第十九話「冒険開始前」
リュウと友好の握手を交わし、いつかまた会おうと別れた後。
その翌朝、俺は布団にくるまったまま、傍に立っているシャーラにポツリと言った。
「……なんかもうめんどくさいし、午後からでもいいんじゃね?」
「レン、だらしないよ。ほら、起きなさいー!」
「ちょ、ばっ……馬鹿お前、今布団剥がされたら非常に寒いんだって! お前、人間に対しての慈悲が欠如してるぞ。この時期この世界では冬らしいじゃねーか、いいじゃんちょっとぐらいまどろみを堪能しても!」
「エルフの私にそんな事言われても。今日から遺跡に行くんでしょ? 大体、一番最初に言い出したのはレンだよ?」
「…………なんかもうめんどくさいし、午後からでもいいんじゃね」
「あっ! ついには疑問形でもなくなった!」
布団にくるまりそっぽを向く俺に、バンと部屋の扉を破り乱入して来たレイが言った。
「レン! 朝だぞ、いい加減起きないとだめだ。邪神の居場所を突き止めるべく、地図を探しに行くのだろう?」
「……昨日との差が激しいな。そして湧き上がってくる悲哀感」
レイのご主人様敬語がなくなりさらにテンションが下がった俺は、とうとう頭も隠し完全な防御態勢に入った。
というか、寝起きの謎に湧き上がってくるこの苛立ち感は異常だ。
このまま起きたら仲間達を不快にさせてしまう恐れがあるので、俺は二度寝を試みているだけ。
そう、全ては仲間達の事を思ってやってあげているのだ。
俺ってば、なんと優しい人間なのだろう。
「今の時刻が八時半だから……三時半ぐらいになったら起こして。二度寝するには七時間ぐらいが俺には丁度いいんだ」
「さ、さっき午後からって言ったくせに……いい加減起きないと、イーリアを連れてくるよ!」
「……あの厄災を施すやかましい女神なら、昨日の肝試しのショックが酷いから、多分俺と同じ様に寝込んでると思うぞ。それに仮に来たとしても、闇属性の拘束スキルを放ってその辺に転がしておけばいい話だ」
「レン、スキルや魔法は本来人に放つものではないのだぞ! シャーラ、協力してレンを引き剥がそう!」
こういう時だけ無駄に協力し始める二人に、とうとう俺の堪忍袋の緒が切れる。
「うっせー! 俺はとにかく寝たいんだよ! ここは二次元世界なんだ、あのクソ三次元世界とは違うから学校なんてもんもないんだろ! だったら朝早く起きなくていいじゃん、俺達冒険者なんだし!!」
「何言ってるのかよく分からないが、学校はこの世界にもあるぞ……? 冒険者になった場合、学校に行くのは義務ではなくなるが……」
「義務じゃないならあんな魔の地に行く奴なんかいねーだろ! 行く奴は頭がおかしい、勉強以前の問題だな! ……うん? でも待て、学校か……二次元美少女が沢山いる学校なら、俺も通ってみてもいいかもな……。でもまあ今はとにかく怠いし、俺に襲われたくなかったらこれ以上狼藉を働くのはやめろ。じゃあおやすみ」
とうとう駄目人間の罵倒を放ち始めた俺を見て、二人は数秒程顔を見合わせた後。
「……『リーフ・バインド』」
シャーラが木属性の割と強力な魔法を放ち、俺を布団ごとツタで拘束してきた。
布団ごと拘束されてしまったので、俺は体全体が隠れてしまって姿が見えなくなっている状態である。当然外の様子も確認できない。
「おいおい、どういうつもりだ? ……なんだシャーラ、なんで俺の体にどんどん布団を積み重ねていくんだ?」
「こうすれば、ゴミ収集の人にもレンの存在がバレる事なくに粗大ゴミに出せるかなって」
「……」
……えっ?
「おい待て、どういう事だ? 今俺が最も懸念しているのが、粗大ゴミとかどうとか聞こえたという事だ。……なに? なんなの? お前ら、早起きに固執しすぎでしょ。ねえ、粗大ゴミってマジで何?」
「レイがさっき、宿の受付の人に交渉しに行ったよ? 料金払うので、ベッドを粗大ゴミに出しても良いですかって。……あ、窓からレイがOKサイン出してるし、多分大丈夫だったんじゃない? まあ、実際のベッドの値段より少し多めに払うし、受付さんもOKしてくれたのかな」
「……冗談だろ? 大体宿のベッドを粗大ゴミに出すっていう事自体、受付さんは疑問に思って仕方ないだろうし……」
「自分達の利益になるんだったら、商売人は相手側の意図を深く追求しない事が多いよ? ……あ、レイが電話借りてるし、もうちょっとでゴミ収集車来るから、ちょっと待っててね」
「……!?」
俺は勢いよく体を起こ―――
……す事はできなかった。
「……っおい! クソ、これマジかっ……! おいシャーラ、俺が悪かったからはよ出せ! なあ、冗談だろ!?」
ツタで拘束されてるせいで、もはや脱出は不可能。
待って、ほんと待って。このままゴミ収集所で燃え尽くされるとかマジ勘弁。異世界にもゴミ収集所的な所があるのかどうかは知らんが。
「『プチ・ファイア』! 『プチ・ファイア』! 『プチ・ファイア』! ……おわあああああ燃えるううううう!?」
やむをえないので炎のスキルでツタを燃やそうと思ったが、俺の体にまで火がついてしまった。
命懸けで何とか脱出した俺が、息を荒げながら前を見ると―――。
目の前で、シャーラとレイが笑い転げていた。
「…………」
……なるほど、把握。
……全て、シャーラの一方的な脅しだったワケだ。
つまりは全部嘘の話。
「『ウォーター・フリーズ』」
俺は仕返しとばかりに二人を氷で拘束させると、気持ちの良い気分で部屋を出た。




