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死にたがりな僕たちは  作者: 痛瀬川 病
1/8

出会ってしまった

 病です。久しぶりの投稿です。今回は初めての毎日投稿をしようと思います。作品自体は大まかに完成してるのですが、大体一週間ちょっとぐらいの連続投稿になると思います。付き合ってくれる方がいればありがたい限りです。

 悦明とか下手なので前書きで内容に触れたくないのですが、少しだけ触れておくと何というかこの作品の結末はあまりすっきりするものではないかもしれません。

 なので、大円満やハッピーエンドが好きな方にはあまりお薦めはできません。

 でも、彼と彼女が必死に考え抜いた結末なので、どうかよかったら見てやってください。

 


―ドピュッ。

 こんな効果音が似合う行為なんてそう多くはないだろう。

 多くを語る気はないが、やはり高級店は違うとだけ言っておこう。


「わぁ~、千ちゃん今日はいっぱいでたね~」


 たまたま、隣にいて一緒にお風呂に入っていた楓ちゃんがニコニコとした表情のまま俺に声をかけてくれる。

 この天真爛漫な笑顔は、どんな荒んだ心もたちどころに癒すだろう。


「ははっ、そんなに出た? 楓ちゃんに会いたくてしばらく溜めてたからかな」


 一説によると、男の生命の種精製工場は三日で満タンになるらしいので、それ以上の我慢をしても量にあまり変化が見られないかもしれない。


「タバコ吸う?」


 いつも終わった後に一服しているので、今日も吸うものだと思って楓ちゃんが灰皿を差し出してくれる。 


「あー、今切らしてるからいいや」


 本当は家に忘れてきたのだが、わざわざ自分の間抜けさを話す必要もあるまい。


「私ので良かったらあげようか?」

「いや、大丈夫だよ」


 俺はそこまでヘビースモーカーでもないし、銘柄が変わるといまいち吸った気分にならないから断った。

 それよりも楓ちゃんがタバコを吸う方が意外だった。まぁ、客前で吸う機会などないだろうから知らなくて当然か。


「そう?」

「うん」


 それから残りの時間、楓ちゃんは何も言うことなく優しい笑顔で俺の頭をなでていてくれた。

 ここ最近結構な頻度で来ているのでキモがられてないか心配していたが、真のプロはそんなことで表情を崩さないのでありがたい。


 幸せな時間はあっという間に過ぎ、別れの挨拶を口にした。


「んじゃ、またきてね~」

「うん、またね」


 俺は嘘をついた。今回で楓ちゃんに会うのは最後だ。名残惜しい気持ちを隠して手を振り行きつけの店を後にした。




 なぜ、最後かと言うと、別に特別なことなんて一つもない。

 ……金が尽きたのだ。残り俺の自由にできるお金と言えば財布の七千円ちょっとと口座の中に入った五千円で全てだ。この金についてはもう使い道を大体決めているので余り使いたくない。

 とは言え、もう昼過ぎで朝飯も食ってないので、どこかで昼飯を食べなくてはならない。午後からの集中講義も頭にチラついたが、おそらく行かない。

 ブラブラと歩いていると人通りの多い所に出た。


「ちょっと、お兄さん」


 後ろから声をかけられると、そこにはいかにも遊んでそう女の子が立っていた。

 表情にあどけなさが残るが、その体躯はしっかりと出来上がっており大人の女性と遜色ないことから女子高生ぐらいかもしれない。

 顔立ちも整っているし美人の部類だろう。

(売りかな? それとも美人局?)


「何?」


 少し冷た目の反応を返す。

 割とこの辺ではあることなので、そこまで不信感はなく話を一応聞いてみるけど。


「ご飯奢って♪」


 あぁ、そっち系ね。こう言うのは軽くあしらうに限る。金もあまり無いしな。


「ごめんね。今、あんまり時間ないから」

「えぇぇ、じゃあ今日泊めてくれるだけでいいから」

「余計ハードル上がってんじゃねぇか」


 もしかして家出少女ってやつか? 

 どっちにしても得体のしれないやつを家になんてあげれるかよ。

 付き合ってられないな。


「こんな俺みたいに得体のしれない奴ばかりに声かけてると、いつか痛い目見るから止めとけよ」

「……別に誰でもってわけじゃないよ」

「へ?」


 何だ? 突然の愛の告白?


「ちょろそうな人にしか声なんてかけないよー」

「よし! もう帰っていいかな」


 正直なのはいいことだが、時と場合ぐらい考えた方がいい。


「いやいや、冗談はいいから」

「なぜ、そんだけ失礼な態度を取っておいて冗談と思えるんだよ」


 俺も一応最近の子だが、最近の子は何考えてるかわからんな。

 これ以上相手しても埒が明かないので、無視して先を急ぐことにした。

 昨日の雨のせいか、蒸しあがったアスファルトが一歩ごとに体力を消費させていくのを実感しながら歩いていると、後ろから人の気配がする。


「……なぜ、ついてくる」

「あれ? 気付いた?」


 家出少女(仮)は、にぱぁーって効果音が入りそうな快活な笑顔を見せる。

 冗談じゃないぞ、昼間っからガキのお守りなんて最悪だ。


「……高校は? 夏休みか?」

「そうだよ~」


 やっぱり高校生か。


「やることないならおとなしく家に帰れよ。この辺が危ないの知らないわけじゃないだろ?」


 この辺はお洒落な作りのホテルがたくさんあり、休憩かお泊りかの二択を迫る看板だらけだ。よって日が暮れてきたら危険度もぐんと増す。


「今、家出中~」


 ……予想通り過ぎる奴だな。


「……他をあたってくれ。大体俺は生意気な年下女子がカマキリの孵化より嫌いなんだよ」

「カマキリ農家?」

「どうやって生計立ててるんだろうな、その農家。孵化な」


 聞き間違い方が大胆すぎる。


「大丈夫だって、私とってもいい子だから」

「家出中の奴が言っても説得力皆無だな」


 この子、頭もちょっとアレだな。


「おかしいなぁ、私とおんなじ匂いがしたんだけどな」

「へぇ、どんな匂いだよ?」


 楓ちゃんの香水の匂いでもついたかな?


「んっとねぇ」


 家出少女は人差し指を頬にあて、勿体つけるように語調を緩やかにする。



「……お兄さん、自殺する気でしょ」



 俺の中で一瞬、時間が止まる。

 そして、まるで止まっていたことに対する反動かのように、心臓を起点に体中にいつもの倍くらいの速さで血が巡る。心臓がバクバクと大働きだ。


「ははっ、顔に出過ぎだよ」

「……お前、同じって言ったな。ってことは」

「そう、私も自殺するの」


 彼女自体は先ほどから挙動の変化などはないと思う。だが、俺はもう彼女をお気楽な家出少女として見ることができない。


「ふざけてるのか?」

「そう見える?」


 彼女が俺の目を真っ直ぐに見つめる。

 俺に嘘を見抜く力なんてないが、そんな俺でもわかってしまうほどの真実。


「……名前だけでも聞いておこうか」


 家出少女は俺を人差し指でビシッと指差し、決め顔を作った。


「人に名を訪ねるときはまず自分から名乗りなよ、ってこれ人生に一度は言ってみたかったんだ」

「……死ぬ前に叶ってよかったな。関根千(せきねせん)十郎(じゅうろう)だ。数字の千と十に太郎の郎だ」

「武士みたいな名前だね。私は瀬賀(せが)(のぞみ)。希望の望のほうね」

「そうか、じゃあな望」


 お互い自己紹介も終わったところで、俺は軽く手を振り望と別れようとした。


「って、本当に名前聞くだけなの⁉」


 が、勿論別れられず。

 望は片手で俺の肩をつかみ、もう片方の手で漫才のツッコミのように手首を返した。

 俺はけだるげに肩を掴んでいた手を振り払い、めんどくさいが真面目に相手をしてやる。 


「仮に本当の話だとしても自殺志願者が雁首揃えてどうなる?」

「私としては一、ニ週間でいいから住居が欲しいわけ」

「こんなことを言えば、普通最低の野郎なんだが、自殺志願者の言葉だと思って我慢してくれよ……死ぬなら早く死ねば?」


 こんなひどい言葉を現実で口にする日が来るとは思わなかった。長生きはするもんだなと言えば不謹慎ジョーク極まれりか。

 しかし、そんなひどい言葉を投げつけられた望は、ケロッとしたもの淡々と住居が必要な理由を話す。


「まぁ、そうしたいのは山々なんだけどね。せめて財布の中身ぐらいパァァっと使い切りたいわけよ」

「なら、満喫でもカプセルホテルでも泊まって散財すればいいだろ」

「え~、お金もったいないじゃん」

「お前、死ぬ前に変なところでけちるな」

「千ちゃんも奢ったげるからさぁ」

「千ちゃんって呼ぶな」


 俺のことを千ちゃんって呼んでいいのは高級店『ラプソディー』の楓ちゃんだけだ。


「えぇ、一応年下だから気を使ってフレンドリーに呼ぼうと思ったのにぃ、じゃあ千十郎ね」

「そっちの方がいくらかマシだが、馴れ馴れしい奴だな」


 まぁ、死ぬ前にはどうでもいいことだけどな。


「んじゃ、いこっか? ここから何駅ぐらい? どうせ一人暮らし夢も希望もない大学生ってとこでしょ?」


 俺が望を家出中の女子高生と見抜いたの同様に、こいつも俺の大体のことは見抜かれていたようだ。


「いや、あのだな……」


 それでも必死に面倒事から逃れようと試みる。自殺志願者が必死(・・)になってる姿ってシュールだな。

 望はそんな姿を意にも返さず、あざとく頬を膨らます。


「もう、千十郎! これ以上抵抗するなら、この場で叫んで売春でお巡りさんに逮捕してもらうよ」


 どうやら俺には決定権はないらしい。

 いつの時代も女の方が強い。

 自殺だけでも大概なのにこれ以上親不孝を重ねるわけにもいかず、なし崩し的に望と俺の住むアパートまで電車に揺られることになる。


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