005 第一幕 伝説の名剣5
「おぉ?」
目の前のドラゴンの死体が見る間に腐敗していた。ついさっきまでドラゴンであったそれは、いまや骨と少々のウロコが残っているのみであった。
いや、ドラゴンの骨と骨との間になにやら光る代物が見える。
「なんだ?これ?」
ドラゴンの骨を軽く蹴って近づこうとすると蹴った骨はいとも簡単に白い粉に分解してしまった。
グランドクルスが右手からこのデス・バンドで死ぬと強力な魔法作用でどんなモンスターだろうと骨も残らずに分解されてしまうのだと説明する。
白い骨の灰の中で一振りのショートソードが光り輝いていた。
『あっらー、もしかして、《アンギル》っ?ここのところ見かけないと思ったらドラゴンなんかに封印されてたのっ?きゃはははは、笑っちゃうわねー』
クランドクルスはどうやら灰の中の剣に向かって話しているようだ。グランドクルスの外にもこんなしゃべる剣とかがあるんだろうか?
『ふっ、お久しぶりです。グランドクルス殿。私としたことがあんなドラゴンごときに捕まってしまいましたよ。まぁ抜け出そうと思ったらいつでも抜け出せたハズでしたけれどね』
『……相変わらずねー。おとなしく抜け出せなかったって言えばいいのに』
『そうとも言いますね。ところでその貧弱そうな方は貴方様の新しいマスターですか?もっといい選択もあったでしょう?』
「貧弱そうで悪かったな」
俺もたかが、ショートソードに貧弱とか言われたくはない。
「だいたい、おまえ何物だ?おまえも伝説の剣とかいうヤツの一つか?」
『ふっ、いかにも。その通りです。グランドクルス殿のマスター。先程の非礼は詫びましょう。もっとも私は事実を述べただけですけれどね』
「おい、グランドクルス。こいつ壊してもいいか?」
そう言った途端、ショートソード《アンギル》からあふれ出る光りが急に弱くなり、口調も全く違った感じになって俺に話しかけてきた。
『いやっ、はははっ。……すみません』
根性のない伝説の武器だな。コイツは。
俺は言葉に出すのは止していたが、かなり強烈にそう思った。
俺はとりあえず、この話題からは離れようと思い他のことを口にする。
「さて、ドラゴンも倒したし……帰ろうか」
『どうやって帰るのっ?』
グランドクルスが尋ねる。
「…………もしかして、帰還の魔法使えない?」
『うんっ』
グランドクルスはそりゃもう明るい声で答えた。
「待てええぇぇぇっっっ!それじゃあ、どうやって帰るんだ!?俺はてっきりグランドクルスが使えると思ってたけど、使えないのか?」
『使えないわよ。私ってば補助系統しか使えないんだもの』
「え…………?」
俺はこのときほど落ち込んだことは今までになかった。どの程度の落ち込みようかというと、部屋の隅で一人暗い世界に浸ってオカリナ吹いてるくらいは落ち込んでいた。あと河原の土手で夕日をバックに石投げてるっていう場合もあるかもしれない。
俺はヘロヘロになりながらもグランドクルスに尋ねる。
「ここって何階だったっけ?」
『えっと、確か地下350mだから……70階くらいかなっ?』
だめだ。壮絶にだめだ。いくらグランドクルスの助力があっても70階も上れるハズがない。
俺が落ち込んでいるところに意味なく誇り高そうなアンギルの声が頭に響いて来た。
『ふっ、私は帰還の魔法を使えますよ。なんたってエリートですからね』
「なにっっ!使えるのかっ!?」
『ふっ、冗談です』
メリメリメリ…………
俺はアンギルを膝に押し当てて、思いっきり力をかけた。
『ギャアァァー。折らないで下さいってえええぇぇぇ。一応、私だって伝説の武器の一つで……ギャアッ、折れるって。止めてくださいよぉぉぉっ』
「この程度で折れる伝説の武器なぞいらん。後で刀身にくっついてる宝石だけ売り飛ばす」
『ちょっと、ちょっと。すみませんって言ってるでしょ。ホントに。帰還の魔法の巻物を探せばいいじゃないですか』
それを聞いて俺はやっとアンギルから手を離した。