第十八話「美少女妖怪との遊び方」
二人が案外あっさり目を覚ましてくれたので、顔面が瀬戸内海級に青くなっているイーリアに無理矢理辺りを照らさせながら、俺は引き続き森奥へと進む。
未だに現れないという事は、美少女妖怪達は人見知りなのだろうか。
と、二手に分かれた道が俺達の目の前に広がる。どっちに進もうかと俺が逡巡していると、ふと右の道の遠くに金色に光る双眸が見えた。
……何だろうアレ。
「も、もういいです……もう嫌です……もう無理ですからぁ……」
「お前は取りあえず落ち着け。……なんか知らんが近づいてくる。どうする? 引き返すか?」
「い、いやあれ、見た感じ人っぽいよ? いざとなったら私の最上級魔法で……」
「ごしゅじん様ごしゅじん様、ひょっとしたらアレがごしゅじん様の言っていた美少女妖怪とやらではないのですか?」
そんなレイの予想は的中した。
やがて暗闇からハッキリと姿を現したのは、キツネ耳に着物……という、金髪の美少女だった。
小首を傾げながら、少女はこちらの方をじっと見つめている。
……ヤバイ、この子超可愛い! 尻尾も生えてる! 二次元世界最高!
俺が半ば感動しながら、その少女を見ていると。
「……誰ですか? おじさん達」
「初対面の時のシャーラと同じ様な事言ってない!?」
幼女からしたら、俺はおじさんに見えるものなのだろうか。いやでも、この子別にロリってワケでもないと思うんだけど。二次元男化して何故かさらに増した俺の無気力オーラのせいかなあ。
それにしてもこの子、可愛いなあ……。獣耳って、ホントいいよなあ……。
ニヤニヤしている俺の様子を見て、レイがほうと軽く息を吐きながら少女の前に出る。
「どうやらあなたは、ごしゅじん様の眼鏡に適った様ですね。まあ、あなたよりも私の方がごしゅじん様の事について知っていますが。夜お風呂場で女湯の方に耳を研ぎ澄ませていたりだとか、前の女性客の匂いが布団についてたりしてるんじゃないかと思って顔を布団にうずめてたりだとか、そう、あなたより私の方が上なのです!」
「うぉぉおい!? お、お前なんで知ってるんだ……じゃなくて、俺はそんな事なんかしてない!」
金輪際一切覗きはしないとあの時誓ったものだが、やはり女湯の方は気になってしまうものだ。
ちなみに布団を嗅ぎまくっていたのも事実である。
「ってか、お前なに? なんでこの子と張り合いたがるの? ひょっとして俺の事をちょっと気になり始めてたり?」
「……それは、その……。……レンがこの子見てにやにやしてるから……ちょっとむっときたというか……というか、今はそれはどうでもいいのです! ともかく、私が上なのです!」
口を尖らせながらそっぽを向き、再び一方的に少女に啖呵を切るレイに、俺はぼそぼそと言われたせいで聞こえなかった部分を執拗に問いただして言及させてやりたくなる。
キツネ少女はレイの慇懃無礼と一方的な説教に耐えられなかった様で、双眸の輝きを強くしながらレイに言い放った。
「あなたは何ですか? ご主人様だの何だのと、色々言っていましたが……子供が夜の森に出歩いたら危ないですよ? 先程も何やら騒がしい冒険者達が通って行った様ですが、あなた達もですか?」
「なっ……! 私だって夜の森ぐらい歩けるぞ! というか、子供扱いするなっ!」
胡乱な眼を向ける少女に、とうとうレイが素の口調に戻って怒り始める。
いや、先に喧嘩売ったのはレイだし、ただのマッチポンプだと思うのだが。
というか、ここまでご主人様敬語を持続させられてきた事も何気に凄いと思う。
「いやあ、女の子二人の喧嘩は見てて楽しいな。レイとシャーラのコンビもいいけど、こっちも中々いい。しかも原因はレイの俺に対する好意だし」
「いや、事の発端をたどれば蓮さんがあのキツネっ子を見てニヤニヤしてた事だと思いますけど。よくよく考えてみれば元凶は蓮さんじゃないですか?」
「……」
……あれ、言われてみれば確かに。
■
「むっ……待つのだ、貴様! 私の必殺魔法で一撃に……!」
「捕まりませんよ! 私は、あなたの様な幼い子に負けるつもりはないのです!」
「何だなんだ? 何やら楽しそうな事をしているが」
「私達も混ぜてー!」
―――この状況は一体どうしたものだろうか。
あれほど喧嘩していたレイとキツネ少女は、今やすっかり意気投合し、夜の森での鬼ごっこに没頭している。
そんな二人を見かねて辺りを徘徊していた美少女妖怪達も集まり、ソイツらもイーリアとシャーラと仲良く鬼ごっこをしていた。
アイツら散々言い合ってたクセに、なに数分後に仲良くなっちゃってんだよ、意味分かんねえ。
遊ぶのはまだいいが、何でこの夜の森の中鬼ごっこなのだろう。
辺りが暗いし皆目だけ光ってるしで、非常にシュールな絵面なのだが。
「レンはやらないのー? 皆で鬼ごっこ楽しいよ?」
「……遠慮しとくわ、なんかもう俺今日は色々疲れた……」
「……ご、ごしゅじん様……もしかして私の言葉遣いも、あまり意味ありませんでしたか?」
「いやそれだけは意味大ありだわ」
レイのごしゅじん様呼びがなかったら、多分最高状態までに俺は疲弊していたんじゃないだろうか。
森の中で走る美少女達を眺めながら、俺は自分の体力の衰えを実感する。
アイツらよくあんなに走れるな……。若さってすげえ。いや、俺もまだまだ若いとは思うけど。
というか、俺は純粋に美少女妖怪達と戯れたかっただけなのだが、まさかこんな事になってしまうとは。
「……あ、あの! ちょっといいですか?」
俺が大木に腰かけ黙々と剣の手入れをしていると、一通り遊び終えて満足した様子の、先程のキツネ少女が話しかけてきた。
「ん、どした? 何か用か?」
「い、いえ、その……あなたがパーティーのリーダーだと、皆さんから聞いたので……」
「……?」
俺はリーダーなんかになった覚えはないのだが。
俺達はチラと、楽しそうに走り回っている三人を一瞥する。
すると三人は視線に気付いた様で、こちらを振り返ると……。
『……無視です、無視。無視を決め込むんです』
『無視だな、無視』
『分かった、無視だね』
―――そうボソボソと話し合った後、そのまま何事もなかったかの様に、再び楽しそうに走り出した。
……大方この子に「パーティーのリーダーは誰ですか?」とでも聞かれて、押し付け合いになって、誰もやりたくないってなったから、最終的に俺に任せる事にしたのだろう。
「……『アース・ホールド』。そうだよ、パーティーのリーダーは俺だ。何か用か?」
遠くで誰かの悲鳴が聞こえた様な気がしたが多分気のせいだろう。
「い、いえ、えっと……あなたにお礼を言いたくて。私、ずっとこの森で暮らしていたから、冒険者さん達と遊ぶのなんて初めてだったんです。その……レイさんとも、ちゃんと仲良くなれましたし、とっても私、楽しかったです」
「……そうか。でもそれは俺だけじゃなく、アイツらにも言ってやってくれよな。なんだかんだ言って、アイツらも楽しそうだし、俺からも礼を言っとく、ありがとな。それと―――」
俺はそこで、一旦言葉を区切ると。
「また機会があったら、いつでもここに来るからさ。その時は俺も参加するから、また皆で遊ぼうぜ」
「―――はい!」
そう言ってキツネ少女は、屈託ない輝いた笑顔を浮かべた―――。




