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創る為の三角形   作者: たなびく暖簾
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トライメイカー 序章

ここは地球ではない世界「ラーヴメルト」

この世界でも屈指の魔術大国「メイディア」の辺境に位置する村「ハイドン」からこの物語は始まりを告げる

 朝独特の爽やかな空気に包まれる林、木漏れ日が揺れ、ついさっきまで寝ていた者でも眠気が襲ってきてしまうほどの平和な空気の中に割り込むように、とある青年を呼ぶ声が響き渡る。


 「シグ! シグー!」

 

 シグと呼ばれた、浅黒い肌、坊主頭に紋様のように見える剃りこみが入っていて、少し目つきが鋭く、黒のズボンに灰色の服を着た背の高い青年が振り向いた。

 そこにはコジーという家族同然に育てられた青年が手を振りながら呼んでいる姿が映る。

 

灰色のズボンと黒の服を着たコジーは、黒髪だがサイドが短く、右に流した左右非対称(アシンメトリー),アシメと言われている髪型、目鼻立ちのくっきりとした、細面で、身長こそあまり高くはないが、端正な顔立ちの青年だ。

 「ほらシグ!院長が呼んでるよ 俺たち二人で来いってさ!」

 「どうせまた面倒なことやらされるんだろう・・・」

 「それはそうだろうけど、育ててくれてるんだから、な?」

 コジーに諭され、気が重くはあるが二人で院長の元に向かっていった。



 ここは、広大な面積と豊かな自然、そして魔術の研究に支えられた国『メイディア』のかなりはずれにある小さな村『ハイドン』。

 北に山、西に森、南に湖、東を平原、と自然が多い、というより、自然しか無い村である。

 最も近い隣の村まで東に馬車で5日かかるほど離れており、魔物もそう多くない地域ではあるが、国の兵士も駐在していないほどの田舎、辺境ともいえる村である。

 シグとコジーが呼ばれたのはハイドンにある一番大きな建物『ミーティア孤児院』である。孤児院といっても孤児は三人しかいない。

 木で作られた建物ばかりの村の中心にあるこの石とも鉄ともつかない物で作られた存在感を放つこの孤児院の庭で、昔はかなり有名な冒険者だったという院長が村の若い衆に戦い方を教えたりもしている。

 このミーティア孤児院でシグとコジーは育てられたのだ。

 

 

 「院長、失礼します。シグを連れて来ましたよー!」

 コジーに手を引かれて院長室に入る。

 「おぉ、すまないな。村の北の防柵が昨日の大猪が暴れた件で壊れてるから、木材の調達と修理を二人にしてもらおうと思ってな」

 30代の半ば、茶色い髪に筋骨隆々とした院長と呼ばれている男。冒険者は引退しているというのに、村の若者の訓練をしつつ、自身も鍛錬を欠かさない、孤児院の院長とは思えない風貌である。余談ではあるが、女性から、モテる。

 「えぇー、朝っぱらからー?」

 「まぁそう言うなシグ、夕飯はお前の好きなアレにしてやるから、な?」

 「しょうがねぇなぁ院長!行くぞコジー!」

 直前の面倒くさそうな顔をパッと明るくさせ走りだすシグ、その様を見てコジーは(バカだな)とでも言いたそうな顔でシグの後をついていく。

 「夕飯の当番、お前だけどな・・・」

 院長がつぶやいた言葉はシグには届かない。


 村の周りを囲んでいる魔物避けの防柵が壊れているというのは他の村なら大変なことなのだが、この村はなぜか魔物の襲来が少ないので、危険意識は少し低いのだ。


二人はまずは防柵の破損具合を見に行くことにした。向かう途中で村人達に「防柵をよろしくなー」とすれちがう人達に何度も言われたが、二人は軽く「任せとけ!」と全て笑顔で返しつつ歩いて行った。 

 

 「おっ、あったぞコジー、あそこが壊れてるところだ!」

 「そんな急に走ったりしたらコケるぞ?」

 防柵が見えてくるなり走り出したシグを諌めるコジーだが、シグについてコジーも走りだす。


 柵が壊れているところに到着し、壊れ方をよく観察する二人。とはいえ二人とも見る場所が全く違うようだが。

 木材を組んで村の外に向けて尖らせて作った簡単な防柵だが、パッと見ではわからないが魔物を近づけない効果がある木材を使用しており、強い魔物がいないこの辺りでは充分な効果を発揮する。

 「おぉー、結構派手にこわれてんなー」

 「そうだね、これじゃ魔物も入り放題だね。『空間把握(ヴェリファイ)』」

 壊れた部分をよく観察するコジー。

 「よし、必要量はわかった、行こうぜシグ!」

 「おう!せっかくだから食料や薬草も取ってきておこうぜ!薬のストックも少なくなってただろ?」

 「そうだな、村の外に出る時くらいしか集められないからな!」

 二人は準備をしてから西の森に向かいつつ、コジーは薬草を、シグは果実などの食材をを探しては慣れた手つきで採取しつつ歩いて行く。

 持ってきていた革袋も膨らみを増し、目的の場所にたどり着き、コジーはきょろきょろと周囲の木を見ている。


 「あ!あの木がいい感じだな。あと、あれとあれ、この三本が太いし固いし、魔除けの力が強い木だな」

 三本の木を指差したコジー。どの木も両手がやっと回るくらいの太さをした木だ。

 コジーは一見すると無造作に選んだように見えるにも関わらず、シグは疑う素振りも見せない。それもそのはず、コジーには元から物の品質を見極める能力がある。村の鍛冶師が金属を選ぶための相談をしに来たり、行商人が来た時に何を仕入れるかを村の商人に相談されたり、多かれ少なかれこの能力はみんなに頼られ納得させる結果を出してきたのだ。道中に採取した薬草も全てコジーが選別したのだが、知識などはあまり無く、なんとなく「良い物」は分かってしまうのだとか。

 「じゃあチャッチャと切るから、運ぶのはシグに任せた」

 そう言うと目を閉じたコジー、そして淡い緑色の光の粒がコジーの周囲を弧を描くように飛び始める。そして次第に選んだ三本の木も光の粒が囲んでいった。

 「風よ、逆巻(さかま)け!」

 そう言うと木を囲んでいた光が竜巻のような風となって木に沿って登っていき、枝を綺麗に切りはらい、まるで丸太が地面から生えているような状態になった。

 「風よ、疾走(はし)れ!」

 今度はコジーを囲んでいた光る風が三つの三日月状の刃となって飛んで行き、三本の丸太が倒れ、綺麗な断面の切り株が残った。

 「ふぅ・・・」

 汗をかいているわけでもないのに額を拭うふりをするコジー。

 「相変わらず便利なもんだな、魔術ってのは」

 シグはさも当然のような感じだが、実際二つの魔術を三つも同時に発動させるのはかなり高位の魔術師でも無理な芸当なのだが、辺境の村で暮らしている二人はそんなことを知らずにいる。

 

 「じゃあ、運ぶか。」

 そう言うと小さく息を吐いて、倒された丸太のようになった木を両肩に一本ずつ持ち上げて村の方に戻っていく。

 「あとひとつはあとで取りに来るか」

 「さすがの馬鹿力でも腕は二本しかないもんな」

 ふざけたように言うコジー、普通の人が見たら大人3人分の長さはある丸太を両肩にかついでいる時点でありえないほどの怪力なのだが、これもこの二人には常識なのだ。 

 お互いに軽口を叩きながら村に取ってきた薬草や野草を置いて、少し休むことにした。

 「なぁコジー、そろそろ腹減らねぇ?」

 「そうだね、そろそろお昼時だしね」

 取ってきた果実でも食べようかと話していると、とある女性が話しかけてきた。

 「あら、あなたたち今日は防柵の修理をしてくれてるのよね。いつもありがとうね」

 「あ、ティファナさん!こんちゃ!」

 「シグ、『こんにちわ』だろ? ティファナさんこんにちわ!」

 声を掛けて来たのはティファナ。栗色の髪を左にまとめて肩のあたりで束ねている。二人が小さい頃からずっと面倒を見てくれている気のいい女性だ。二人もよくなついているし、孤児院にもしょっちゅう食事を作りに来てくれている。

 「そうだわ、二人はもうお昼食べたかしら?よかったらお昼用意するわよ?」

 「マジで!ちょうど腹減ってたんだよー!ラッキー!」

 シグは心底嬉しいようで指をパチンと鳴らし喜んでいる。

 「シグ、木もまだ取りに行かないといけないんだから、食べ過ぎないようにな?それと、『お腹すいてた』な」

 シグにそう注意しながらも、コジーも楽しみなのだろう。口角があがっている。

 「あらあら、まだ出掛けないといけないのね?なら食べながら行ける物を用意するからうちでお茶でも飲みながら少しだけ待っててね」

 ティファナはにこやかな笑顔で二人を手招きしつつ、歩き出した。

 「ティファナさんが淹れるお茶いつもウマイなぁー!」

 「だから『美味しい』だろ?シグは何度言っても覚えないな。ティファナさん、このお茶すごく美味しいです!」

 「まったく、コジーはほんと外面だけはいいよな・・・」

 テーブルの下でコジーがシグの足を強く踏み。シグは顔を歪ませつつ小さくなった。そんなやりとりを見つつティファナは料理をしながら笑って返事をする。

 「ありがとう。いつも喜んでくれるから私もついがんばっちゃうのよね」

 そう言って少しするとサンドイッチを布で包んで持ってきた。

 「さぁできたわよ。二人とも、気をつけていってくるのよ?」

 そう言って二人の前に包みを置いた。

 「ありがとティファナさん!さっさと修理おわらすよ!」

 ズズーーっとお茶を飲み干しシグが包を持ち、立ち上がり歩き出そうとする。それを見てコジーは音を立てないように急いで飲み干し同じく立ち上がる。

 「ティファナさんお茶ごちそうさまでした!いってきます!」

 「はい、いってらっしゃい!」

 笑って手を振るティファナに見送られ二人は手を振りながら歩いて行った。村を出るとすぐにシグはすぐに包みを開けだした。

 「いっただっきまーふ!」

 言いながらかぶりつくシグを見て、コジーは一度大きくため息を付いて自分も包みを開けた。

 「んー!このサンドイッチうんめぇ!!」

 「シグ、うまいじゃなくて『美味しい』だろ?」

 「どっちでもいいだろ?ウマイものはウマイんだから」

 「まぁ、ティファナさんの料理がすごく美味しいのは間違いないな」

 干し肉を細かくちぎり甘辛いソースと絡め、薄くスライスした玉ねぎとレタス、薄切りのキュウリで歯ごたえを良くし、パンに薄く塗られたマスタードが甘辛いソースと絶妙にマッチしている。

 舌鼓を打ちながらのんびりと歩き、丸太を置いていた場所に戻る。今回は採取をしないでまっすぐに歩いてきたので10分ほどで到着した。

 するとそこに黒く大きな動く影を発見する。

 「おいコジー、あれはなんだ?このへんにあんなのいたか?」

 「いや、あんなのは見たこと無いね。そもそもこの魔除けの木の近くに魔物がいるなんて・・・」

 そこに居たのは赤い目を鈍く光らせ、顎から太い牙を二本生やしている。黒く硬そうな毛で覆われた、熊のような大きさのイノシシの魔物で、黒い煙のような息を吐いている。

 「シグ、やれるか?」

 「そうだなぁ、どちらにしろ木を取ろうと思ったら気づかれるんだし、やるしかないだろ。俺が前に出るから、コジーはサポート頼むな!」

 「わかった、気をつけろよ? ・・・後ろに」

 「お前・・・俺を狙って魔術ぶっぱなしたらあとでシバくぞ・・・?」

 「冗談だってば」

 見たことのない魔物と戦うというのに緊張感の無い二人、院長の厳しい戦闘訓練を受けてきた二人は、この辺りの魔物には負けないだろうと院長にお墨付きをもらっているため自信があるのだ。実際二人とも村の周囲は遊び場のようなもので、近隣の魔物には危機感を覚えたことはない、とはいえ、初めて見る魔物相手の戦闘での余裕は決して褒められたことではないのだが。

 「行くぞ!」

 シグは言うやいなや足に力をこめて飛び出した。

 気づいた魔物が向かってくるシグ目掛けて大きな牙を振るうが、

 「ふんっ・・・はぁぁぁぁっ!」

 シグはすんでのところで一瞬進むのを止め、牙はシグの左腕をかすっただけで、魔物の頭にミシミシと右脚をめり込ませた。、たった一撃の蹴りで倒してしまい、魔術を繰り出そうとしていたコジーは息を大きく吐いて、集まっていた光が消えていった。

 「普通シグの馬鹿力で蹴られたらそれだけで終わるよね。」

 コジーはそう言うが、ハイドン周辺の魔物は強いわけではないが、蹴り一撃で倒してしまうほどの人間はそうそういないのだが、二人のずれた常識を訂正する者はいない。

 

 「よし、じゃあ木を持って帰るか、さっさと修理も終わらして遊ぼうぜ、コジー」

 「まぁ、俺はもうやること無いから先に遊んでてもイイんだけど、しゃーない、最後まで付き合うか」

 そうして木を持って壊れた防柵のところに戻って来た二人は革袋を持った院長がいることに気づく。

 「お、木材を取ってきたのか、さすがの怪力だなシグ!ご苦労さん」

 「ご苦労させられてるよ、院長、すぐ直すよ」

 そう言ってシグは丸太を防柵の壊れたところに置き

 「よし!やるか!『我が望みを体現せよ(リアライゼーション)』!」

 そうすると、パッと光ったと思った瞬間、木は加工されたように形を変え、しっかりと組まれており、村の外を向いて突き出している部分は削ったように尖り突きだしていた。

 防柵の壊れていたところに組まれた木材はぴったりと合わさり、修繕と言うには完璧すぎるほど綺麗に直されていた。

 それを見てコジーは満足気に

 「よしよし、木の量はピッタリだったな!」

 院長はその一連の出来事がさも当然のことのように見ていた

 「さすがだな二人とも、それじゃぁ帰るか!」

 そう言って歩き出す院長を追いかけるように、シグ達も近くに置いてあった薬草や果物を入れた革袋を持って帰路につく。

 孤児院に向かう道すがら、院長は賞賛の言葉の続きを口にする。

 「ふたりともいつもすまないな。コジーの素材の質や特性を正確に判断する能力と魔術、シグの素材を加工する能力と怪力にはいつも頼ってしまっているな・・・。だが村の人間で修理しようと思ったら、木材の調達だけで十人がかりでも今日が終わってしまっただろうからな。」


 そう、この魔法が当たり前に存在するこの世界でも、この二人のような能力はそうそういるものではない。村人や院長はもう慣れてしまっている為に平然と受け入れているが。

 

 「院長、そんなことより、晩飯ほんとーに期待していいんだろうな?」

 「シグはほんと食べることばっかりなんだから、ていうか、ほんとに忘れてるんだね」

 コジーが明らかな呆れを表現する。

 「はっはっは!安心しろ!今日の料理当番はシグ、お前自身だからな!材料は買ってあるから、安心して作ればいいぞ!」

 院長は持っている革袋を見せながら笑った。

 「あ〜そっかぁ!今日の料理当番俺かー! ははは・・・は・・・・はぁぁぁぁぁ!?」

 「あー、やっぱり忘れてたんだねぇ、シグ」

 「てめぇコジー!わかってたんなら言えよ!」

 コジーに文句を言い、院長をジト目で睨むシグ。だが睨みつけたその視線も院長は軽く受け流しつつ口笛を鳴らしている。

 そんなやりとりをしていると孤児院が見えてきた。

 孤児院の入り口に一人の少年が立っているのが見える。


 彼の名はリュート。シグとコジーより少し年下に見える。さらさらとした短い髪、メガネをかけていて、いつも本を読んでいる。シグとコジーをさん付けで呼ぶわりに辛辣なことも言ったりするうえに、孤児院の三人とティファナ以外とは緊張するのであまり話さない、それゆえ無愛想な子だと思われがちだが、本当はとても優しい少年だ。

 「院長、シグさん、コジーさん、おかえりなさい。防柵の修理もう終わったんですね。お二人ともさすがですね」

 にこやかな笑顔で賞賛をくれるリュートにシグとコジーは嬉しくなる。

 「あれ?シグさん腕ケガしてませんか?」

 「え?・・・うわ、ホントだ、気づかなかったー。多分森で魔物を倒した時に切ったんだな」

 「薬を取ってきますから、そこで休んでてください」

 リュートは孤児院にはいってすぐにある長椅子を指差して奥に走っていった。

 「ケガしてるのに気づかないとかほんとシグは鈍感だな。痛くはないのか?」

 コジーは茶化しているような言い方だが、心配しているのがシグには伝わっているので、安心させるように言う。

 「全然痛くないぜ?だから気づかなかったんだしな。ほら、俺って頑丈だし?」

 「まったく、頑丈なのは知ってるけど、気をつけろよな?鈍感だからデカイ怪我でも気づかなさそうだもんな?」

 ニカっと笑って返すシグに安堵しつつも呆れを露わにするコジー。

 (ほんとに素直じゃないなぁコジーは・・・)

 シグはそう思いながらも心配されてることが嬉しく、胸の奥に温かいものを感じている。

 「それにしてもリュートはよく見てるよな。前にコジーが足を痛めてた時も、隠してたのにリュートにはバレたんだもんな?」

 「シグが鈍感だから気づかなかっただけだろ?」

 すると院長が言う。

 「リュートは身体が弱いし、お前たちが外で遊んでる時も留守番してることが多いからな。お前達の事を心配してるから気づけるんだろうな」

 そんな話をしていると奥からリュートが出てきた。

 「おまたせしました。シグさん、怪我見せてください」

 「お、悪いなリュート」

 そしてリュートが薬を塗ろうとするが手を止めた。

 「あれ?シグさん、この傷、弱いですけど毒があるみたいです。」

 院長はそれを聞き眉間にシワを寄せた。

 「でも毒消しはもう無くなっていて・・・」 

 リュートが肩を落としている。だがコジーはリュートの肩をぽんっと叩き

 「毒消しの材料は取ってきてあるから大丈夫だよ。な!シグ!」

 と取ってきた薬草や野草が入った革袋を見せてニッと笑った。

 「ちょっと待ってろな?これと・・・これと・・・」

 そう言うとコジーは革袋から草を9本と葉っぱを6枚取り出し、均等な量にちぎった。

 「キヨイ草とヒールハーブはこれでよし!水と瓶とってくるからな!」

 コジーは奥に行って均等な量の水の入った瓶を六つ持ってすぐに戻ってきた。

 「これで六本分だ、シグ、頼んだ」

 そう言うと取り出した薬草と瓶をまとめてシグの前に差し出した。

 「わかった、『我が望みを具現現せよ(リアライゼーション)』!

 一瞬の輝きの後、瓶に入った水は濃い緑色になっており、コジーがじっと瓶の中を見つめる。

 「うん!ちゃんと毒消しになってるよ」

 「じゃあそれを使ってすぐに手当てしますね!」

 リュートは毒消しを塗り、少し間を置いて持ってきていた傷薬を塗り、包帯を巻いて手際良く治療を終えた。

 「サンキューな。リュート!じゃあ俺晩飯当番だし、作ってくるわー! 院長! 材料くれよー!」

 「あ、シグさんはケガしてるんですから、今日は僕が変わりますよ! 院長もお二人も休んでてください」

 リュートのありがたい申し出にシグは喜びを露わにする。

 「お!マジか!わりぃなリュート、今日はオムライスだからな!」

 「シグさんの大好物ですね!」

 リュートが笑顔で院長から材料を受け取り、調理場に入っていこうとすると、コジーもリュートの後を追って手伝うと言って話しながら行ってしまった。


リュートとコジーの二人が大したケガをしたわけでもない自分のために料理当番を代わってくれたことも嬉しかったが、コジー達の作るオムライスは絶品なのでそちらの楽しみが勝ってシグはソワソワと調理場を見つめている。


 すると院長が真面目な顔で話しかけてきた。

 「なぁシグ、毒を持った魔物はこの辺にはいないはずなんだが、お前たちどこまで木を取りに行ったんだ?」

 院長は普段優しく笑っているだけに、真面目な顔になると少し恐いため、シグは座り直して真面目に答えた。

 「西の森にちょっと入っただけだよ?そしたら見たこと無い赤い目をした黒くてデカイ猪が居たんだ。牙がちょっとかすっちまったけど、頭におもいっきり蹴りをいれたら倒せたけど・・・まずかった・・・?」

 それを聞き院長は顎に手を当て少し考えた後、口を開いた。

 「それはおそらくもっと北にいるブラッドアイボアだ。牙に毒があるし、硬い毛で覆われていて剣も通りにくい、お前たちだから良かったものの、村の者達じゃおそらく5人がかりでも倒せはしないだろう相手だ」

 それを聞いてシグは驚いた。院長としか戦闘訓練をしていなかったため気づかなかったが、自身の戦闘力がそこまで突出していると思っていなかったのだ。コジーと二人がかりでさえ院長相手に勝ったことがないのもそう思わせていた一因なのだろう。

 「しかしよく頭が弱点だと気づいたな。なんにせよ無事でなによりだ」

 「ま・・・まぁね」

 まったく弱点など意識していなかったが、なんとなく流れで返事をしてしまった。目が泳いでいるため院長は気づいたが、大事にはなっていないのだし、と、ふっと笑って流すことにした。

 「他には何も異常は無かったか?」

 「いや、その魔物くらいだよ」

 「そうか、なら私は少し調べたいことがあるから書庫に行くよ、夕飯ができたら声をかけてくれ」

 そう言って、院長は書庫に入っていった。


 しばらくして、ウトウトしていたところに、夕飯が出来上がったと奥から声が聞こえ飛び起きた。シグは書庫の院長を呼び、ともに食卓に向かった。

 そこにはいい香りが広がり、食卓には実に美味しそうなオムライスが人数分並べられているが、一つだけ大きなオムライスがあり、シグは迷わず大きなオムライスの前に座った。

 細かく刻まれたバジルとともに煮こまれたトマトの香りが鼻腔をくすぐり、卵には牛乳も混ぜられていて、淡い黄色とトマトソースの赤が鮮やかでなんとも見るからに美味しそうだ。

 四人全員が食卓についた瞬間、待ちきれない様子のシグを見て院長が言う。

 「それじゃあみんな、いただこうか!」

 「待ってました!いただきます!」

 シグは誰よりも速く食べだした。

 一口食べた瞬間に、中のバターライスに油で揚げられたニンニクが細かく刻まれて入っており、小間切りだが下味を付けて炒められた鶏肉の味が広がり、ニンニクの香りも相まって、食べているのにさらにお腹がすくほどだ。バターライスと卵、そして濃いトマトソースが互いに存在を主張しながらも調和している。シグの匙は止まることを知らない。

 みんなの倍はあるであろう量を誰よりも早く食べ終えたシグはとても満足気である。

 「やっぱコジー達の作るオムライスはめちゃくちゃウマイな!」

 「ウマイじゃなくて、美味しいって言えよ」

 「はいはい、めちゃくちゃ美味しかった!」

 「よろしい」

 コジーの小言も美味しいオムライスを食べたシグにはすんなりと受け入れられた。

 全員が食べ終えた後、食後のお茶を準備しながら雑談がはじまる。

 「そういえばリュートは今日も本読んでたのか?」

 シグがなんとなく質問をする。

 「はい、もうそろそろ新しい本を買いにいかないと読み尽くしてしまいそうです」

 「さすがメガネかけてるだけあるなぁ?」

 お茶を淹れながらコジーが茶化す。

 「メガネは関係ないですが、僕は身体も弱いですし、二人のような特殊な能力も持ちあわせて無いですから、勉強くらいしかすることがないんですよ。メガネは関係ないですが!」

 ふざけて返しているような感じだが、劣等感を感じているのかと思ってしまう返事に、コジーはほんの少し気まずくなる。もちろんリュートはそんなことは思っていない。

 「まぁコジーみたいに素材の特性がわかっても、それから何が作れるか知らないんじゃ意味ないからなー?リュートになんかのレシピの本とか教えてもらえば?」

 今度はシグがコジーを茶化す。

 「コジーさんには薬のレシピでも持ってきましょうか?能力を活かせるようになりますよ?」

 そしてリュートもシグに合わせてニヤニヤしながらコジーを茶化す。

 「うっさいわ!シグだって創る能力があっても材料と量を間違えたら成功しないだろ!お前こそリュートに良い本教えてもらえ!」

 「そうだなぁ、防柵といい、薬といい、リュートに作り方を教えてもらわなかったら完成させられなかったもんなぁ。そう考えたらリュートの勉強って俺達の能力を支えてるんだなぁ」

 自分も役に立っていると改めて実感できるシグの発言にリュートは嬉しくなり、顔を赤らめてうつむいてしまっている。

 

 この村の防柵は実は他の同じ規模の村よりもしっかりとした作りをしている。そのうえ魔除けの木を使っていることで弱い魔物は近寄ってこず、外に向かって突き出した部分をとがらせることで近寄ることのできる魔物もそうそう中に入ってこようとはしないのだ。


 すべてはリュートが書物を読み得た知識をもとに、防柵をより強固にする為の知恵を絞り、職人でも見分けがつきづらい魔除けの木をコジーにみつけてもらい、創る工程をシグに説明し作り上げてもらう。という三人の努力と能力の賜物なのだ。


そんな三人のやりとりを見て院長が口を開く。

 「お前たちも本当に大きくなったな。私がお前たちを拾った時はまだ小さい子供だったってのにな。」

 院長はお茶を飲みながらこの三人を拾った時のことを思い出していた。


===続く===

   


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