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2話:ワインレッドの瞳

「私の名は、・・・・E・L・L・E・・・・・エル。貴方は、誰?」


「声?・・・・そんな・・・・・違う・・・・声が頭の中で響いている」


サラは、自分の頭の中で響く少女の声に戸惑い、目の前に居る少女・水槽の中から自分を見ている少女から目をそらせないでいた。


「て〜い! サラ!! 父さんをほって行くんじゃねぇ!!」


ぼうぜんとしているサラのもとへガスタルディーがそう叫んで走ってくる。そして、ガスタルディーもサラの目の前にある物を見てしばらく声を出せないでいた。しかし、その沈黙を破ったのは、無機質な機械的な声であった。


「ウエークアップ・・・・E・L・L・E・オペレーションシステム。アイ・・フリーズ・・ザット・・ウエークアップ・・・・E・L・L・E・・・・・。E・L・L・E・オペレーションシステムヲキドウサセマス。E・L・L・E・キドウゴ・・・・ワタシハ・・・フリーズシマス。イゴノシジハ・・E・L・L・E・二シタガッテクダサイ」


あまりにも一方的なマシンボイスに驚いてガスタルディーは、声を上げた。


「え〜い! ちょっと待つだ〜〜っ!!」


「マテマセン!!」


あまりにもキッパリとしたマシンボイスにガスタルディーは、頭を抱え込んだ。


「の〜〜っ!! 何が何だかサッパリわからねぇ!いかん!! 何が起こっているんだ。俺は、どうしたら良いんだ!? いや、待てよ落ち着くんだ。ここは、少しづつ事たいの把握を・・・・・」


ガスタルディーは、混乱していた。


サラは、そんな父を迷惑そうに横目で見ながらため息を吐く。そして、父の背に回り込み、ガスタルディーの又ぐらを力一杯蹴り上げた。


「うっの〜〜〜〜っ!!ほう〜〜〜〜っほほ〜〜〜〜〜っ・・・・」


ガスタルディーは、涙を浮かべ自分の又を押さえながら、ぐにゃぐにゃとのたうちまわった。


「はにふるだ〜〜っ!(なにすんだー!)」


「父さん、落ち着いた?」


「うっ・・・・」


ガスタルディーは、痛みとサラの笑顔に何も言えなかった。





 水槽の中の水が吸い取られる様に少なくなっていく。中にいる少女の身体が乾いた空気に触れた。全ての水が排出されると、水槽のガラスが上にスライドしていく。


少女は、外気に触れその気温の違いに寒そうにその身を震わせる。それを見たサラが上着を脱ぎ、少女の身体に掛けてあげた。


「エルって・・・言ったよね!? キミの名前・・・・・・僕は、サラ!」


「・・・サ・・・・ラ・・・・・?」


少女は、キョトンとサラの顔を見つめ、しばらく動かなかった。別に驚いているのではない。目覚めたばかりで全ての感覚が鈍っているのである。時間が経てば、鈍った感覚も元に戻るだろう。しかし、少女は、今自分が置かれている立場を理解しようと必死になっていた。


「・・・・あっ・・・そう・・・私の名は、エル・・・この船の意志であり・・・力。私は、待っていた。この時がくる日を・・・・ありがとう、サラ・・・・目覚めたのは、貴方のおかげ」


「えっ? そんな、僕は、ただ・・・・・でもきみは、どうしてここに?」


サラは、少女の前で膝をつき、同じ位置に顔をもっていった。


「眠っていたの! 永い間、永い時・・・・ここは、私の中・・・・・私の分身・・宇宙船エルの中・」


少女エルの言っている事がいまいちサラには、理解できなかった。何処か象徴的で彼女の言った意味不明の言葉がサラを不安にさせる。いったい彼女は、何者であるのか。彼女の言葉から、まるで異邦人のように感じるサラであった。


 今や世界の中心であるバルド帝国。そして、世界統一と言う偉業を成し遂げた現皇帝ラー。信じられないほどの赤い瞳、20歳にしか見えない若々しい姿。この青年がラーである。どんな人であろうと彼には、かなわない。ラーは、恐ろしいほどまでの強大な魔力と神技の様な剣技の持ち主であるのだ。この世界の人々は、そんな彼をダブル・マスターと呼ぶ事もある。ラーの魔力は、一瞬にして国の一つや二つを廃虚と化す事ができる。そして彼の剣技は、その一振で大地が裂けると言われている。


だが、彼は、そのような自分の能力を世界統一に使ってはいない。自分の力で手に入れた国々など廃虚しか残らないと、ラーは、頑なに自分自身の強大な力を使わなかった。


そう世界統一を為し得たのは、彼の頭脳戦略のたまものであるのだ。


その彼の城であるバルド帝国城の一室でラーは、深い椅子に腰をかけて目の前に居る一人の女性に語りかけた。


「世界が統一されて、二年と半年が過ぎた。そして、ホルスは、やってくる」


その女性もラーの前で椅子に腰掛けてラーを睨みつける様にしていた。鋭い目付き、筋肉質の身体、その意志の強さが身体全体から現れている様な女性である。


「わかっている! だが・・・裏切り者のヒルダとデュアルを野放しにする事など出来んな!」


その女性は、ラーにそう言って険しい顔を作った。


以前彼女は、この世界が統一される2年と半年前にラーを裏切った古代人と対決している。そう、彼女もラーもこの世界では、古代人である。数千年前に栄えた文明人の生き残りがラーや彼女と言った古代人なのである。時代が彼ら古代人を永き眠りから目覚めさせ、彼らの力が世界統一を成功させたのだ。


それも凄く強引な知略と言う力技での世界統一であった。それに反発したのがヒルダやデュアルと言った古代人であるのだ。そして、その裏切り者の古代人と対決した彼女の名は、リーン・マッシャーと言う。


リーンは、その時の対決でヒルダを瀕死に追いやったもののデュアルに敗れ、自分の部下であるアカーマを失っている。


「アカーマの仇は、必ず取る!」


「フッ・・・その事で話しがあるのだ! リーン、でなければお前を呼び立てたりするものか!? 私を嫌うのは、良い。だが・・・私の命令は、絶対だ」


ラーの眼は、鋭くなり悔しくもリーンは、身震いをしてしまった。


『いくら、私でも・・・こいつには、勝てない。こいつこそ究極の化け物と言う事か!? まあ良い。こいつを敵にまわさなければいい』


と、リーンは、その心内を悟られまいと、真剣な顔を作り口を開いた。


「今までお前の命令に逆らった事があるか? この私が・・・・」


「おとなしくしている内は、良い。だが・・・・これを見て・・・どう出るか!?」


ラーが一つパンっと手を打つと別の部屋の扉から一人の男が入って来た。


それを見たリーンは、驚いて立ち上がった。その男は、リーンの知っている人物であった。いつも自分の側にいた男。自分に従い手助けをしてくれた男。リーンは、あの時死んだと思っていた。


「アカーマ!!」


「異次元の狭間を漂っていたのだ。私が次元の穴を開き助け出した」


淡々と説明するラーにリーンは、顔を向けた。


「礼など言うものか」


「フッ言われては、こちらが困る。かえって私を怨むのでは、ないか?」


「どういうことだ!!」


ラーの言葉にリーンは、顔を激しく歪ませた。


冷静に見つめるラーの態度にリーンは、はらただしさを感じながらもアカーマの方へ進み出る。


「アカーマ!!」


「・・・・・」


「どうした? 返事をしろ! アカーマ」


リーンは、自分に何の反応も示さないアカーマに目を鋭くした。そして、アカーマは、じろっと目玉だけを動かしてアカーマは、リーンを見据えた。


「・・・・」


「なぜ!! 返事をしない!? アカーマ!!」


リーンは、頭に血が上りアカーマにつめよろうとした。しかし、それをラーに止められたのだった。


「よせ! リーン、分からないのか? 彼は、もうアカーマではない。私が助け出した時には、すでに取り付かれていたのだ。黒い大きな影にな」


「ちっ・・・・何がどうなっている!? 訳を話せ!! ラー!」


リーンにとって一番信頼していた者が生きていたのである。動揺は、隠せない。生きていただけでもリーンには嬉しかった。しかし、その彼が以前と違う。ラーが何かに取り付かれているのだと言う。

アカーマの様子がおかしいのは、冷静になった今のリーンには、わかる。


何が原因か? ラーは、知っているのか? アカーマに取り付かれている物を・・・・。


リーンは、心の中でそう自分自身に問い掛けながら、変わり果てたアカーマを見る。


「リーン、異次元の魔と言うものを知っているか?」


「・・・・聞いた・・ことがある。我らの時代より、後に栄えた魔法科学文明が産み落とした生体兵器だと言っていたな・・・・。まさか・・・それにアカーマが取り付かれたと言うのか!?」


「そのとうりだ。リーン、これが何だか分かるか?」


ラーは、ポケットから一つの指輪を取り出しリーンの目の前で良く見える様にもっていった。


リーンは、驚いた様にそれを見る。


「指輪?・・・・ただの指輪では、ないな!?」


「うむ・・・・・これは、月の指輪と言う。月の魔力が込められたマジック・アイテムだ。月の魔力は、異次元の魔をコントロールする事が出来るのだ。この意味がわかるか? リーン?」


リーンは、ラーの言った言葉に目を鋭くした。


そして、ラーに掴みかかる様な勢いでリーンは、ラーの目前に迫った。


「何を・・・・考えている!? ラー!!」


「フッ・・・・魔との融合は、我々古代人の能力を数倍に膨れあがらせてくれるようだ。見てみたいと思わないか? アカーマなどでは無く、真なる古代人と魔の融合をな」


「狂っている!・・・ラー・・・・私には、わからないな。どうして、そこまでして力を求める必要がある!?」


「わからないのは、こちらの方だぞ!! リーン、今のままでホルスに勝てるとは、思えない」


「だから、力が必要だと言うのか? しかし、・・・・・ホルス・・・いやオシリスの子供達との共存を考えなかったのか?」


リーンには、わからなかった。


そこまでして、ホルスと戦う必要がどこのあるのか。ラーがホルスを受け入れれば、我ら古代人は、ホルスと共存すら可能なのだ。なのにホルスを敵に回そうとしている。


「考えは、・・・した。だが、我らと奴らには、深い開きがある。・・・そうだ、この世界の生物と同じ様にな。ホルスから見れば、我らもこの世界の生物とそう変わらんのだろう。共存などありえない。共にこの世界の生物と同じように滅ぼすつもりだ」


「なぜだ!? ならば、どうして・・ホルスは・・・・」


「リーン、我らがこの世界を守りとうせばすむ事だ。この命をなげうってでもな」


「クッ・・・どうしろ言うのだ? ラー、そのためにこの私を呼んだのであろう?」


リーンは、少し落ち着いた様子で顔を傾けラーをからかう様な口調で言った。そうだ、奴の口車に乗ってはいけない。あくまでラーの目的は、この私だ。奴は、この私を利用しようと考えている。リーンは、自分の心に注意を促して気持ちを切り替えた。


しかし、ラーの話術は、巧みである。まるで、人の心を見透かしたように頭がまわる。だからこそ、国をのっとり、この世界を統一できたのだ。


その事を十分理解しているリーンだがそれでも気をゆるせば、何時の間にかラーの口車に乗ってしまっている事があるのだ。


ラーは、スーッとリーンのすぐ近くまで近づき、左手をリーンの顎に添えた。


「お前は、ヒルダとデュアルが許せないと言った。一度、デュアルに負けたお前が勝てるとは、思わない事だ。復讐を果たしたいと言うのなら、力が欲しいと言え!! 力が欲しいとな・・・」


「・・・・・・」


ラーの燃える様な赤い瞳が輝いた。


リーンは、ラーの瞳に吸い込まれる様に身動きが出来なくなっている。そして、そのリーンの口は、ゆっくりと開かれるのだった。




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