1話:新生活とプレゼント
初投稿作品となります。探り探りで自分のペースでやっていくので気に入ってくれたら嬉しいです。
校長先生のありがた〜いお話もあいまって、寝てしまいそうになる陽気の中行われた入学式も終わり、授業や学校生活の説明のために集められた教室の中。
周りは同じ中学出身だったり息が合った者同士で話し合っているが、親の都合で春から引っ越して来たため知り合いはおらず、気の合いそうなクラスメイトを見つけることが出来なかった僕、青山鈴は1人、ぼっち化に焦ることもなく静かに本を読んでいた。
(そっ、そう!全然焦ってなんかいない、別に人見知りで出遅れたとかそういうんじゃない!これは知的なところをアピールして後々勉強関連で頼られるための策略である!だから焦る要素も必要もない!)
ちょっとだけ嘘かもしれない。誰にも何も言われてないのに言い訳してしまうくらいには焦っていた
というのも、小さい頃から身長に恵まれず背の順で並べば前方の視界が開きっぱなしな僕は、その身長によく似合う(笑)筋肉の無い身体に、親から商売になると断言されるほど触り心地が良い(らしい)ぷにぷにのほっぺを持つ童顔で、その男らしさの無さからか同性異性を問わずあまり親しくしてもらえないのだ。
幸い、良い人ばかりであったため、何か困ったことがあればすぐに助けてくれて、話をすることもありはしたのだが、男子特有の話やじゃれあいなんかには混ぜてもらえず、疎外感を覚えていた。
何かを言われるということもほとんど無かったのだが、一度だけ、僕も男子同士の話に混ざりたいといった時に、「お前とそんなこと話してたら変な気持ちになりそうだから悪いな」と断られた時には確かにそこまで仲良くない人とそういう話をしても楽しめないよね、と諦めつつも周りとの心の距離にショックを覚えた。
その次の日には何故かそれまで以上に周りが親切になったような気がして、ショックを引きづることもなかったけど、もうほとんど諦めつつも、自分の身体の幼稚さがあまり好きではなかった。もちろん、悪いことだけではないんだけど…
(まぁ、近所のおばちゃん達やお年寄りなんかは小さい子扱いではあるけど良くしてもらってるし、お母さんもすりすりしては喜んでくれてるし…)
となんとかポジティブに考えながらふと前を見ると、いつの間にか来ていた教師が説明のプリントを配り始めていた。
ぼんやり考え込んじゃってたけど、学校生活のルールはちゃんと守って精神はしっかり大人ってアピールしなきゃねっ!っと集中して話を聞き始めた。
思っていたよりも簡単な説明だけで終わり、今日は解散となった後、周りは入学祝いにカラオケやファミレスに行こうかと話してる中、絶賛人見知り中の僕は大人しく1人で帰宅した。
教室を出る時に「また明日」と声をかけてもらえ、喜びでつい満面の笑みで挨拶を返してしまったが、周りの子も固まっていたし少し引かれたかもしれない…ま、まぁ大丈夫だよねっ!
凹みそうになるのをなんとか抑えつつ、両親は共働きの為、家には誰も居なかったので自分でお昼ご飯を作る。
昔から褒められるのが好きで家事はよく手伝っていて、その中でも料理は家族みんなが作れるのだが、もうお父さんより上手だねと褒められるくらいに上達した。
簡単にオムライスを作り食べたが、お母さんにはまだ勝てないな、と悔しさを感じながら完食し、洗い物を済ませた後は軽い掃除をして、ある程度満足したところで2階にある自分の部屋で明日からの学校の準備を済ませた。
と言っても明日はまだ学校の設備、授業の具体的な持ちものや内容についてのガイダンスのみで、早めに終わるらしい。そして何か足りなかった生徒は明日の金曜日の午後と土日のどこかで買い揃えるらしい。
小説を読んでいたら結構な時間が経っていて両親が帰ってきて玄関の扉を開ける音がした。ちなみに両親は高校からの付き合いで、会社も話し合って同じ所に決めたらしい。もう20年近く経つのに夫婦仲は良好過ぎて、転勤の話が出た時には片方だけなら仕事を辞める勢いだったほどだ。
一階に降りるとお母さんに勢い良く抱きつかれ思いっきり頬ずりをされた。
「ごめんねぇー入学式行けなくって。まだ来たばっかりなのもあってどうしても休めなくって…」
「それはしょうがない事だから気にしてないって、それにもう高校生なんだから」
「そうだな、鈴ももうこんなに大きく…大きく…なんかすまんな」
「ちょっ!?今の絶対わざとだよねっ?!悲しそうに口抑えてるけど笑ってるの見えてるからねっ?!」
はっはっは、すまんすまんと今度は隠さず笑うお父さんに呆れた目を向ける。まったく…
「あっそうだ鈴ちゃん、晩御飯は腕によりをかけちゃうからねっ!それに入学祝いのプレゼントもあるから楽しみにしててね!」
「やったっ。じゃあ皮むきなんかは手伝うね。うん、楽しみにしとく」
「ふはぁ、美味しかったぁ」
今は食後のまったりタイムだ。
晩御飯は僕の大好きなハンバーグとポテトサラダとオニオンスープで、お腹が小さく膨らんでいる。
ハンバーグは中にチーズとかは入れないシンプルなやつだけど、お母さんが作るとどうしてこんなに美味しいんだろう?切ったら中からどんどん肉汁が溢れてくるし、口の中に入れると柔らかい肉から溢れ出す肉汁とソースが絡み合ってもう最高だった。
ポテトサラダもとってもなめらかでマヨネーズの量が丁度良くて、たまにこしょうがピリリと辛いのがますます食欲をさそって、これだけで十分なくらい美味しくて一緒に盛ってあったブロッコリーとレタスが止まらなかった。
オニオンスープは、コンソメ系の玉ねぎが沢山入ったスープなんだけど、いつものスープよりも塩味は薄く作ってあって、ハンバーグの濃い目の味の後で飲むと心までホッとするような優しい味わいで、玉ねぎもやわやわになっててそれがスープを吸いつつ玉ねぎ本来の甘みも残しててもう堪らなかった!
どれもとっても美味しくてつい食べ過ぎてしまった僕とお父さんは楽な体勢でまったりだ。後片付けの手伝いを申し出たけど、お祝いなんだから気にしないでと言われたのでもう少し幸せに浸ってよう。
しばらくまったりしていると、お皿を洗い終わったお母さんと一緒に、お父さんがダンボールを持って来た。
「それどうしたの?あっ、それがプレゼント?」
「そうよー、中は開けてみなさい、きっととってもびっくりするわよ!」
「へぇ、じゃあ開けてみるね」
中に入っていたのは…
「ん?何これ?ぶいあーるぎあ?VRギア?」
「そう!それは丁度明日から正式版が開始されるRINGING ONLINEってゲームをプレイするのに必要な、んー、簡単に言えばゲーム機ね!βテストの評判もとっても良くて結構なお値段なのに品切れ状態で次回出荷もその次くらいまでも予約出来ないくらいなんですって!」
持つ手が若干緊張で震える。
「そ、その高価で貴重なゲーム機様がな、何故ここに…?」
「それがね、今回お母さん達が転勤してきた会社と、このゲームを作ってる会社が結構大きな取引相手で、何個か送ってきたらしくて、誰が受け取るかって話をしてたらしいんだけど、これからうちの会社は忙しい時期で、土日も仕事ありそうなのよねぇ、だから貰ってもプレイする時間も無いなら、だったらうちの子に持って帰っても良いですか?って鈴ちゃんの秘蔵の写真を見せながら言ったら淋しい思いをさせるわけにはいかん!ってみんな喜んで譲ってくれたの!」
………
「うん、うん、待ってね。お母さん達がこのゲームを作ってるような会社と取引してる会社に勤めてるってのも割と衝撃的だし、休日まで返上するほどってのは大変だなぁって驚いたけどちょっと待って。何僕の秘蔵の写真って?!何見せてるの?!しかもそれでOK貰っちゃうってどういうことなの?!」
「うむ、素晴らしいツッコミだな鈴」
「あっ、ありがと!じゃないよっ!ちょっと喜んじゃった自分が憎いよ!だいたいお父さんも止めてよ!」
ああ、もう嬉しいやら恥ずかしいやら照れ臭いやらでたいへんだよ!
「あっそうだ鈴ちゃん、最初に脳波測定ってのをするらしいから、お風呂に入った後寝るまでの時間で済ませておくといいわよ、2時間くらいかかるって話だから」
「えっ、あっ、うん。分かったそうするね」
急に普通に言われてちょっとびっくりしたけど、言われた通りにしようと思う。
脳波の計測は言ってた通り2時間ほどで終わった、頭に着けるのでちょっと不安だったけど、終わってみたらなんだこんなものかって拍子抜けしてしまった。
さぁ、せっかく貰ったゲームだし明日から楽しむぞっ!…今のところどんなゲームなのかも知らないけど。
ナカナカムツカシ
次回からはついにゲーム始めます。