第二話「クエスト」
ギルドに入ると、意外にも人は少なかった。
なんでもクエストの依頼書は外に貼り出されるとの事なので、これからクエストに行くという人はギルド内部にはいないらしい。
中は飲食店となっていて、ちらほらと会話を楽しむ女性冒険者達がいる。
その横にはボードの様な物が置かれていて、「パーティーメンバー募集」と書かれた紙がでかでかと貼られていた。
「あなた達も、冒険者の資格を無事取ったら、パーティーに入ると良いでしょうね~。自分達から入るっていうのもありですけど~」
ボードを見る俺の様子を見かねたのか、クレイが書類的な物にせっせと筆を走らせながら言った。
パーティーか……だったら女の子が多いところが良いなあ。
俺はボードの横にいる女の子達に視線を戻す。
「本当に現実から抜け出してきたんだなあ、俺……」
目の奥からジワリと熱いものがこみ上げてくるのを感じる。どんだけ現実嫌いだったんだよ俺。
涙目で女の子達を眺めていると、後ろにいたイーリアにバシッと頭を引っ叩かれた。
「痛って!? いや、別によくね?」
「いや、蓮さんの場合涙目だから余計に変人に見えるんですよ。談笑する女の子達を涙目で眺める変態の称号をつけられる事になります」
「……それは確かに」
俺は女の子達から冷たい視線を向けられていた。
ドMじゃないけど、なんだか今はそんな罵られる感じも悪くない。
気分が高揚しているからだろうか。
「それでは、まずお二人の身長、体重、その他瞬発力や筋力などの数値を計らせてもらいます~。準備ができましたので、こちらの水晶玉の方に触れる様お願いします~」
「おっ、なんかそれっぽいのがでてきたな」
俺はクレイが差し出してきた水晶玉に、迷う事なく右手を触れさせる。
これはアレだ、俺の隠された潜在能力がこの水晶玉の力により発覚して、先程の女の子達をキャーキャー言わせちゃうやつだ。
そんな期待に胸を躍らせていると、やがて計りおわったのか、クレイがふむふむと頷きながら言う。
「ふむふむ~。ハヅキ・レンさん、体重58キロ、身長169センチ、筋力が……21。瞬発力40、反射能力43……え~っと、まあ平均的といえば平均的という事で……あれれ? 『芸者』に必要なスキルポイントの数値が非常に高いですね~?」
筋力21とかいう致命的な数値が聞こえたのはともかく、芸者スキルポイントって何だろう。
俺が聞くと、クレイは得意げな表情を見せて説明してくる。
「『芸者』スキルは、相手を笑わせたり、時にとてつもない幸運を発揮したり……まあ、いわゆる遊び人ってやつですね~。このスキルを覚えるためのポイントをあなたは何故かとっても多く持っているので……商人なんかとして生きていくのをおススメしますけど~……」
「…………いや、冒険者でいいです」
冒険者人生を否定された。
芸者スキルって何だよ、魔法感皆無じゃねえか。
隣では、イーリアが俺のステータスの数値を聞いて今にも笑い転げそうになっている。
アイツは後で折檻しておくとしよう。
と、俺が女性冒険者達はおろかギルドの職員からも、クスクスと笑われていると。
「えええええええええええっ!? ちょっと待ってください~!! イーリア・テレシャスさん、あなた魔力と『剣士』スキルに必要なポイント以外、全てのステータスが平均を大きく上回ってますよ~!? 特に光属性に特化したスキルのポイントの数値が尋常じゃないんですけど……あなた、一体何者です!?」
何やら興奮した面持ちのクレイが、イーリアを問いただしていた。
アイツテレシャスなんて名前持ってたのか。
「え? ひょっとして私、結構凄い感じの人になってます!?」
「凄いです、凄いを超えて神様レベルです~!」
「いやあ、私ぐらいの神々しさを放つ女神ならそれもそのハズですもんね!」
そう言ってイーリアが、俺をチラチラと横目で見てくる。
アイツ引っ叩いてやりたい。
「それでお二人共、職業は如何されますか~? それぞれ能力に見合った職業を選ぶのが基本ですよ~」
クレイがそう言って、職業が記載されているパンフレットを見せてくる。
「蓮さんは当然芸者ですよね?」
「うるせえ。じゃあ俺は……『魔法剣士』でお願いします」
魔法と剣を状況に応じて使いこなす、お手軽な職業だ。
魔法も使ってみたいし剣も使ってみたい。そんな我がままを叶えてくれる素晴らしい職業でもある。
「了解しました~、魔法剣士ですね。イーリアさんはどうされますか~?」
「私は勿論魔法使いですね! 回復魔法と光属性の魔法をたくさん使っちゃいますよ!」
「了解です~。それではお二人には、今からモンスターの討伐クエストを請けてもらいますね~」
クレイは一通り書類に俺達の情報を書く作業をした後、そう言って笑いかけてきた。
どうやら簡単な手続きだけではそれぞれの職業に就く事はできないらしい。
だが、上等だ。
ゲームで培ってきた知識が俺にはある。ある程度ドラゴンの習性や動きについては把握しているのだ。
いくらステータスが低くても、そこらの雑魚モンスターに後れをとる事はないだろう。
「簡単なクエストでもいいので、討伐系のものならなんでもOKです~。正式に冒険者として認められるには、まずはモンスターを倒せる様になってからですよ~。あ、そこに貸し出し用の武器がありますから、自由に取って持って行って構いませんからね~」
「ありがとうございます。……よし、俺はまず片手剣からだな。盾は……重そうだけど一応持って行くか。イーリア、お前は?」
「私は武器なんて必要ないんです。なんたって神様ですから」
さっき褒められた事により完全に調子に乗ってるイーリアが、そう言ってふふんと鼻を鳴らした。
……なーんか、嫌な予感するんだよなあ……。
■
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!? イーリア、防御! おま、はよ防御魔法的なアレを!」
「私も魔法の詠唱なんて普段しないからよく分かりませんよお! えーっとえーっと……『ライト・トラジェr』」
「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「イーリアあああああああああああああああ!!」
―――俺は自信満々のイーリアに期待する事にして、少し難しめのクエストを選んでみた。
だがそれは間違いだった。
この女神、ハッキリ言って全然戦力にならないのだ。
「きゃあああああああああああっ!?」
そこで暴れ続け炎を吐き続けるドラゴン―――スカ―レッドドラゴンがイーリアにもたれかかる。
次の瞬間、女神はあっけなくスカ―レッドファイアの腹に潰された。
多分ぷにぷにの腹の部分だったから大丈夫だったと思うけど。
……って……。
「イーリアあああ!! おま、おま……自信満々だったクセに、あっさりやられてんじゃねええええええええ!!」
当然、スカ―レッドドラゴンの狙いは俺へと移る。かつてない程の全力疾走で、俺はある一つの答えを結論付けた。
―――いくら二次元の女の子で可愛くても、中身はちゃんと見るべきだ、と。




