006 第一幕 伝説の名剣6
「はぁはぁはぁ、今度シャレにならん冗談をいったら本当に折るぞ」
とりあえず、俺はその辺りを回ってみることにした。
相変わらず、ダンジョンの中には冷たくじっとりとした空気がながれているのだが、2本の剣がペチャクチャペチャクチャ雑談してるもんだからダンジョン探索という雰囲気はまったくない。さすがに伝説の剣が2本もあるんだから俺としてもモンスターにやられる事もないだろう。
10分後、結局俺も雑談に参加していた。
「あー、そうだよな。やっぱり昔も今も変な奴いるよな」
『ふっ、例えば貴方みたいにですか?グランドクルスのマスター』
ガキッ!
『あぁっ、岩に刀身をあてないで下さいよっ。切れ味が悪くなるっ』
『二人とも、仲よくなったわねー』
「よくない」
『よくありませんよ』
………………1時間後。
なにも見つからないじゃなか。モンスターすら見つからないぞ。
「おい、本当に見つかるのか?」
俺はアンギルに問いただす。
『見つかるんじゃないですか?そのうち』
「そのうちって、本当に大丈夫かよ」
なんだか、本当に心配になってきた。大体こんな深い階にそんな巻物落ちてるんだろうか?しかし、今のところは捜し回る以外にはすることもない。仕方がないので探すしかないようである。
…………結局は10時間探し回った。結果1枚の帰還の魔法の巻物が手に入った。
「ううっ……。やっとみつかった」
既に半泣き状態の俺はその巻物を使い、テレポートに似ていなくもない感覚に包まれて地上に帰る。
ハズだったのだが。何故か読んでも全く反応がない。
『ふっ。どうやら長い間ダンジョンの中に放置してあったのでシケってるようですね』
もういい、どうだっていい。誰か俺を地上に戻してくれ。その後どうなってもいいから地上に返してくれ。本当に。
「はぁ……」
もう叫ぶ気力もなく、俺はどこへともなく歩きだした。
そのときである。体が引っ張り上げられるような感覚が俺を包み込んだ。驚いて辺りを見回すと周囲の地面には魔法円が描いてあり、その魔法円にそって白い光りがあふれ出ていたのだ。
「これは……もしかして帰還の?」
『ラッキーねー。帰還の魔法円よ』
グランドクルスがサッと補足をいれた。同時に辺りの白い光りが一段と明るさを増し、何も見えなくなる。テレポートのときと同じである。
光りが引いて行くとそこには、夕暮れと町が広がっていた。
民家に帰って行く子供の姿がある。農作業を終えた農作人の姿がある。今から開店しようという酒場がある。ダンジョンの深層をめざさんとする冒険者の姿がある。どうやらここは、デス・バンドの入り口近くの町のようだ。
そして帰ってきたのだ。地上に。
「あー、もう。やっっと帰れたな」
『よかったわねっ』
まずは宿に泊まろう。金なら少々はあるし。伝説の武器も2つも手に入れたし。今夜はホンットぐっすり眠れそうだな。
宿屋のチェックインをすませ、俺はすぐに部屋の中のベットに倒れ込んだ。
一日が終わるか……。いろいろあったな。明日からは何をしていこうか?
そこまで考えただけで既に答えは出ていた。嫌だといってもあの2本の剣がダンジョンの深層に連れ出すだろう。まあそれでもいい。とにかく今日という日を生きて終える事ができたなら。
宿屋のベットの中で、俺は満足感に満ちた眠りの中に入っていった。
第1幕 終