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死にたがりな僕たちは  作者: 痛瀬川 病
5/8

彼女は何を思う

 その夜、布団に入り、とりとめのない話をした。


「ねぇ、天国ってあると思う?」

「ない、あってもいけるとは思わんが」

「だよねぇ」


 自殺者なんて地獄行き必至だな。


「ねぇ、私と一緒に地獄に落ちてくれる?」


 なんか安い小説の一節にありそうだな。

 俺は即答する。


「嫌だよ。ってか、そういうのはないんだって、それに死んでも意識があって天国や地獄で生活しないといけないなんて嫌だろ?」


 怠け者は天国ですら生きるのがめんどくさい。


「うん、いや~」


 なら、なんで聞いたんだよと、心の中でツッコんで、まどろみの中に落ちていった。




 台所の方からの物音で目が覚めた。


「ないな~」


 望がゴソゴソと台所を漁っていた。

 何か探しているらしい。


「何がないんだ?」

「包丁~」

「…お前が今右手に持っているのは包丁じゃないのか?」


 起きたばかりの俺が寝惚けるならまだしも、何で先に起きた方がまだ寝ぼけているんだと呆れてしまう。

 もとから抜けた奴だったがボケが始まったか?


「違うって、一本じゃ足りないの」


 脳内でお気に入りだった『痴女子高生! 一本じゃ足りないの!』が再生されたが多分寝惚けてるせい。


「包丁なんて一本で十分だろ?」

「いやいや、二人で同時に殺すなら二本いるでしょ?」

「えっ、そんな大雑把な死に方なの?」


 結構エグイ絵面になりませんかね?


「他にどうやって同時に殺すのよ?」


 考えてみると確かにそうかもしれない。

 自殺に見えないように互いに殺せばいいかと思ったが、意外と難しいか?

 飛び降り、木炭、風呂洗剤、首つり、睡眠薬とありとあらゆる自殺方法をググった俺だが、そのどれをしても普通に心中自殺だよなぁ。

 やっぱり、恋人たちの愛憎乱れた殺し合いの末に、共倒れってストーリーがベストだからな。


「えぇ、せぇので同時に刺すしかないのかぁ、お前の考えってのが恐ろしく穴がありそうで不安だなぁ」


 なんか俺だけ刺さり方が甘くなって、痛いだけとか超ありそう。


「代わりの案なんてないんでしょ? だったら包丁買いに行こうよ」


 まだ起きたばかり眠たいのに、なぜ俺までついていかないかんのだ。


「俺は良いよ、股間に一本持ってるから」

「…千十郎、今すぐこの包丁で切り落としてあげようか?」


 なんか今日の俺は下ネタが多すぎるな? 冷静に自己分析してみて、すぐに結論にたどり着いた。

 自殺するつもりで、ここんとこ全財産突っ込んで風俗通いしてたから二、三日空くだけでも溜まりやすくなっていたんだ! …死にたくなるような結論にたどり着いてしまった。いや、もうすぐ死ぬからいいんだけどね。

 はぁ、楓ちゃんが恋しいな。




 結局、望に切り落とされないためにも、俺も買い物についていく羽目になった。


「なんで、包丁買うのにこんな街中まで出なきゃいけないんだよ」


 何故か俺たちは、包丁一本買うのに都心部の方まで出てきていた。

 包丁だけなら近所のスーパーとかでいいだろ。


「ついでだからいいの」


 何のついでか知らんが、こいつも女の子と言うことだな。

 今日は休日で人の数も多い。

 人混みがあまり好きではない俺からすると、それなりの苦行である。

 人、人、人とうんざりしていたが、それでも望とはぐれないように、前だけはしっかりと見ておかないといけないと思い、頑張っていた。

 だが、うっかりと足が止まってしまった。

 前方から見慣れた顔が現れたのだ。

 そもそも知ってる顔の少ない俺は、悲しいかな、こんな偶然は初めてで自然と気付かないふりができなかった。

 向こうがこちらに気付いた様だった。

 俺の真横を通り過ぎる。

 街の喧騒の中でも彼女の声はしっかりと俺の耳に届いた。


「………よかった」


 俺は思わず後ろを振り返ると、彼女の背中はどんどん小さくなっていき、周りの人たちからは立ち止まっていることに対してか、迷惑そうな顔をされていた。


 楓ちゃんだった。



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