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002 第一幕 伝説の名剣2

 なにかの唸り声が聞こえる。犬などではない。もっともダンジョンに犬がうろついている、という話は聞いたことがないが。その声は犬の唸り声よりも1オクターブ低い唸り声である。

「なんだ?まさかサラマンダーとかいるんじゃないだろうな」

 サラマンダーというとトカゲの姿をした炎の精霊というイメージがあるかもしれない。確かにエレメント・サモナーによく召喚されている精霊の一種なのだが、精霊としての性質もあるが、ただのモンスターのように深い洞窟に生息していたりすることもあるのだ。

 しかしその唸り声の主がヒカリゴケの薄明かりの向こうから姿をあらわしたとき、やっとスレイは事態を甘くみていたことに気が付いた。

 ドラゴン。冒険者の天敵、邪悪の象徴、古代の巨獣。いろいろな呼び方はあるが、まずこの世で最強のモンスターだろう。そいつが唸り声をあげながらスレイのほうにゆっくりと近づいてくるのだ。

 スレイはその場から動けなかった。蛇に睨まれたカエル、「俺はそんなふうにじっとしてるくらいならさっさと逃げるね」とよく友達に(もちろん友達も盗っ人なのだが)話していたスレイだが実際にそんな状況になってみると体が動いてくれない。

 なおもスレイの方にドラゴンが近づいてくる。

「こんなところで何をしているのだ?人間よ」

「な、にぃ?」

 喋れるのか、そういえばドラゴンといえば長生きするヤツの中でも最高峰にの長生きのモンスターだって聞いたことがある。スレイの知識にはドラゴンには何千年と生き、高度な魔法を身につけたものもいるというものもあったが、今はその程度の事しか思い出せない。

「しかし、こんな深さまで実力で来れるほどの力も無さそうだな。一体なぜこんな場所にいるのだ?」

 ドラゴンの問いに答えていくなか、スレイはここが地下350mの深遠である事をを聞かされる。

「おいおい、ホントかよ?地下350mもあるダンジョンなんてこの世にそんないくつも無いんじゃねえのかよ」

 驚いたスレイは今度はこちらから質問をする。

「350mくらいで驚くことはなかろう。ここは最深部で2500mはあるのだからな」

「に…にせんごひゃく?」

 1000m以上のダンジョンといえばこの世には一つしかない。そのダンジョンの名前は世に名高い『デス・バンド』である。

「ということは、オレはどうやってここから出ればいいんだよ」

「お前はテレポートミスでここまで来たのだろうが、このダンジョンを突破しようとした人間どもがこのダンジョン自体に魔法をかけてある。帰還の魔法、このダンジョン自体に帰還の魔法をかけてダンジョンの深遠と地上との出入りを可能にしているというわけだ。もっとも帰還の魔法を発動させるためには何かその魔法を発動させるためのアイテムが必要となるがな」

 なんて面倒見のいいドラゴンなんだろう。そうおもいつつもスレイはしっかりと、どこからか出してきたメモ帳にそのことを書き留める。

 メモ帳と鉛筆がどこから出てきたかというのは、この際気にしないでくれ。

 そういうわけで、スレイはドラゴンを別れようとしたそのとき。

「ちょっと待て、それだけの知識をもらっておきながらなにもせずにワタシと別れようというのか?」

「……といいますと」

 引きつった笑みを無理やり浮かべながらスレイがゆっくりと振り向く。

「オマエの命を貰おう」

「やだね」

 いいドラゴンかと思ったのだがそれは大きな間違いだったかも知れない。そんな事を思いながらもスレイはドラゴンの言葉に間髪入れずに拒否の返答を返す。

「クックック。オレはオマエみたいに弱いくせにこの辺りまでたどりついた奴に少々の希望を与えてから殺すのが趣味でなぁ」

 いきなり口調まで変えてドラゴンがその返答を無視して言った。

「いきなり口調まで違うぞ。この、だましてやがったのかよ。しかしそれならそれでこっちにも考えがあるぞ」

「反撃でもするのか?鍛練を積んだ冒険者ならいざ知らず、オマエの攻撃なんぞ効かねぇんだよ。人間もよく言うだろうが『蚊が刺したほどでもない』ってな」

 ドラゴンが無駄口をたたいている間に俺は盗んだものボックス、別名トレジャーボックスからさっきのテレポートの杖を取り出す。

「むっ、それはテレポートの杖。この臆病者が。逃げる気かぁっ」

「はっはっは、さらばだ。アケチクン」

 意味不明の返答をしつつも俺は周りから溢れる光りの中に身をゆだねる。少し前に味わったのと同様の感覚が俺の体をおそい、光りが消えると俺の目の前からドラゴンが消えていた。

 周りにはさっきと大差のない眺めだがドラゴンはどうやら引き離せたようである。

「はぁ、死ぬかとおもったよ」

 死の危機から逃れられたという安堵感からか、俺の口からは自然とため息がもれる。本当に危ない所だったのだがあのドラゴンがバカで助かった。テレポートミスでここまで飛ばされて来たんだからテレポートが使えるということくらいは簡単に予想がつくハズなのだが、あのバカドラゴンはそこまで頭が回らなかったようだ。

 よし、帰ったらドラゴンを小馬鹿にしたシーフって名乗ってやろう。この場合俺が小馬鹿にしたのではないがこの際、そんな小さなことはほっとこう。ほっといても分からないだろうし。

 しかし、ここはやっぱり同じ階なんだろうな。テレポートミスなんてそうそう起こらないものだし。だとすると早いところ階段見つけて他の階に行った方が良さそうだな。あのドラゴン、そうとう怒ってるだろうし。

 そのときである。俺は後ろに何か違和感を感じた。

「なんだ?」

 軽い気持ちで振り向いたその先には……、見慣れたテレポートの光りの輝きの中に見える巨大な爬虫類のシルエットが浮かんでいた。

 そのシルエットは見る間に輪郭をハッキリとさせてゆく、それにあわせてテレポートの光りもだんだんと色あせてくる。

 俺は既に走り始めていた。あまかった、奴は最初から俺がテレポートで逃げる事なんてお見通しだったのだ。それをわざと逃がしてそれを楽しんでやがるんだ。

 俺が必死に走っている間にドラゴンは完全に実体化して俺の方にその巨体からは想像もできないような早さで向かってくる。

「クックック。逃がさんと言っただろうが」

 ドラゴンが走りながら洞窟に響き渡るような大音響を発する。

「ああぁぁっ、もう。しつこいドラゴンだな」

 そう言いつつも俺は再びテレポートの杖を天にかかげる。光りが俺を包んで俺を少なくともドラゴンから少々の時間解放してくれるハズだった。


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