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第五話「習得」

 

 翌朝。

 俺は宿の外にて体を伸ばしながら、どうしたものかと一人思い悩んでいた。

 昨日はたまたまブラックファングの尻尾を切り取れたからいいが、このままではいずれ宿に泊まる金も尽きる。

 異世界生活を送るには、やはりある程度の戦闘能力を持つ必要があるのだ。

 というかまだ俺達、冒険者にすらなってないし。


 イーリアはまず魔法使い職に就いたクセに魔法使えないし、レイは本番にビビるという弱点がある。

 レイに無理矢理やらせようとも考えたが、いつまでも女の子に頼りっぱなしでは男としての矜持が傷つく。

 俺も一応魔法剣士の職に就いたんだし、機転の利くカッコいいハーレム男にならないと。

 

 ……よし、決めた。



「―――今から各自、自由行動な。それぞれ自分の弱点を少しでも改善できる様に頑張ってくる事。三時間ぐらい経ったらまた宿に集合な」


 俺は二人を集めると、そう宣言した。


「れ、蓮さん……? それ、私もですか……?」


「むしろお前が一番改善する必要があるだろ。お前にはある程度金渡しとくから、魔法使いっぽい服装になってきたらどうだ。いつまでもそのヒラヒラの羽衣で戦うワケにもいかんだろ」


「レ、レン……。単独行動じゃなきゃダメなのか?」


「この方が何するにしても効率いいだろ。……あ、でも俺がいないと二人共寂しがるか……?」


「それはない」


「おおぅ……端的なのに辛辣ぅ……」


 俺は若干凹みながら、ある事に気付く。


「レイの本番に弱い部分は、改善しようがないか……? どうする、もし単独が嫌だったら俺と一緒でもいいけど」


「い、いや、大丈夫です! 私だって、独りで行動できま……あ」


 ハッと慌てて口を噤むレイに、俺は苦笑しながら。


「……その、昨日から思ってたんだが、無理に敬語は隠そうとしなくていいぞ? そっちの方がお前も楽じゃないのか?」


「……無理をするぐらいじゃないと、私は成長できないので……成長できないのだ。私は他の優秀な剣士達に、剣術を教えてもらおうかと思う。そっちはそっちで、しっかり頑張るのだぞ」


 そう言い残し、レイは走って冒険者ギルドの方へ向かって行ってしまった。

 俺はポツリと。


「……年頃の女の子ってやつかねえ」


「年中無休でギャルゲープレイしてた人に本物の女の子の心中が分かるんですか」

 

 ぐうの音も出ない。


                ■


 二人と別れた後、俺がまずは武器屋にでも向かおうかと人気の少ない場所を歩いていた時の事。


「おーい! キミキミーっ! ちょっといいかなー?」


 突然後ろから、朗らかな短髪美少女に話しかけられた。

 というかもうこの世界にいる女の子は誰でも可愛いので、普通に短髪少女と言っておこう。

 青の髪を靡かせ、ゆったりとした魔法使い用のローブに身を包んでいる。

 そんな少女が、一体俺に何の用だろう。


「クレイさんから聞いたよー? 君達、まだ冒険者になってないんだってね。私はファラ! 見ての通り一介の魔法使いだよ。クレイさんから相談を受けて君達にスキルを教えてあげに来たんだけど……アレ? もう一人の金髪の子は?」


「うわちゃあ……失敗したあ……」


 そういう事ならイーリアも連れてくれば良かった。

 というか何だよ、クレイの奴。普通に良い奴じゃねえか。

 いつまでもクエストがクリアできない俺達の事を気にかけてくれていたのだろう。

 俺が先程イーリアとは別れてしまったという事を伝えると、ファラは苦笑しながら言ってきた。


「まあ、私が教えるスキルといったら水属性のと無属性のやつだからね。光属性特化型のあの子には向いてないから、丁度いいや」


「……あの、俺芸者スキルに向いてるってクレイから言われたんですけど。その、他のスキルも勿論覚えられるんですよね?」


「うーん……まあ君のステータスクレイさんに確認させてもらったところ、スキルポイントはどの属性にもそこそこあったからね。大丈夫だと思うよ」


 マジかよ、という事は俺の絶望的な筋力ステータスも見られてしまったという事か。

 というか俺のステータスが記載された冒険者カード的な物はいつ貰えるのだろう。そうファラに聞いてみると、「討伐クエストをクリアして、正式に冒険者になったら貰えるよ」と教えてくれた。


「この世界の全ての人は、モンスターを倒す事でステータスが上がるからね。だから、その……筋力だって勿論つくから、頑張っていこう!」


「……はい」


 落ち込ませたいのか励ましたいのか。 

 なるほど、モンスターを倒す事でステータスが上がる……という事は、俺はまだ0地点に立っているワケだ。

 

「それじゃあ、まず最初に。キミはどんなスキルを覚えてみたい? 侵入用のスキルやバインドスキル、落とし穴を即座に創造できたりするスキルなんかもあるよ」


 なんだかどれも卑怯なスキルな気がするのだが。


「えっと……その前に。聞きたかったんですけど、魔法とスキルってどう違うんです? スキルにも属性があるみたいですけど……」


「うーん……単に威力の問題かなあ? 魔法は本格的な戦闘に使う事が多いけど、スキルは牽制に使ったりする事の方が多いね。さっきも言った通り、相手に状態異常効果を与えたい時とか。今なら1000ゼニーで、私おススメの魔法も教えちゃうよ?」


「お願いします」


 ちなみにゼニーというのはこの世界での金の単位だ。

 一円=一ゼニーだから、そこまで難しくもない。

 今の俺の所持金が10000ゼニー程。

 魔法を使える様になるとあれば、1000ゼニーぐらい安いもんだ。


 俺が料金を払うと、ファラは張り切った表情で俺に指導を始めた。


「じゃあ、まずは魔法の方からいこっか! まずは私のお手本を見ててね? 『ウォーター・フリーズ』ッ!」


「おおっ!」


 突如としてファラの右手から現れた水は、地にかかると見る見る内に氷結されていった。

 すごい、これはすごい。色々と便利そうだ。


「よし、バッチリ見たね? それじゃあ、私の体に触れてみて。今からキミの脳内に『青』の魔法のデータを流し込むから」


 ―――俺はファラの胸の辺りに迷う事なく手を置いた。

 何の躊躇もなくセクハラをできる俺は自分でも凄いと思う。


「……あの、何でそこを選ぶのかが分からないんだけど」


「気にすんな。これは男としての本能だ」


「気にするよこっちはっ!?」


 憤慨したファラに手の位置を無理矢理変えさせられたので、俺は仕方なく触る部分を肩で妥協してやる事にする。


「今からデータを送るよ。ちょっと頭痛が起きるかもしれないけど、そこらへんは我慢してね」


 そう言い終わると同時に、俺の身体全身にビリビリっと何かが伝わってくるのが感じられた。

 頭痛はするが、不思議と気持ちいい。何コレ、クセになっちゃう。

 

「……はい、終了……ってどしたの? ……あの、聞いてる? おーい……大丈夫?」


 あまりの気持ちよさに俺が顔を綻ばせていると、俺から手を離したファラが若干引いていた。

 いや、マジで気持ちよかったんですって。


「じゃあ、あとはキミの才能次第だね。コツとしては、頭の中に魔法が成功した後のイメージを思い浮かべる事。さっき私のお手本は見たでしょ? あれを思い浮かべて、あとは利き腕に意識を集中させればいいよ」


「よし、承知した。やっぱり魔法使う時って魔力を使う感じ?」


「そりゃあ勿論。魔法にもスキルにも魔力を使うんだよ」


「あれ? じゃあスキルポイントは?」


「スキルポイントは、スキルを覚える時に使うんだ。魔力は休憩をとったら回復するけど、スキルポイントはモンスターを倒したら溜まっていく。レベルと一緒だよ」


「なるほどなるほど」


 ゲームの流れでもよくあるやつか。倒せば倒す程強くなれる、まあつまりは経験値だ。

 納得しながら、俺は右腕を前へと突き出す。

 …………。


「……あれ、俺魔法の詠唱分かんないんだけど。『ウォーター・フリーズ』?」


 試しに言ってみるも、俺の右手から魔法が放たれる事はなかった。


「……あ、そっか。キミ、まだ魔法の詠唱の知識も浅いんだったね。魔法名を口に出していうのも必要だけど、それぞれ魔法の詠唱を頭で記憶する必要があるんだ。……というワケでキミにはこれを貸すよ」


 そう言ってファラは、ずっしりと重たい魔法の詠唱本らしき物を手渡してきた。

 表紙に書かれている文字は異世界語だが、イーリアの魔法のおかげでハッキリと解読する事ができる。


「……え、これ俺全部読むの?」


「いやいや、何も全部とは言わないよ。私はキミに初級から中級までの水魔法のデータを送ったから、そこの部分の詠唱だけ覚えてくれればいい」


 パラパラと俺はページをめくり、先程の「ウォーター・フリーズ」とやらの詠唱の文章に目を通してみる。


「海底から浮かび上がりし泡沫は、時に大気を揺るがす力を持つ。炎と水、相反するこの二つの属性が相打った時、水の神リヴァイアサンは大いなる力を覚醒させるだろう……。うわあ、思いっきり中二病じゃねえか」


「キ、キミ……。分からないでもないけど、流石に先人のお偉いさんたちが生み出した詠唱に中二病って言っちゃダメだよ……」


 なんかやたらと長くて覚えづらいっていうのが俺の本音である。

 まあでも、それと同時にゲーマーとしての心をくすぐられたというのも確かだ。


「よし、それじゃあ次はスキルだね! 色んな小技をどんどん教えちゃうぞー!」


「『ウォーター・フリーズ』ッ!!」


 ―――俺は試しに、ファラの足下を凍らせてみた。


「へっ? キミまさか、もう覚えて……うわああああ!?」


「……魔法って楽しいな」


 女の子に悪戯する時に使うという、新たな用途を俺は考え出した。

 


 

 

 

 

 



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