15話:白銀のナスカ
トントン
っと扉を叩く音が聞こえてきた。
サラは、エルが戻って来たのだと思った。
だが、開かれた扉から入ってきたのは、エルでは無い別の女性だった。それも、この世の存在とは、思えないほど神秘的で美しい女性。褐色の肌にまるで色素が無くなってしまったようなアルビノの白い髪と瞳。
古い物語にでも出てきそうな女神の様な姿だった。背には、長い刀を背負い、服装は時代劇に出てきそうな忍者のようないでたちをしていた。その女性は、部屋に居たニブルの方を向くとニッコリと微笑んで
「ニブル!!」
っと叫んだ。
それに気づいたニブルが驚いた様子で彼女の方へ駆け寄った。
「ナスカ!! どうしたんだ? こんな所に居たのか?」
「ええ、ちょっと思う事があってね! 町の噂でここに変な人達が居るって聞いたから・・・やっぱり、ニブルだった」
「ヲイヲイ、変って? そりゃないぜ・・・久しぶりに遭えたのにいきなりそれかよ!」
ニブルは、少しおどけた様子でそう言った。
「ニブル? 知り合いなの?」
サラは、ニブルとその女性の仲が良さそうな雰囲気にそう聞いてみた。
「ああ、サラ! すまねぇな。こいつは、ナスカって言うんだ。昔こいつを含めて、4人で旅をした事があってな」
「旅の仲間だったって事?」
「ああ、そんなもんだ」
ニブルがちょっと照れくさそうに言うと、女性の方がサラの前に来て右手を差し出した。
「私の事は、、ナスカって呼んでね。よろしく。あなた、名前は?」
「僕は、サラ。ニブル達と旅をしてるんだ」
サラは、ナスカと握手を交わすとそう答えた。
サラは、何処まで話をすればいいのか迷って居た。
たがニブルの知合いと言う事でとりあえずニブルと一緒に旅をしている事をナスカに告げた。ナスカは、気さくで話しやすい印象をサラは、受け取っていた。時おり思い出したように昔話をするナスカがとても楽しそうで好感が持てたのだ。
「なあ、ナスカ・・・あの後どうしたんだ?」
突然ニブルが切り出した様に暗い声で言った。
「えっ?・・・あっ・・・デュアルの事?」
ナスカは、少し驚いた様子で言うと思い出したように表情を曇らせた。
「ああ、あの後別れただろ? それから、直ぐにあんな事になってよぉ・・・ちょっとな心配してたんだ」
「そう・・・あの後デュアルと一緒にお父様に会いに行ったわ。お姉様にも遭えた。それから、しばらくして、デュアルは、忽然と姿を消してしまった・・・」
少し寂しそうに語るナスカの姿を見て、サラは会話の中で登場した「デュアル」なる人物は、彼女にとってきっと大切な人なんだろうと思った。
「そうか・・・・行方不明なんだな?」
「ええ、探したわ。色んな場所をね。あのまま死んでしまうような人じゃないもの! きっと、何処かで生きる気がするの」
「まあ、ナスカちゃんがそう言うなら、きっとそうだ! 奴は、生きてるよ」
ニブルは、ナスカを励ますように背中を叩くと大げさに笑って見せた。
トントン
っと再び部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。今度は、サラの予想通りにエルが戻って来たのだ。
「エル!? 話は、終わったの?」
「ええ・・・・」
部屋に入ってきたばかりのエルにサラは、さっそく聞いてみた。エルは、少し気の無い返事を返し、何処か疲れてる様子だった。そんなエルの姿を見ていたナス
カが彼女の方をじっと見て、みるみる顔色を変えていった。
サラは、突然何が起こったのかと思った。
あっと言うまにナスカは、エルの元に駆け寄って彼女の両肩を掴んだ。
そして・・・。
「エリス!!」
っと叫んだのだ。
サラは、自分が聞き間違えたのかと思った。エルの事をエリスと叫んだナスカは、エルの事を知ってるのだろうか?そんなはずは、ないとサラは、思う。あの時、サラが最初にエルを目覚めさせたのだから。
「貴方は、・・・・ダ・レ?」
「えっ?」
エルの問いにナスカは、我に返ったように掴んでいたエルの両肩から手を離した。
「そうか、そうだよね。・・・・ごめんね、知り合いに良く似てたものだから・・・ほんとにごめんね・・・」
ナスカは、少し落ち着いた様子をみせてそうエルに誤った。
「おい!? ナスカ? いったいどうしたんだ?」
「あっ、なんでもない。ちょっと、人間違いしちゃった・・・」
ナスカは、ニブルの方を振り向いて舌をだす。
そんなナスカを見てニブルは、あきれた様子で笑た。
「始めまして。私は、ナスカって言うの。ニブルとは、ちょっとした知り合いでね。挨拶にきたのよ」
「私の事は、エルと呼んでください。貴方は、さっき私をエリスと呼びましたね?」
「えっ?・・人違い。とても良く似てる・・・。でも、落ち着いて見れば・・・やっぱりエリスじゃない。貴方とは、やっぱり違うわ」
そういったナスカの言葉にエルは、何か釈然としないものを感じたのか、考え込む様子でほんの僅かであるが両目を閉じた。再び開いたエルの両目は、ナスカの
顔を貫くような視線を放っていた。
「私に良く似ていると言うエリスと呼ばれる人物の事を話して頂けませんか?」
エルの強烈な視線と意思を感じたのか、ナスカは、思わず「うっ!」っと唸ってしまった。
「どうして? そんな事が気になるの?」
「ええ、もしかしたら、その人物は、私のオリジナル体かもしれません。とても、興味があるのです」
自分の問いに淡々と答えるエルに驚きながらもナスカは、ある単語に意識が廻るように頭の中にある情報を思い出していた。
「オリジナル体? もしかして・・エル? 貴方は?」
「はい、ご想像のとおり私は、古代人です。それも作られた古代人なのです」
エルのその言葉は、ナスカをある想像に駆り立てる重要なキーワードになっていた。
そしてそのキーワードから導きられる答えを今いってしおうかとナスカは、悩んだ。
サラは、エルとナスカの会話について行けなかった。知らない単語が飛び交い、どちらも何かを知っている様子がサラを不安にさせる。ニブルは、そんな二人
の会話をじっと聞き耳を立ててる様子だった。
「って、言われてもね。エリスの事は、何度か会った事があるだけで・・・・。本当の所あまりよく知らないの」
「ですが、どんな人物だったぐらいは・・・・」
「貴方・・・作られたって言ったわよね?」
「はい、おそらくは・・」
「これは、あくまで私の想像でしかないし、真実ではないのかもしれないけど。貴方がもしエリスの再生体と言うのなら、やはりヒルダに作られたか
もしれないわね」
「おい! ちょっと待てよ! ヒルダって名前・・・知っているぜ。たしか、皇帝ラーを裏切った初めての古代人だろ?」
静かにナスカとエルの会話を聞いていたニブルが突然割り込むように声を上げた。
「そう、ヒルダは、レジスタンスの間では、結構有名よね」
「ヒルダ・・・ナスカさんの言う通り・・・私は、ヒルダに作られたのかも・・しれませんね」
エルがそう言うとナスカは、少し思案した様子でサラの方に目を向けた。
「ねえ、君は、古代人の事をどこまで知っている?」
「えっ? 僕?・・・古代の文明の生き残りとしか・・・」
サラは、突然話題をふられて焦ったように答えた。
「一般人では、古代人については、そんな認識しかないのが普通だよね。レジスタンスでも、とても戦闘能力の高い種族としか理解していない。実の所、古代人
については、私達は・・・何も解っていないの」
「それじゃ!」
「でもね、私は、古代人について色々調べたの。倒すべき相手が古代人なら、知って損は無いでしょ?」
「ああ、でもよ・・・古代人の事なんて何の資料も・・・文献も・・・残ってないはずだ」
ニブルが少し不機嫌そうにそう言うとナスカは、ニッコリと微笑んだ。
「たしかにね。でも、調べていて少し解った事があるわ。古代人達は、皇帝ラーに逆らえないの! 例え・・・逆らったとしても・・・逆らえないような強制力
が働くらしいわ」
「えっ? でもヒルダって古代人は、皇帝ラーに逆らったんだよね?」
「そう! それが変なのよ! 逆らう事が出来ないはずなのにヒルダって言う古代人は、逆らってみせた」
ナスカは、得意げにそう言った。
「そうですか・・やはりそういう事ですね?」
エルは、やっと理解できたとばかりにため息を吐く。
「なっ・・・どう言う事だよ? 説明しろよ! ナスカ」
「わっかんないかな? つまり、エルも古代人なのに皇帝ラーに逆らう事ができる。ヒルダが皇帝ラーを倒す為にエルを作ったのなら・・・そんな強制なんてい
らないでしょ?」
ニブルが理解できない事に腹を立てているのを見てナスカは、呆れた様子で答えた。
「そうか、それなら・・・」
「エルは、ヒルダに作られた皇帝ラーを倒せる唯一の武器って事・・・」
「でもそれは・・・」
サラは、ナスカの言った言葉に反論したかった。しかし、上手く言葉がまとまらなくて詰まってしまったのだ。エルが作られたのだの、武器だのっとサラは、聞
いているうちに自分が苛立ちを覚えてるのを感じていた。それがまるで人の尊厳を無視したような言葉がエルに向けられているのが気に入らなかったのだ。
「これは、あくまで・・・私の仮説よ。ヒルダって古代人には、生命を弄ぶ力が有った。それは、よく・・・・知っているのよ」
ナスカは、最後にそう言ってこの話題を締め括った。