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3話:旅立ち

 五年前まで、人が住んでいた。


今は、廃虚であり、人の気配どころか小さな生き物さえ姿が見当たらない。わずかに昔は、大きな町であった痕跡がある。石を並べた通りなどは、そのままの形で残っていた。かつては、ジャログと呼ばれた町。全ては、ここから始まった。


ゴゴーッゴゴゴゴゴッゴーッ


地鳴りである。


廃虚と化した町の中心が盛り上がり、地面にいくつかの亀裂が走った。地面がしだいに崩れていき、その下から巨大な白い鯨の様な大きな鉄の塊が浮き上がりさらに上空へと飛び上がった。そう、これこそ宇宙船エルである。まるで大きな白い鯨を思いうかばせる船。宇宙船エルが町の地下から浮かび上がった事に町が大きく陥没した。もともと、廃虚であったが更に見るかげも無くなってしまった。


「船が飛んでいる」


サラは、宇宙船エルの中から小さな窓際ごしに外の景色を見ながらそう呟いた。


宇宙船エルの中で居るサラには、初めての体験でありあまりにも現実離れした出来事に戸惑いを隠せない。サラは、深く息を吐き出して心を落ち着かせた。これから先の事を思うと気が重いのだ。サラは、色々な事をエルから聞き出した。とっ言うよりもエルの方から話してくれたのだ。彼女は、サラに告げた。


「私は、この世界の覇王・・・ラーに会いに行かなければなりません!」


とっ、エルの意志は、とても強いものだった。


そんな事を言ったエルであったが彼女には、自分自身に関する記憶、思い出などは、もちあわせていなかった。ただあるのは、自分に与えられた使命を遂行すると言う強い意志だけであった。サラは、思う。エル、彼女は、いったい何者なのか。何処から来て、何をしようというのか。自分が父と共に彼女を見つけなければ、どうなっていたのだろう。父が密かに自分に言った事をサラは、思い出した。父、ガスタルディーは、彼女が古代人だというのだ。数千年前に栄えた文明に生き残りだと言う。しかし、サラには、とてもそう思えなかった。現在の事に詳しすぎる事。そして、なによりエルは、水槽の中で眠っていた。古代人は、棺の中で眠っていると聞かされていたからだ。


「どうしたら、良いんだろう」


サラは、頭を抱え込んだ。


エルのしようとする事の大きさがサラには、わかる。ラーと言えば今やこの世界の王である。その人に会いに行こうとするエル。そんな事がただですむ筈がないのは、誰にでも分かる事である。すんなりと会えるほど簡単な事ではない。それにエルは、古代人であるのだ。警戒されるどころの騒ぎではない。


だから、サラとガスタルディーは、エルを思いとどまらせようとした。しかし、どうしても行かなければならないのだと、エルの意志は、固かった。



 広い艦橋の側面を埋め尽くす様に外の風景を映し出している液晶ビジョンが取り囲みその中心辺りにエルは、この世界で誰もが着る地味な服装に身を包みしっかりと正面を向き目の前にある外の映像に目を向けていた。


その横にサラが立ち、ガスタルディーがサラの左肩にその大きな手を乗せた。


「サラ、ここから西へレジスタンス・カハの軍に向かう!」


「父さん、どうして?」


「エルと話をした。このままラーの城に向かうのは、あまりにも危険だからな。それにこの船の力があれば皇帝を倒せるかもしれないんだよ」


「でも・・・父さん!皇帝軍は、強いって・・・・」


「サラ、上手く行けば自由な世界が手に入る」


目を輝かせて言う父ガスタルディーにサラは、顔を引きつらせた。


今、この世界の民は、統治者ラーに反発する者が多い。ガスタルディーもその一人である。重い税に不自由な生活、ラーの恐怖政治に反発するレジスタンスがいつの間にか出来上がっていたのだ。西のレジスタンス「カハの軍」、かつてラーに滅ぼされた国の女王が率いる北のレジスタンス「反皇帝王族軍」、仮面の将が率いる東のレジスタンス「エルフの軍」、この三つがこの世界で大きな勢力を持

つレジスタンスである。


「ガスタルディーさんの言う事は、分かります。だから、西のレジスタンスへ向かっているのです。協

力してください。サラ・・・・」


「協力だなんて・・・・僕は、・・・僕は、何も出来やしない」


エルの言葉にサラは、不安そうに答えた。


サラは、不安でならなかった。エルは、この船を動かし、皇帝に会えるなら何だってするだろう。それに協力して欲しいというと言っているのだ。そんな事を言われてもサラには、どうしたら良いのか分からない。知識も力も未熟な子供である自分では、エルの手助けを出来ないのが現実である。まだ、父ガスタルディーの方が役に立てるだろう。ただの親切心でエルの役に立ちたいと思っているのではない。ガスタルディーは、この船を使って皇帝を倒そうと思っている。サラは、そんな父の考えなどどうでも良くて、ただエルを目覚めさせた責任と義務を感じていた。だから、エルのしようとする事を自分の目で確かめるまで、彼女のそばを離れるつもりなど無いのだ。


「いいえ、サラ。貴方は、この私を目覚めさせてくれました。それだけでも十分です。そばに居てくれるだけで良いのです。私の心の支えになってください」


エルは、サラの側でそう言ったが、サラは、なんて傲慢なんだと思うのだった。




キュイ〜ン・・・・ゴゴゴゴッ


「大きなエナジー反応・・・あれだね!」


先端が左右に広がった海に泳ぐエイの様な形。そんな空を駆ける様に飛んでいる大きな船の中でサラと同じぐらいの歳の少年が椅子に腰掛けて、目の前に展開された液晶ビジョンに写る宇宙船エルの姿を眺めていた。


「宇宙船エルがこんな所に?・・・・乗っているのは、・・・誰だ!?」


少年は、そう呟き椅子から立ちあがった。


この少年も古代人の一人である。


普通古代人は、成人した状態から強化手術を受けて力を手に入れる。しかし、この少年は、違った。

DNA(遺伝子)操作により、受精卵の状態から既に力を与えられていたのである。ゆえに彼は、自分の事を特別な人間だと思っている。力も他の古代人より数段上である。ただ、わからない事に特別な古代人であるはずの自分があのラーの足元にも及ばないと言う事だ。


だからこそラーに従い、ラーに対する尊敬をもっている。


この少年は、ラーに言われていた。


「お前の力の優秀さは、私より上であろう。だが、なぜお前の力が私の足元にも及ばぬのか。それは、お前には、憎悪が無い。力を極限まで引き出すための鍵となる憎しみが無いのだ。そうだ、お前には、生まれつき闘争本能が欠落している」


「この僕に闘争本能が欠落している!? ならば、それを引き出す鍵となるもの。憎しみ? 憎悪? を手に入れなければ、・・・それは、どんな物だ?」


少年は、自分が完全体でないとラーに思い知らされたのだ。


だから、自分にかけている物を手に入れて、作られた生命体である自分が人間を古代人を超えた生命体になる。そう考えるのは、特別な人間であるための少年の意地であるのだ。



少年の船が急旋回をすると宇宙船エルのもとへ近づいていった。


「えっ・・・もう、気づかれた・・・」


突然のエルの言葉にサラとガスタルディーがエルの方へ顔を向けた。


宇宙船エルのブリッジでエルは、少女には似合わない冷や汗をうかべて目の前に映るビジョンをしっかりと見据えた。


「どうしたんだい? エル、何が・・・・」


「静かに!・・・来ます! 気をつけて!!」


ズゴ〜ン


エルがそう言い終わる前に激しい衝撃が船内を襲った。サラとガスタルディーがよろめき、床に強く体を打ちつけた。


「うげっ!」


「うっ!」


なぜかエルだけがよろける事はなく、しっかりと前を見据えて目の前に現れた1隻の船を冷静な目で眺めていた。そして、エルは、静かに目を閉じると宇宙船エルを静止させた。それにつられる様に宇宙船エルを攻撃したエイ様な船も静止する。


すると、エルの目の前の液晶ビジョンに割り込むように一人の少年の姿が映し出された。


「僕の名は、シアン・シルス! 皇帝ラー様直属の古代人だ! その船は、知っている。この時代の人間にその船は、動かせない。お前は、古代人なのか? 僕は、お前を知らない」


シアン・シルスとなのる少年は、エルの姿を見ていきなりそう言ったのだった。


「少年? 僕と同じ歳ぐらいの?」


サラは、エルの目の前に映し出された少年の姿にそう呟いた。何が起きたのか一瞬理解できなかったサラだったがエルの船と同じ様に空に静止している船とそれに乗っている少年の姿に彼も古代人なんだと直感的に悟っていた。


「私の名は、エル! 今ここで貴方と事をかまえるつもりは、ありません!おとなしく、引き下がってくれないでしょうか?」


エルは、大人が子供をさとす様に目の前の少年の映像に向かって口を開いた。


その事にシアンは、鋭い目をエルに向けた。


「それは、出来ない! 答えがわかっていてもそういう事を言うのか? その船は、貴重な物だ。それにお前が古代人というのなら、その船と共にラー様の所へ連れて行く義務がある」


「ならば、こちらの船へ来てください。そして、無理矢理にでも連れて行けばいいわ」


エルは、少し激しい口調で言った。


その事にシアンは、少し戸惑いと見せた。サラには、気づいていた。エルがわざとシアンと言う少年を挑発しているという事。そして、エルが何かを企んでいるという事を。


「わかった・・・・今、そちらに行くよ」


シアンは、静かにそう言った。


サラは、何か胸騒ぎを感じていた。なんとも言えぬ複雑な気持ちが渦巻くサラの心。数時間前までは、考えもしなかった事が目の前で展開されている。宇宙船、エル、古代人、シアン・シルス、思いもしなかった事が目の前で起こっているのだ。サラにとってその事は、不安と言う重みになって心を締め付ける。どうして、こんなに不安なのだろう。


なぜ?


苦しまないといけないのか。そうそれは、自分が何も知らないからである。エルの事、いやそれだけでは、ない。古代人の事、船の事、皇帝ラーの事、この世界で起きている大きな波の事。今まで無関心だった事が急に今のサラには、知りたくなった。それがこの事態を少しでも把握する唯一の手段だからである。



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