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犯牙(ハンガー)の殺し屋  作者: 津田沼紗月
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プロローグ

 突如鳴り出したサイレンの音。

 この音は、この建物への侵入を許してしまったときに鳴るものだ。つまり、腕の立つ門番が倒されてしまったということ。

 この城の兵士は強い者ばかりで、このサイレンが鳴るのは5年ぶりである。

 久しぶりに走る緊張。戦うことに飢えた兵士たちは、我先にと、周囲を警戒しながら駆けていく。

 駆けていく兵士の頭の中に湧き上がる、これから戦う相手のこと。

 あるものは筋肉質の大男。またあるものは、小刀を持った身軽な小柄の男。またあるものは、魔術を巧みに操る妖艶な女性、などなど。

 各々頭に浮かぶ人物は違うが、1つ共通することは「強い」ということ。

 そんな想像をしていた兵士たちは、門の近くに立つ侵入者を見て絶句するだろう。

 和服を着た、年端もいかない少女がそこに立っているのだから。

 長い髪を2つに分け、鈴のついた紐で結んでいる。いわゆるツインテールという髪型。

 こちらを見つめる目は大きくくりくりとしている。瞳は虚ろで無表情なことを除けば、言葉を失うほどの美少女である。

 しかし、少女の足元に転がる大男、門番の血に染まった体を見つけ、兵士たちは身構える。

 見た目が10歳ぐらいの少女だったとしても、この子は長いことこの門を無傷で守って来た門番を倒した少女なのだから。

 と、兵士たちはまたも、少女を見て驚いた。

 少女が右手に持つものが、(真っ赤な血が付いてはいるが)ただのハンガーだったからだ。

 それを見つけた兵士たちの反応は、次は2つに分かれた。

 一方は、血の付いたハンガーを見て、ただただ困惑する者。もう一方は……、恐れ、恐怖の表情で固まる者だ。中には、情けなくも来た道を引き返す者もいる。

 前者の兵士は、後者の兵士の変貌ぶりに余計困惑する。

 しかし1人、勇気のある若者が1歩少女に近づいた。

 恐怖で固まる兵士が止めようとするも、若者は足を止めることをせず、ついには少女の目の前までやってきていた。

「貴様は何者だ!」

 若者が大声で少女に聞いた。

 しかし、少女は虚ろな瞳で彼を一瞥しただけだった。そのあと、持っているハンガーを左手に持ち替える。突然の少女の意味不明な行動に、若者は一瞬気を取られてしまっていた。

 それが致命傷だった。ここは戦場ということを忘れていた彼の落ち度。

 次の瞬間、若者は自身の身体を見つめていた。

 首の上には頭が乗っていない、自分の身体だった。

 赤く染まる世界。その中心で、少女は無表情に無感情に、ハンガーに付いた血を払っている。

 自分たちの同僚が死ぬ瞬間を、後ろでただ見つめることしかできなかった兵士たち。虚ろな瞳でその兵士たちを見つめる少女。

犯牙(ハンガー)の殺し屋……」

 恐れで腰を抜かした兵士がそう小さく呟いた言葉は、幾重にも連なった悲鳴によってかき消されたのだった。

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