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21話:死と再生

 何処とも知れない街道で一人の青年が地面に片膝を付き呻いていた。

右手には、鋭いブレード・ソードを持ち、歯を食いしばり鋭い眼光で正面にいる人物を睨み付けていた。


ラファエルは、片膝を付いている青年にトドメとばかり手に持った剣を振り上げた。


「これで、終わりだ」


「・・・・」


青年は、ラファエルを睨み付けたまま死を覚悟していた。


だが、それも一瞬で一人の少女の声にかき消されてしまった。


「待って!! ラファエル、彼を・・・・デュアルを殺さないで!!」


少女が一人、デュアルとラファエルの間に割って入ってきたのである。


少女は、両手を広げてデュアルを庇うように立ちはだかりラファエルの顔を凝視した。


「馬鹿が!! エリス、そこを退け!!」


ラファエルは、もう一度剣を構え直す。


「お願い。もう止めて。これ以上は・・・」


「エリス。本気で言っているのか? こいつは、お前の親父さんを殺したんだ。お前は、その仇を討ちたかったんじゃないのか?」


「私は、ただ・・・納得できなかっただけ。どうして、彼が父を殺したのか・・・その理由を知りたかっただけ」


エリスのその言葉にラファエルは、舌打ちをする。


古代人であるデュアルを倒すチャンスは、今しかないとラファエルの心がはやる。


皇帝ラーに従い、害悪を他国へ撒き散らしてきたデュアルを殺す事が出来れば、帝国とのパワーバランスに一定の楔を打ち込む事が出来るのである。


しかし、エリスの思いをしりどけ、デュアルを殺せば、怨まれるだろか。

と、ラファエルは、そう考えながらも剣を振り上げたままエリスの後ろに居るデュアルを睨み付けた。


お互いがお互いの顔を睨み付けたまま、小さな時が流れた。


一瞬の沈黙だった。


だが、その沈黙を破ったのは、意外にもデュアルの笑い声だった。


「クッククク・・・ハハハハッハ」


「何がおかしい!?」


「くだらん。理由が知りたいだと? そんな小娘の言葉に動揺して、我にとどめをさせぬ臆病者が」


「黙れ!!」


ラファェルは、怒りの表情を浮かべてデュアルに切りかかろうとする。

それを見たエリスが必死にラファエルの身体にしがみ付き止めようとした。


「邪魔をするな! エリス」


「駄目!!」


「愚か者どもめ。我をこのような結界に長らく縛り付けられると思っていたのか?」


デュアルがその言葉を言った瞬間に稲妻が彼を中心にして同心円上に走った。

足元の淡い光の魔方陣が浮かび上がり、霧散した。


デュアルは、自身を縛り付けていた呪縛が消えて、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ブレード・ソードを構えるとエリスの背中に狙いを定めたのだ。


「死ね!!」


「止めろー!!」


ラファエルは、叫んだがエリスに身体をしがみ付かれて身動きがとれなかった。


デュアルの振り上げられたブレード・ソードは、容赦無くエリスの背中を貫き、彼女の腹から突き出た刃がラファエルの腹を突き破った。


「ああ・・・・ごめんね。ラファエル・・・・」


その言葉を最後にエリスは、ラファエルの胸の中で息絶えた。


「うわっわぁぁぁあああああ!!」


ラファエルを大きな叫び声を上げて、ベットから飛び起きた。


我に返って、辺りを見渡すともう朝で、起きないといけない時間だと悟るのだった。


「また、あの時の夢を見たのか」


もう何年も前の出来事なのにラファエルには、鮮明に思い出す事ができた。


忘れようとしても、時折・・・夢を見て、思い出してしまうのだ。


「クソ、駄目だ・・・こんなんじゃ、何時まで経っても」


ラファエルは、ベットの上で頭を激しく振って気分を切り替えようとした。

そのまま、ベットから降りて、近くの椅子に掛けていた上着を手に取った。



 定食屋、と言っても夜は、酒場になる広く大きな食堂。

二階には、宿泊施設があり、旅人達がよく利用する施設である。

たいていの場合は、国や町が管理していて、不審者の通報や寄り合い場所にもなっている。


ラファエルが二階の宿泊施設から降りてくると食堂の角にあるテーブルにヒルダとエリスが既に待機していた。


「ちょっと〜っ!! 遅いわよ。ラファエル」


ヒルダがラファエルの姿を見つけてそう叫んだ。


「たくっ、お前等が早すぎだっての」


ラファエルは、そう言ってヒルダ達のテーブルの席に着いた。


ラファエルは、視線を感じて顔を上げるとエリスがジッと彼の顔を眺めていた。


まるで、こいつは、誰なんだと言う顔で見つめていた。


何時もの事。毎度の事。


エリスと顔を合わす毎にラファエルは、そう自分に言い聞かせて来た。


あの時、確かにエリスは、死んだ。


少なくとも半年間は、死んで居た。


それをヒルダが古代の技術を使って蘇らせてしまった。


しかし、全て元通りと言うわけには、行かなかったようで、蘇って以来エリスは、笑顔を見せる事も言葉を喋る事も無かった。


何かが欠落している様にラファエルには、感じていたのである。


「ねぇ、ちょっと!! 聞いてる? ラファエル?」


「えっ? ああ、なんだ?」


ヒルダの声にラファエルは、我に返ると返事を返した。


「今後の方針。決めないとね」


「そんなもん、決まってるだろ? この町には、デュアルを追って来たんだ・・・・奴を見つけて決着を付けるだけだ」


ラファェルは、腰に下げた剣の柄に手を掛けてそう言った。


それを見たヒルダが不機嫌そうに口を開く。


「だーかーらー、それじゃ意味無いって言ってるわけ!!」


「ヒルダ。お前は、どうするつもりなんだ?」


「大切なのは、この子の気持ちでしょ?」


ヒルダは、隣に座っているエリスの身体を軽く抱きしめた。


「あんなに仲良かったデュアルに父親を殺され、気持ちの整理もつけなまま彼を追いかけて、殺されしまった。エリスの心は、まだ宙ぶらりんなの。まずは、この子の気持ちの決着を付けさせないとね」


ヒルダの説明をめんどくさそうに聞いていたラファエルは、突然席を立った。


「ちょっ、何処に行くの?」


「色々めんどくさそうだ。その心の決着とやらが終わったら俺を呼んでくれ。その時は、俺が出る」


ラファエルは、そう言い残して食堂を出て行くのだった。


「はぁーっ、これだから、男って生き物は」


ヒルダは、食堂を出て行くラファエルの後姿を眺めながらそう呟いた。




 メインストリートの端をラファエルが歩いていると一匹の三毛猫が足元に現れた。


それを見たラファエルがおかしそうに笑みを浮かべる。


「静寂なる暴風か。今日は、少年の姿では、なく猫の姿だとはな」


「ニャー」


「暇なら、一緒に行くか?」


ラファエルは、その場に屈むと三毛猫を胸に抱きかかえて立ちあがった。


そして、町の中心へ目指して、再び歩き出すのだった。



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