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001 第一幕 伝説の名剣1

「待てえっ、この盗っ人野郎め。ワシの武器を返せええっ!」

 ぬけるような青空の下に武器屋の主人であるマサキの声が大きく響き渡る。

「へっへぇんだ。盗まれた方が悪いんだよ。盗まれるような軽い警備してるから盗まれるんだろ」

 俺が、マサキの怒号に軽く答える。マサキの経営している武器屋[マサキ堂]のロングソードをちょっと無断で持ち出してきただけなのにそんなにおおげさに怒らなくてもいいだろうに。

 ちょいと、そこの読者(推定79%)の方々。俺が悪いのではない。さっきも言ったが盗まれるようなセキュリティの甘さが俺を盗みに走らせたんだ。俺はなにも悪くないぞ。

「なに勝手な解説つけてんだ。お前が悪いに決まってるだろうがっ!」

「なっなにぃっ!俺が読者に説明していた事がどうしてお前のようなチョイ役のキャラにバレたんだぁっ!?」

 俺は逃げながら武器屋の主人に突っ込む。

「知らん!天の声がワシにそう言っていただけだ」

 作者の野郎、たかが武器屋の主人に俺の考えを知る事ができるようにするとは……。スレイが変な言いがかりをつけているが、無視して話を進めることにしよう。

 そういう訳で、俺はマサキに追われていたのだった。

「へへん、俺は足の速さだけには自信があるんだよ。お前みたいなオッサンに捕まってたまるかよ」

 そういって俺はマサキを軽くあしらう。

 さすがにこの一言はマサキを完全に怒らせたらしく、マサキは全力スパートを入れる。マサキの全力の走りはとんでもなく早かった。ほぼ根性だけの走りなのだが根性で疲れをカバーしているので、疲れ知らずで500mくらいを俺に劣らない早さで追いかける。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、そろそろ追いつくぜ」

 走りながら、マサキが叫ぶ。よく全力疾走をしているときにしゃべれるものであるが、どうやらマサキの根性は並大抵のものではないようだ。

「こっ、こいつ……。たかがロングソード一本でそこまで根性を入れて走るなんて。このままじゃあ、いくら俺でも根性負けしてしまうな」

 この速度ならば何とかマサキから逃げ切ることも可能だろうが、マサキの根性はただものではない。さらにスピードアップされちゃあこのスレイにもさすがに逃げ切れない。俺は走りながらも必死に考えを巡らせる。

 おっ、そういえば……。

 そう思いつき、俺は『スレイ用トレジャーボックス』を引っ張り出す。

 俺がどこからそれを引っ張り出してきたのかは神のみぞ知るところだが、とにかく俺は箱を引っ張り出してきて中から一本の杖を取り出す。

「おーい、マサキの旦那よぉ。見えてるか。これが何だと思う?」

「そ……そいつは、テレポートの杖」

 ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべ俺は杖を天に向かって振りかざす。

とたんに俺の周り半径80cmの地面から真っ白な光りが溢れだし、俺を包みんだ。それと同時に俺の体は浮遊感を受ける。

「はっはっは、じゃあな。マサキの旦那。心配するなよぉ、また今度武器盗みに入ってやるからよ」

 真っ白な光りの中で、マサキの悔しそうな顔がチラリと見えた。ふっ、どうだ。俺のトレジャー暦を甘く見るからそういうことになるんだよ。

 次の瞬間、目眩のような感覚があったあと、俺はさっきとはまるで違う空間にいた。

 まず感じたのは忍び寄ってくるような冷気だった。俺と同時に転送された空気と周りの空気との温度差で俺の方に冷たい空気が流れ込んでいるのである。

俺の周りに拡がるうっすらと光るヒカリゴケに照らし出されて広大な空間……

洞窟のような光景が映し出される。

 あたりには何ともしれぬさまざまな不気味な音が鳴り響いている。あるいは、自然が作り上げた鍾乳石が成長を続ける水のしたたる音、あるいはこの広大な洞窟を徘徊するモンスターたちのたてる物音が。

 俺は何が起こったのかわからずにしばし呆然とする。

「おいおい、なんだよ?ここ。テレポートの杖のテレポート範囲は確かそんなに広くなかったハズなんだがな?それに上下にテレポートするなんて事はないハズだし」

 俺はまだ気が付いていなかったが、実は俺は起こる筈のないテレポートミスに巻き込まれていたのだ。本来は起こる確率が非常に小さいので無視されているが、起こったときにはその移動距離はほぼ無限大。俺はそのテレポートミスに巻き込まれたのだ。

 テレポートミスを起こしたにしては俺は運がよかったのだろう。今までテレポートミスを起こした者は海底深くへ実体化する者もいれば、『外世界』へとテレポートして一瞬で命を引きとったり、女風呂に実体化して半殺しになった者すらいるのだ。

 ……最後のはちょいと悲しいというか情けないものがあるが。

 とにかく、テレポートミスによって俺がやって来たのはこの世界最大最凶とうたわれるダンジョン『デス・バンド』であった。

 もちろんまだ今はただ、「でかいダンジョンだな」くらいしか思っていないのだが。

 じっとしていても事態が好転するとはどうも考えられないし、元来楽天家のスレイはとりあえず行動に移ることにした。せっかくダンジョンに飛ばされて来たんだから財宝の一つも手に入ればいいんだがな、と思いながら狭い通路のようになった場所を歩いているときである。

「ぐるるるる……」


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