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第八話「間違った覚悟」


「……なあ、お前ってもしかしなくても実は結構凄い女の子なんだろ。何アレ? 何をどうやったらあんな火の海になるの?」


 街へと戻った俺は半ば呆れながら、レイにそう尋ねていた。


「ふふ~。でも良かったじゃないですか。無事、正式に冒険者になる事ができて~」

 

 相変わらずのニコニコ顔で、クレイがクエストの報酬金を手渡しながら俺に言ってきた。

 一度は阿鼻叫喚の地獄絵図になったものだが、クレイの言う通りでもある。

 時間は掛かったが、俺達はやっと冒険者になる事ができたのだ。

 

「……ふふん、これはおとり役になった私のおかげですね。皆さん、私に感謝してくださいね? 清く美しい女神様がおとりなんて役をやってあげたんですからね?」


 ふふんと胸を張りながら、イーリアがそんな事を言ってくる。


「……うん? 女神というのは、イーリアの事か?」


「ああ、気にしなくていいよ。コイツは厄災を呼んでしまうドジっ娘とでも思っておけばいい」


 ドジっ娘と言われたイーリアが掴み掛かってくるが、コイツもコイツでそれなりに活躍していたと思う。

 

「グハハハハハ! アンタら、聞いたぜ。正式に冒険者になったんだってな!」


「どうだ? 一緒に飲まねえか?」


 その声に振り返ると、大勢の冒険者達が俺達を歓迎してくれていた。

 外はもう暗くなり始めている。一度この街の冒険者達とゆっくり話してみたいと思っていたし、丁度いい機会かもしれない。未成年なので酒は飲めないと思うが。


 俺はそんな事を考えている間にも無理矢理男冒険者達に連行され、乾杯の合図を告げられた。


                ■

 

 宿へと戻った俺は、一人部屋である作戦を考えていた。

 今日俺は、スキルというとっても便利な戦術を覚えた。しかしこれは戦闘面だけじゃなく、色々な場面で活用する事が出来ると思うのだ。

 そう、例えば己の私利私欲なんかにも。

 

 今の時刻は七時半。

 丁度風呂が開く時間帯である。

 もう風呂というキーワードを出した時点で分かると思うが、覗きだ。


 いや、なんだかんだ俺も二人の二次元美少女と仲良くやってるワケですよ。

 我慢できるワケないじゃん。

 こんな美少女だらけの世界にやって来て、二次オタの俺が我慢できるワケないじゃん。


 俺は部屋から出ると、煩悩会議を頭の中で急遽開始した。

 イーリアとレイは、先程女冒険者達に少量ではあるが酒を飲まされてしまったというので、思考能力の低下が予想できる。

 という事は、ある程度の無茶をしても気付かれたりはしない筈だ。


 ちなみに、イーリアとレイ以外に客はかなり少ないと思う。理由は先程の乾杯で昏睡状態の女冒険者達が多いからだ。


 流石に俺も、威風堂々と女子風呂に入る様な馬鹿な真似はしない。

 普通に紳士な男性冒険者を装って、俺は男湯へと入った。


 ―――ここからが問題だ。


 今現在、風呂が開いたばかりという事もあり、男の客は俺だけ。

 外風呂は男湯と女湯で岩の分厚い壁で仕切られていて、中々に頑丈なバリケードとなっている。

 だが、甘いな。

 そんなもの、俺に通用するとでも思ったか?

 

「……『ロック・リフト』」


 小声で解錠スキルを唱え、俺は水中にある排水口の鍵を開けた。

 排水口は何故かかなりの大きさがあり、人一人が余裕で通れるほどの広さとなっている。これは昨日の入浴時に予習した。


「『ブルーネス・クリア』」


 さらに俺は侵入用のスキルを発動させた。

 これは相手に触れられたり攻撃されない限り、一時的に自身の身体を透明化させるスキル。

 俺は排水口の中がそこまで汚れていないのを確認すると、息を思いっきり吸ってゆっくりと慎重に入っていく。

 そう、壁なんてハッキリ言って意味ないのだ。俺みたいな奴がいるから。


 よく俺みたいに覗きをするライトノベルの主人公がいる。

 だがどいつもこいつも皆、結局何かしらやらかして女の子達から口を利いてもらえなくなったり桶を投げられたりするのだ。

 女湯に入った、または入浴中の女子を見たという時点で、それは等しく罪なのだから。

 だが、こんな言葉も俺は聞いた事がある。


 ―――「バレなきゃ犯罪じゃない」と。


 俺は何かしらやらかすラノベ主人公と同じ轍は踏まない。

 そんな誓いと共に、俺はついに女湯の方へと入った。

 ゆっくりと排水口のフタを開け、水中から顔を出す。

 大丈夫、今の俺にはバレる要素が何一つないのだ。

 何せ透明なんだし。


 俺は覚悟を決めると、深呼吸しながらゆっくりと目を開けた―――!



 

 

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