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第一話「冒険者ギルド」

 

 ―――目を覚ますと、俺は人通りの多い街に佇んでいた。


 群青の青空の下、俺の横を平然と横切っていくレッサードラゴン。

 背中に大剣を携え、目の下に傷がある厳つい顔をした大男たち。

 

「RPGだ……!」


 そう、これこそまさに、俺が夢に思い描いていた二次元の世界だった。

 二次元が三次元になった、とでも言った方が良いのだろうか。

 それはともかく、「自分が幸せに生きる事の出来る世界」に来れた事に、喜びと驚きを隠せない。


「ひゃっはああああああああああああああああああああ!!」


「うるさいですよ蓮さん」


「ッ!?」


 俺があまりの喜びに未曾有の大発狂を開始させていると、聞き覚えのある制止の声が聞こえた。


「あんまり目立つような真似はしないでください。私もゲームの世界なんて、来るの初めてなんですから」


 俺の背後には、二次元美少女―――否、三次元美少女イーリアが、キョロキョロと辺りを見回しながら立っていた。


「……何? お前も来た事ないの、この世界?」


「二次元と一言で言われてしまっても、色んな世界がありますから。魔法学園の世界だとか、普通の日本みたいに平凡な生活を送れる世界とか。……まあ、蓮さんはゲーム好きそうですし、この世界にしておきましたけど」


「そうかそうか、それはどうもありがとう。さて」


 俺はそこで一旦言葉を区切ると、両手をワキワキさせてイーリアに詰め寄る。


「……体を触らせてくれ」


「嫌です」


 ……ま、そりゃそうだわな。

 いきなり体触らせろとか言う奴の方が頭おかしいと思う。

 でも、それを完璧に自覚した上で、俺はイーリアにお願いしているのだ。


「お願いします、マジで! 折角二次元が三次元になったのに触っちゃダメってそりゃねえだろ!? 俺だって思春期の男の子なんだ、ワンタッチぐらい別に良くね!?」


「何一人で勝手にキレてるんですか! 嫌ですよ、私の体は男性の性欲を満たすためにあるんじゃないんです」


「ワンタッチでもダメ?」


「そのワンタッチが命取りになるんですよ」


「…………」


 驚く程の正論に、俺は何も返せなくなる。

 かといって街中の女性の体をさりげなく触ったりしたらそれこそ犯罪者だ。


「……もう」


 俺がテンションダダ下げ状態で落ち込んでいると、ふと右手にひんやりとした感触が伝わってきた。

 するとそこには、呆れた様な顔で俺の右手を握るイーリアの姿が。


「行きますよ、蓮さん。えっと……まずは冒険者ギルドに行って冒険者の資格を取るんです。確か本にそう書いてあった気がします! そうしないとモンスター討伐も何も始まりませんよ」


「お、おう……!」

 

 二次元万歳。


              ■


「てかさ、お前この世界来ちゃっていいの?」

 

 俺はギルドへの道のりを歩きながら、そうイーリアに尋ねてみた。

 コイツは話を聞く限り、女神的な存在だったと思うのだが。


「いいんです。人間のナビゲートをするのも私の役目ですから。蓮さんがある程度力をつけて私のナビゲートも必要なくなったら、私は死後の世界の方へ戻らないといけませんけど……」


「ふーん……女神の仕事は誰がやんの?」


「私の部下に頼んで代わってもらいました。いい部下たちなので、今頃元気に仕事してる事だと思いますよ」


 コイツ部下なんて持ってたのか。

 でも女神のコイツも上のお偉いさんがどうのとか言ってたし、色々と上下関係があるのだろう。

 

 そんな事を考えながら歩いていると、段々とそれらしき建物が見えてきた。

 何やら入口付近にガタイのいい男達が集まり、クエスト依頼書的な物を手に取っている。

 

「今日はスネークコドラの討伐に行くぞ! ポーションの製作にソイツの尻尾が必要なんだ!」


「いいや、ガイアドラゴンの捕獲だ! 今は最も高値で買い取ってもらえる時期で……」


 そんな男達の会話を聞き取れる事に、俺は首を傾げる。


「なあ、イーリア。コイツらって異世界語で話してるんだよな? 何で俺聞き取れるの?」


「そんなの魔法の力に決まってるじゃないですか。私が蓮さんをこの世界に送る前に、魔法放ちましたよね? アレの力です」


「ああ、お前が突然ぶっ放したアレか」


 アレは本気で死ぬかと思った。

 その事を思い出し色々とイーリアに説教してやろうかと思ったが、その前に横から一人の女性が飛び出してくる。

 

「ぬわああっ!? なんだあ!?」


「初めまして~。私、この街ブレイズの冒険者ギルドの受付嬢、クレイと申します~。冒険者の資格を取りたいんですか~?」


 何だかゆるい喋り方をする人だった。

 ロリっ娘体形にきちんとした制服を着ている。もふもふした長い赤髪を揺らしながら、クレイは笑顔を絶やさず俺の方を見てきた

 そして一言。


「なんだか冴えない顔の男性ですね~」


「いきなり言ってくれるなあお前!?」


 というか俺の顔も二次元化されてるんだよな? 確認しておきたいのだが。

 そんな俺の気持ちを察したのか、イーリアがポケットから手鏡を取り出して俺に渡してくる。

 そこに映し出されたのは、やたらと目つきの悪い気だるげそうな男の姿だった。


 ……これはまあ……冴えない顔と言われても仕方ないか、うん。

 どうせならもっとイケメンに生まれ変わりたかったのだが。

 俺は相変わらずニコニコ顔のクレイに尋ねる。


「え、何で俺らの目的知ってんの、お前?」


「ふふふ、見た感じ冒険者って感じでもありませんし。何だかあなた方は見慣れない格好をしていますね~」


 まあそれもそうだ。

 パーカーでこの世界をうろつく冒険者なんているワケないもんね。 

 イーリアもイーリアで、羽衣なんて着てるし、珍しい格好という事に変わりはないのだろう。


「ではでは~。冒険者ギルドの方へご案内しますね~。今日は何だか男性の冒険者さんも多いので、注意して付いて来てくださ~い」


「あ、ちょっ……」


 そう言って、クレイは何の躊躇もなく喧騒の原因である男達の元へ突っ込んでいった。

 ……女性の冒険者は何処にいるのだろう。


       



 

 





 

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