第二十話「謎の包帯男」
「―――さて、無事森に到着したところで。シャーラ、こっから先の道は分かるか?」
「なんとなくお宝の存在的なものは感知できるから大丈夫だよ。……にしても、レン、大丈夫? 道中でモンスターにやられたみたいだけど……」
「気にすんな。これは竜車を守るために負った名誉の傷だ」
と言ってもボロボロなのも現状で、名誉とかどうとか言ってる場合じゃない程の大怪我である。いやあ、正にモンスターとの死闘だった。運転手さんを守るのに満身創痍で戦うハメになるとは。
俺はイーリアに回復魔法を掛けてもらいながら、寝ぼけ眼の双眸を擦る。
「んじゃ、その感知能力的なやつを頼りに進むかあ……んん?」
「どうしたんですか?」
「い、いや……俺達って、そういえばなんで邪神の居場所が書いてある地図なんか探してるんだっけ……ってああ! そうか、あの手紙か、なるほど。いやでも、叶えて欲しい事なんか別にないんだよな……」
「え? 一生遊んで暮らせる程のお金が欲しい、じゃないんですか?」
「いや、別にこの世界で遊びたいワケじゃないんだよ、俺。だってゲームも何もない世界なワケだし。そう考えてみると、何でここに来たのかなーっていう今更感が凄いっていうか……もういいや、いっぱい女の子を惚れさせて日替わりで彼女になってもらうっていう願いにしよ」
「させませんよそんな最低な願い事」
そんな他愛もない会話をしてる傍から、ガサガサと茂みの中からモンスターが現れ始める。
……この世界には休日がないのだろうか。
■
シャーラの感知能力を頼りに、俺達が進んで行くと。
徐々に森が開け、やがて現れたのは―――。
「……何これ」
そこには朽ち果てた巨大な神殿があった。
異世界語で「立ち入り禁止」と書かれた看板が、デカデカと神殿のすぐ傍に立てかけられている。なんかいかにも胡散臭い。
……これはもはや神殿じゃないな。廃墟だ。
中央には神でも祀るのか、祭壇的なものがある。
そしてその祭壇の奥に祀られていたものは―――。
―――大量の萌え漫画だった。
「……」
「……」
「……」
「…………これは、反応に困るな」
固まったまま動こうとしない三人に苦笑しながら、俺はその萌え漫画を手に取る。
ふむ、見た感じ女子高校生のゆるふわ日常的コミックな様だが……何故こんな物がここに?
俺はパラパラとページをめくりながら、久々に見る漫画に懐かしさを覚える。
というか、この漫画に書かれている文字は異世界語じゃない。紛れもない日本語だ。
うーん……誰かが日本から持ち込んだのかな。
「……レ、レン。もうそれはいいから、早く神殿に入ろう。何か手がかりがあるかもしれないぞ」
「ちょっと待って、今いいとこだから。ショートヘア―の光ちゃんがツインテールの楓ちゃんに勝負を挑むっていういかにも男性読者の立場としては和む展開で……よし気に入った、これ持って帰ろ」
「そ、それ、持って帰っていいやつなの……?」
「いいだろ別に、こんなもん祀るっていうのもおかしいし」
俺は前日に用意しておいたリュックに漫画を一気に詰め込むと、神殿へと恐る恐る足を踏み入れる。
というか先程確認したのだが、この神殿の周囲の木々全てが朽ち果てているのだ。看板もあったし、少なくとも誰かがいたと考えるのが妥当だろう。
「うわあ……なんかすっげえ汚いんだけど。臭いしマジで……何なのここ? というか、こんなとこにホントに地図なんかあんの?」
「た、多分……。感知の反応はここからだし、もっと奥にある筈……!」
「むぅ……足場が悪いな……」
互いに文句を言い合いながら歩いていると、とうとう神殿の奥へとたどり着いてしまった。
しかしそこには何もなく、ただただ薄汚い壁が広がっているだけ。
「クソ……! おい、誰かいねーのか! こんな腐りかけ神殿作った野郎はどこのどいつだおい!」
なんだかここまで頑張って来たのに何もないという事に腹が立ち、俺はどうにもならない怒りを罵声へと変えて発散した。
その後も俺はしきりに叫び続け、辺りに何かないかと見回し始める。反応や無し。
「うーん……ここじゃなかったのかな? 私の感知能力にも狂いがあるのかも……」
「……まあいいや、俺は色々叫んでスッキリした。こんな臭いとこに長居もしたくねえし、帰るか」
とうとう諦め、俺達が踵を返そうとした時―――。
「……まったく、うちの神殿で騒ぐのはやめてもらえませんかねえ」
体の至る所に包帯を巻いた変な臭いのする男が、俺達の前で不機嫌そうに佇んでいた。




