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19話:再開

ムーン・ロストの町。


隕石の衝突であがたれたクレータの中に町が存在している。


伝説では、空に浮かぶ月が粉々に割れて、その破片がこの地に落ちたと語り告がれてきた。


バルド帝国を率いる皇帝ラーは、大陸の国々に戦争や混乱を呼込み、瞬く間に世界の殆どの国を侵略、植民地にしていった。

そして、最後までバルド帝国に逆らい、帝国に反する勢力、人物達がこの町に集まってきていた。


この町に様々な人が集まってくるのは、ある特殊な理由があるからだ。


その理由により、バルド帝国も簡単に手が出せないでいた。


クレータになって、あがたれた外側は、自然の要塞になっていたし、その内側には、失われた古代の技術によって作られた鉄壁の城が多数存在していたからだ。


町の中心。


メインストリートでは、人が身動きが取れないほど、集まり賑わっていた。

ストリートの両端には、露店が立ち並び、その店を見て歩く人が大半で、それが更に渋滞の原因にもなっていた。


デュアルとナスカは、そのメインストリートのほぼ中心あたりをゆっくりと歩いていた。

ナスカは、デュアルの右側に立ち、まるで恋人のように腕を組んで歩いて居る。


デュアルは、ふと歩みを止めてストリート全体を眺めてみる。

そんなデュアルをナスカは、不思議そうに見据えた。


多くの人間達、活気がある町、商売さえ盛んだと言える今のこの状況がデュアルには、不思議に思えたのだ。

もうすぐ、この町も戦争に巻き込まれ戦火の炎に巻かれる事になる。

この町に住み、生活をする誰もが解っている事だ。

それなのにその恐怖に怯える事もなく、何時もと同じ生活を続ける事ができる。

それは、何処からくる安心感なのか、それともあの強大な帝国に勝てると思っているのか、デュアルには、どう考えても解らなかった。


「不思議だな。もうすぐ、戦いになると言うのに。この落ち着き様は・・・・」


「それは、そうよ。もうすぐって言っても何時、戦いになるか解らないし。人には、毎日の生活があるんだもの。それにこの町以上に安全な所なんて・・・」


ナスカは、デュアルの言葉に少し自虐的な笑みを浮かべた。


「それも、そうか」


デュアルが笑みを向けて言うとナスカは、はにかむ様にうつむいた。

そして、何かに気が付いたように後ろに振り向くと、ナスカは、ストリートの角にある一つの屋台を指差した。


「あれ! 食べよう。お腹空いたでしょ?」


ナスカが指差したのは、パンケーキを焼いている屋台だった。


「おい! ナスカ?」


デュアルの返事も聞かずにナスカは、人ごみをかき分けるように屋台へと向かって行った。


デュアルは、立ち止まって、そんなナスカの背中を追うように眺めていた。



デュアルは、ナスカが戻って来るのを待って居たが、混雑するストリートの流れの中でその歩みを長く停止させる事は、許されなかった。

人ごみの流れに流されるようにデュアルは、歩み続け、ナスカの姿を見失わないように視線だけでその姿を追っていた。


その為に自身の周り状況の変化に気づくのおのが遅れ、対応が遅れてしまった。

気がついた時には、デュアルの目の前に人ごみから弾き出されるように飛び出して来た一人の少女が存在してた。


深くフードを被った姿、歳は、16歳ぐらいの少女。


デュアルは、少し驚きながらも、その少女を庇う様に流れの速い人の流れから、連れ出した。


「オイ、大丈夫か?」


「・・・・・」


デュアルが少女に声を掛けたが、返ってきたのは沈黙だけだった。


『もしかして、喋れないのか』 とデュアルは、思ったが、自分の顔を見据え、少女から伸びてきた両手を見てそうではない事を悟った。


少女は、伸ばした両手をデュアルの頬に添えて、ジッと顔を見ていた。


「どうした? 俺の顔に見覚えでもあるのか?」


デュアルは、そう優しく問いかけたが少女は、無言で顔を見ているだけ。


やれやれと言った顔で、デュアルは、少女の両腕を掴み、頬に添えられた手を引き剥がした。


「あっ・・・・」


この時、初めて少女の口から声が漏れた。




 ナスカは、ようやく焼きあがったパンケーキを両手に一つずつ手に持って、待ちわびているだろうデュアルの姿を探した。


ストリートの中心からかなり離れた所、緩やかな人の流れのナスカから見て対岸の脇にその姿を見つける事ができた。

人ごみを掻き分けて、デュアルの元へ近寄ろうと試みたナスカだったが少し様子がおかしい事に気が付いた。


「どうして・・・・・」


それは、ナスカにとって驚きだった。


一人の少女がデュアルの顔を懐かしむように彼の頬に両手を添えていたのだ。


それを見たナスカは、身体が硬直したようにその歩みを止めてしまった。

そして、人の流れが邪魔だと言わんばかりにナスカの身体を押し流そうとする。


誰かがナスカの身体にぶつかり、その拍子に両手に持っていたパンケーキを地面に落としてしまった。


落ちたパンケーキは、人ごみの足によって踏み潰されていった。


ナスカは、解っていた。


こんな日が来る事を。しかし、それは、まだもう少し先の話だと思っていた。


たぶん、あの少女は、自分が良く知っている人物のはずだ。


と、ナスカは、確信していた。


良く知っている人物だからこそ、デュアルとの関係がどれだけ深いのか理解していたし、自分よりも深い関係だと解っていた。

しかし、このタイミングでの彼女との接触は、あまり良い事ではないようにナスカには、思えた。


デュアルは、以前の記憶を失くしている。彼女との接触が引き金になり、以前の記憶を取り戻す可能性があるからだ。


だとしても、もう接触してしまったのだ。


ナスカは、勇気を振り絞って、デュアルと少女の元へ、再び歩み始めた。


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