②変鬼
僕の名前は、美香義。殺し屋ギルド「ミキリアの家」所属の殺し屋だ。
けれど、僕は殺しをしない。するのは僕の相方。隣でミキリアの物騒な労いの言葉に無表情で頷く少女。
「仕事だから」
何の感情を込めずにそう言う少女の名前は、妃奈義。ツインテールに束ねた髪を揺らして近くのソファに座る。
10歳のこの幼すぎる少女は、しかし戦場では恐れられる立派な殺し屋である。使う武器から付けられた2つ名は「犯牙の殺し屋」。
ただの市販のハンガーに魔術を込め、鋭利な刃物にする。それがヒナの殺し方だ。
イメージしやすいのがハンガーだというだけで、ヒナはイメージさえできればどんな物でも刃物にすることができる。そんな特殊な魔術の使い手だ。
その力を使って、ミキリアに赤ん坊のときに拾われてからずっと殺し屋として生きてきた。
表の世界をしらない少女は、この国では別に珍しくもない。僕だってそうだ。
物心ついたときから、僕も殺し屋として生きてきた。幼いときの記憶などない。5歳あたりから10歳まで、僕はこの手で殺しをしてきた。
6歳のときに戦場でミキリアに拾われて4年間戦場で戦ったが、今はヒナのサポートに徹している。「犯牙の殺し屋」の頭脳担当だ。
そして、僕とヒナは仕事上のみの関係ではない。
ミキリアに拾われた者同士、ギルドの本部であるこの建物の2階に2人で暮らしている。殺し以外のことを母親役のミキリアから教わらなかったヒナの世話係として、まるで兄妹のような関係。
そういうわけで、最近ヒナは仕事のときの無表情を僕に対して少し崩してくれるようになってきて、実は少し嬉しかったりする。
僕はミキリアにいつも通り、黒い鞄を渡す。鞄の中に入っているのは、死体。
今回の仕事でできた死体1つの頭だ。僕がすぐに氷の初等魔術で凍らせたため、腐敗の進んでいない新鮮な頭。
鞄を開いてその頭と目があったミキリアは、とても嬉しそうに笑う。
「頭だ! ありがとう、美香義。私の好きな部位をよくわかってるね♪」
「ミキリアの家」で依頼をもらうためのたった1つの条件がこれ。ミキリアに死体を渡すこと。
ミキリアは死体が大好きなのだ。
しかも、好きなのは「観ること」ではなく「食べること」。大好物の死体を食べるためだけに、ミキリアはこのギルドを経営している。ただの変人、いや、人ではないんだった。
ただの変鬼だ。
ミキリアの、僕だけが知っている秘密。それは、ミキリアが吸血鬼だということ。
人間の血を吸うことによって生きるとされる絶滅種。そのたった1人の生き残りが彼女。血だけでなく丸ごとすべてを食べるため、吸血鬼から異端視され、生き残った変鬼。
一時期は無所属の殺し屋として活動していたようだが、人間の中で過ごすうちに「ギルドを作って、食べ物をみんなに持ってきてもらえば、楽なんじゃ……」と考えたミキリア。
結局、どこに行っても変な生き物だった。