3 農業Lv3
《控え》
錬金Lv1 裁縫Lv1 伐採Lv1 調合Lv2 木登りLv1
SP:1
採取関連のアイテムのランクや取れる量なんかはセットしている採取系スキルと生産スキルによって上がり、この採取系スキルの中に採掘や伐採も含まれます。また採掘や伐採スキルでしか獲得できないアイテムも存在します。
次回、ベル君初めての借金
借金の代わりにベル君がセレさんに…




